統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか?/門倉 貴史

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この本は、公に発表される統計データが、なぜわれわれの実感とズレるのか、その原因を探ったものです。

第1章 「平均」に秘められた謎(「平均」という「記述統計」
男性の好みは平均顔の女性? ほか)
第2章 通説を疑う(「みせかけの相関」にだまされない
グレンジャーの因果性テスト ほか)
第3章 経済効果を疑う(誰でも簡単にできる経済効果の推計
生産誘発額 ほか)
第4章 もう統計にだまされない—統計のクセ、バイアスを理解する(景気判断の方法
なぜ私たちは景気の回復を実感できないのか ほか)
第5章 公式統計には表れない地下経済(経済の本音とタテマエ
「善女のパン」 ほか)

□ 統計のズレの原因1 計算の仕方
「平均」の取り方によって平均値が実感とずれることがある。
① 世帯の平均貯金残高は1728万円
⇒高所得者層が平均を押し上げている
② 地方自治体の豊かさ指標
⇒移住者の多い埼玉県が全国最低に
③ 平均寿命、生涯未婚率、少子化
⇒独特の計算方法があり、その特徴を知ることが必要

□ 統計のズレの原因2 ニセの相関関係
統計の原因が、実は別の事象に後押しされていることがある。
① 割れ窓理論の有効性
・ ニューヨークでの犯罪抑制に一定の成果があった?
⇒景気動向が犯罪発生率抑制に相関した可能性がある
ブルーオーシャン戦略では絶賛された事例なのですが、その成果の解釈には幅があるようです。
② 有効求人倍率の上昇
・ 有効求人倍率は景気回復を背景に上昇している?
⇒有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数、という計算式があり、
有効求人数は企業OBがハローワークに再就職することで増加傾向にある、一方で
有効求職者数は就職活動の多様化(インターネットなど)により減少傾向にある
したがって、有効求人倍率は上に振れやすいはず
③ サラリーマンの年間労働時間は1800時間
・ 残業時間の抑制に成功している?
⇒労働時間の短い非正社員が算入されている。正社員の労働時間は2028時間でまったく改善されていない。さらにサービス残業は含まれておらず、サービス残業時間は増加傾向にある。
⇒サービス残業の蔓延は、雇用に悪影響を与え、消費を抑制させてしまう!

□ 統計のズレの原因3 経済効果
経済効果の数字は結構いいかげん
・ 経済効果は新規需要を計算し、これによる産業の生産誘発額を行列計算で計上している。
・ 「効果」を高めようという意識的なバイアスがかかりやすい
① ワールドカップが横浜市内に与えた経済効果は256億7600万円
⇒エリアを限定しているため、信用できる経済効果
② 父の日の経済効果1825億円、母の日の経済効果2377億円
⇒父の日や母の日は特需ではないので試算する意味がない
③ 阪神タイガースの優勝による経済効果6355億円
⇒他球団のファンのマイナスの経済効果、阪神ファンが応援やグッズを買うことによってそのほかの分野での消費が抑制されてしまうという代替効果が考慮されていないため、数字は疑問。

経済効果を算出するシンクタンクは、銀行の子会社が多く、マスコミに名前が多く出るように、プラスの経済効果をはじいたり、おもしろ経済効果を発表することがある。こうしたシンクタンクの数字は信用できない。

□ 統計のズレの原因4 統計のクセとバイアス
・消費者物価指数CPI
家計の消費支出において1万分の1以上のウェイトを占めるものやサービス596品目を選定し、ある基準(5年ごとに改定)を100として、その水準を求めたもの

⇒クセとバイアス(ボスキンレポートによる、米国CPIの分析)
① 代替効果バイアス 
・CPIはラスパイレス型で計算されているため、消費者の代替え行動を反映していない。
⇒CPIとパーシェ型で計算するGDP統計の家計最終消費デフレーター乖離の原因
② 小売店販売形態間の代替バイアス 
・ より安い店に消費者が集まる行動が反映されていない
③ 品質調整バイアス 
・ ものの価格の上下に、ものの性能の上下が反映されていない
④ 新製品登場バイアス
・ 新製品が、市場に供給された直後に大幅に値を下げる傾向が反映されていない。

以上のバイアスによって合計で1.1パーセントの上方バイアスが観察される。
日本のCPIを計算した場合には、平均で1.03パーセントの上方バイアスが観察される。

□ 統計のズレの原因5 地下経済
・地下経済とは・・・税制その他さまざまな政府の規制から逃れ、GDPなどの公式統計に報告されない経済活動(ただし地下経済の定義は種種ある)
・ 日本の地下経済の大きさは、通貨的アプローチによると2004年で22.4兆円と推定される。そのうち約70パーセントが脱税。こうした見えない経済活動が、経済全体に影響をおよぼすことがあり、経済動向を読み間違える原因となることもある。

■総評
読みやすさ:★★★★☆
統計データの持つバイアスをわかりやすく書いており、第四章は多少専門的ですが、数式に悩まされることなく読み進めることができます。

斬新性:  ★★★☆☆
切り口が斬新というわけではありませんが、統計データを参考にする際に、念頭に置くべきことを押えることができます。

読み直すべき頻度:★☆☆☆☆(じっくり一読)
一度しっかり読めば身につくのではないでしょうか。

お薦め度:★★★★☆
すぐに読めて、たいへんためになる本なので、おすすめです。