現在はデスクトップオーディオとして使用され、本番待ちのツアラーセットですが、その核となる「ミニワッター ツアラー part4」についてぼちぼちとご紹介していきます。

 

 そもそも「ミニワッター」とはアンプビルダー(と言ってよいのかな)の ぺるけ氏が発案した小出力アンプのことで、『メインシステムのように大げさではなくて、作業をするデスクの上とか、寝室とか、居間で本など読みながらとか、静かに音楽が鳴らせる小さなシステム』(ぺるけ氏HPより引用・以下同様)を構成するアンプとして設計されています。

 

 ●ミニワッター 巻頭言 http://www.op316.com/tubes/mw/preface.htm

 

 当初は出力段の増幅素子として特性のよい「真空管」を使用したアンプからプロジェクトはスタートしますが、現在では「トランジスタ」を使用したアンプも発表されています。

 

 ●Mini Watters http://www.op316.com/tubes/mw/index.htm

 

 またトランジスタ版の「ミニワッター」は高音質でありながら小出力のため、オーディオアンプとしては消費電力が極めて低く(通常使用するメインのアンプに比べて10分の1以下程度)、小さなACアダプタでも稼働します。そのため「ミニワッター」の派生形として旅行や出張へ持ち出せるトランジスタ版の「ツアラー」バージョンも数々発表されました。

 

 ●Tourer Audio http://www.op316.com/tubes/tourer/index.htm

 

 今回僕が製作したアンプはツアラーとしては最新版の「ミニワッター ツアラー part4」というものです。ぺるけさんよりACアダプタとケースを除く主要部品の頒布を受け、基本部分はオリジナルにできるだけ忠実に仕上げました。

 

 ケースはぺるけ氏推奨の タカチHIT13-3-13、その名の通りW13cm×H3cm×D13cmの小ささですが、アルマイト仕上げでなかなかの質感です。CDケース3枚分の容積とプロポーションです。左右にアルミのヒートシンクがついて自然放熱をねらっています。

 

 ●タカチ HITシリーズ http://www.takachi-el.co.jp/data/catalog/catalog08.html

 

 前面はボリュームノブとRCAのピンジャック入力のみ。

 ボリュームの軸は5ミリほどカットしてノブを後退させ、デザイン的に落ち着くようにしています。また、このミニピンジャックに挿せばその入力が増幅されます。挿していないときは後面のUSB入力が有効になります。

 天板にはDCバランスを調整する半固定抵抗を回すための穴(手前)が2つと、トランジスタのヒートシンク上に通気用の穴(奥)を4つ開けました。パイロットランプのLEDも基板に直接ハンダ付したものの頭を天板から出しています。

 

 

 

 後面パネル部分、右からUSB入力(TYPE-B)、DC入力(12V・1A以上)、バスブーストスイッチ、スピーカ端子です。USB-DACアンプとして使う場合にはこちらのUSB入力にPCなどからつなぎます。外出先ではこちらのUSB入力にはiPhoneを接続します。バスブーストは『100Hz以下で5~6dB程度の低域のブーストを行っています。』とのことですが、接続するスピーカによって使うかどうか決めればよいと思います。スピーカ端子はメインスピーカで普段使っている太めのVVFケーブル(屋内配線用単線)がスムーズに接続できるようなものを使用しました。外出先ではミニスピーカにバナナ端子でつなぎます。

 

 

 天板を開けますと基板が3枚収まっています。一番奥の緑の基板がUSBアイソレータ、左の黒い基板がUSB-DAC、手前の茶色い基板がミニワッターアンプ基板です。ボリュームはスペースが小さいことと音質への影響から、導電性プラスチックポテンショメータ(50kΩ・対数)Vishay(ビシェイ)社のP9Aシリーズにdigitのボリュームサブ基板を組合わせました。

 

 ●P9Aポテンショメータ http://jp.rs-online.com/web/p/potentiometers/5042740/

 

 こちらはLTM2884 USBアイソレータです。PCなどのUSB入力から流入するノイズをこの基板で絶縁します。データライン(D+、D-)のみならず、電源ライン(VCC、GND)についても絶縁できますので、USB接続で一番問題となるデジタルノイズ対策としては有効ではないかと思います。DC入力端子もありますので、こちらからアンプ基板のDC入力(12V)を分岐させました。この基板はオリジナルのツアラーには装着されていません。

 

 ●LTM2884 USBアイソレータ・モジュールキット https://strawberry-linux.com/catalog/items?code=12284

 

 

 こちらは秋葉原の秋月電子通商の「USBオーディオDAコンバーターキット Rev.C」です。キットのまま組み立てると高周波ノイズがアナログラインに乗ってくるのであまりよろしくない音質だそうですが、ぺるけさんの実験により基板上のコンデンサやLPF(ローパスフィルタ)の抵抗器・インダクタの最適な定数が判明していますので、その推奨値に従いました。スペックはいわゆるハイレゾ対応ではありませんが、非常にコンパクトかつ安価でありながら高音質です。ご覧のとおりコンデンサの銘柄は気分で変更しています。

 

 ●AKI.DAC-U2704 REV.C http://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-05369/

 

 メインのアンプ基板です。DAC用のLPF(ローパスフィルタ)とアナログのアンプ部分が載っています。差動2段SEPP-OCLという回路形式のものです。ぺるけさんによって年々改良がすすみ4代目の回路です。正直詳細はわかりません。今は実体配線図通り組み付けるのが精いっぱいなので、これから勉強していきます。

 調整箇所は中央の青い直方体の半固定抵抗(10Ω)のみです。スピーカ端子にテスタを当てながら頭の金色のネジを回して直流電流が流れないようにします。

 

 ●トランジスタ式ミニワッターpart4<USB DAC内蔵ミニワットツアラー> http://www.op316.com/tubes/tourer/tourer-p4.htm

 

 トランスがありませんので、非常に軽量の480gです。

 

 肝心の音質ですが、完成後数日後のエージング中という段階なので変化する可能性がありますが、メインスピーカ(10cmオシドリタイプバックロードホーン)に接続して試聴してみた限り

 ・ノイズがなく非常に静か

 ・音数(おとかず)が多くスピーカからの音離れがよい

 ・定位もはっきりしているので左右・奥行がつかみやすい

 ・ひずみが非常に少ないので聴き疲れしない

というぺるけ氏設計の差動アンプに共通したキャラクタが感じられます。

 

 それに加えて、トランジスタアンプらしく

 ・低域(低い周波数)が無理なく伸びている

 

 先に製作した真空管バージョンのミニワッター(6N6P 2014バージョン)と比較すると、ツアラーはfレンジは広いけれどややあっさりした表現かもしれません。

 さしずめツアラーは「すっぴん」、6N6Pミニワッターは「薄化粧」という感じですかね。

 音楽としての「生っぽさ」「ライブっぽさ」は6N6Pのほうが出ますが、ツアラーのほうはソースの差を鮮明に出すので「製作者の意図にはこちらのほうが近い再生になっているかもしれない」と思わせます。また後日気が向けば比較試聴をしたいと思います。

 

 いずれにせよ、これだけコンパクトなパッケージで、かつこれだけ安価な原材料で製作されているにもかかわらず、数十年来のオーディオマニアも納得させる高音質を引き出すぺるけ氏の手腕はまことに素晴らしいと感心しています。