人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)/トーマス ギロビッチ

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この本は、人間が起こす誤信や迷信について、なぜそれが起きるのか、豊富な事例を示し、認知的な原因や心理的な原因、さらに社会的な要因からそのメカニズムを考察したものです。


目次

1.はじめに
第I部  誤信の認知的要因
2.何もないところに何かを見る :ランダムデータの誤解釈
3.わずかなことからすべてを決める :不完全で偏りのあるデータの誤解釈
4.思い込みでものごとを見る :あいまいで一貫性のないデータのゆがんだ解釈
第II部  誤信の動機的要因と社会的要因
5.欲しいものが見えてしまう:動機によってゆがめられる信念
6.噂を信じる :人づての情報のもつゆがみ
7.みんなも賛成してくれている? :過大視されやすい社会的承認
第III部  いろいろな誤信の実例
8.種々の「非医学的」健康法への誤信
9.人づきあいの方法への誤信:動機によってゆがめられる信念
10.超能力への誤信
第四部  誤信を持たないための処方箋
11.誤信への挑戦 :社会科学の役割

□誤信の認知的要因
・人間の認知方略は、現実世界の混乱したデータを処理するのに対して非常に不完全である。

1.バスケットボールの選手は、ショットの成否が「波に乗る」ことに大きく左右されていると信じている。2本ほどショットを決めると、その成功によって次も入りやすくなると信じている。
ところがショットの成否を調査し、ショットの連続的な成功確率を求めたところ、各選手の各ショットが決まるか決まらないかは、その前のショットの成否とは独立であることがわかった。

2.第二次世界大戦中、ドイツのロケット弾がロンドンを攻撃した際に、ロンドンの住民たちは着弾箇所には一定の傾向があり、市内のある地域は別の地域よりも危険度が高いと考えいていた。
しかし大戦終結後の分析の結果、ロケットの着弾点はランダムなものだったことが明らかとなった。

3.イスラエルの北部で、原因不明の死が相次いだ。こうした死の増加が死亡率の変動の範囲内かどうかは調べられなかった。ユダヤ教のラビたちは、その原因は以前は禁じられていた女性の礼拝への参加であると断じて、葬儀への女性の参列を禁じた。その後教令は実行され、死人の頻発はおさまった。
⇒死の頻発と女性の葬儀への参加に因果関係はあったのか?

4.逆方向行きのバスばかり多く来る、と感じてしまう。これは、自分の行きたい方向のバスが1台来るまでの間に、逆方向行きのバスがたくさん来るのを見るのが多くて、その逆はないため(自分の行きたい方向のバスが来れば、それに乗ってしまうから)。
経験の非対称によって、「悪いことの連続」をしばしば経験してしまうことがある。
⇒一面性の経験により、信念や信仰の妥当性が強められてしまうことがある(奇跡的なことが起これば、そればかりが記憶されて、奇跡的なことが起こらなかった可能性が無視されてしまう。)

⇒人は何もないとのころに、なにかを見てしまう。偏りがあれば傾向と錯誤し、ものごとの因果関係を見出してしまう。この偏りの錯誤と回帰の誤謬が絡み合って、いっそう強固な誤信が形成されてしまうことがある。

□誤信の動機的要因と社会的要因

1.希望的観測や自己満足のために現実をゆがめてしまう
⇒人間の欲求が認知的なプロセスと共謀して誤った自己満足的な考えを生み出すのはなぜか
⇒一般大衆の大半は、自分が平均以上に知能が高く、平均以上に公平であり、平均以下の偏見しか持たず、そして、平均以上に自動車の運転がうまいと思っている。(自分勝手な基準にもとづく能力評価と自分に甘い自己評価)
自分のこうしたいという認知の偏りが、情報の集め方に影響を及ぼし、我田引水的な結論を導いてしまう。

2.人づての情報が事実を歪めてしまう
情報を面白くしたり、有益にしようという動機から、事実に脚色が加えられてしまう。ゴシップ記事からマリファナやゲームの害を説く宣伝にいたるまで、情報が誇張されてしまう。

3.自分の信じていることはメジャーな信念である、という思い込みが事実を歪めてしまう
・フランスびいきの人は、フランス嫌いの人が考えるよりも、フランス文化が人に好まれていると考えてしまう⇒総意誤認効果
・他人からのフィードバックはあてにできない(誰でも面と向かって相手が嫌がることはいわないため)
⇒その結果、「自分にはハンディキャップがあると主張してしまう」「自慢話をしてしまう」「知識をひけらかしてしまう」「長話をしてしまう」といった対人関係に対する方略が裏目に出ながらも、いつもまでも直らない・・・。

□誤信を持たないために日ごろから気をつけるべきこと
1.2×2分割表をつくり、相関関係を検証してみる
例)養子をもらうと妊娠する
A.養子をもらって妊娠した
B.養子をもらって妊娠しなかった
C.養子をもらわなくて妊娠した
D.養子をもらわなくて妊娠しなかった

A~Dの事実をならべて共変関係を正しく理解するべき。起こったことに対して起こらなかった可能性と、その確率を考えてみる必要がある。

2.ひとづての情報は情報源をよく確かめる。
・専門家の発言でも、部分的な引用によって誤解を生むことがある。また未来の予測はあてにはらなない。
・専門家はそのものズバリの予測はしない。数字の誤差を述べていない場合には、注意が必要
・生の証言は個人の意見であって、どれくらいほかの人々に広がっているかはわからない。

3.逆の場合を考える
・あることが起こり、自分の信念が補強されたと感じたときには、
「まったく逆の結果が起こったと考えてみよう。そんな逆の結果だとしても私の信念が支持されたと解釈するだろうか?」あるいは「別の理論ではこれをどう説明づけるか」と問いてみる。

■総評
読みやすさ:★★★☆☆
実例が多くひいてあり、そうした点では「第1感」と似たような構成なのですが、なぜか読みにくい感じがします(翻訳のせいではありません。本書の翻訳はよく工夫されていると思います)。あるいは読み手にとって、なかなか耳の痛い話だからかもしれません・・・。

斬新性:  ★★★★☆
誤認をここまで分析した本はなかなかないのではないでしょうか。豊富な実験データに裏づけられているため、本書をまとめる上での著者の努力が伺えます。その努力に違わず、斬新な内容となっていると思います。

読み直すべき頻度:★★★★★(毎日)
誤認に対する態度を常に持ち続けるためにも、毎日読み続ける価値のある本です。
目次を流し読みするだけでも意味があるかもしれません。

お薦め度:★★★★★
この本がためにならない人はいないはずです。