来ヶ谷唯湖の恋愛相談室

来ヶ谷「…直枝理樹に捧げる奇想曲をお送りしました」
 いつもどおり、昼休みは放送室で過ごす
 放送を適当に流しながら、私は思案していた
来ヶ谷「…ふむ、そうだな」
 楽しむメンバーは多い方が愉快だ
 今日最後になる曲を流しつつメールを打つ
来ヶ谷「あとは、どうするかだ」
 …
 ……
 ………

来ヶ谷「これでお昼の放送を終わります」
 曲が終わるといつものアナウンス
 コンコン
 そしてノックの音
来ヶ谷「どうぞ」
 私はいつもどおり事務的に声をかける
恭介「よ、お前が呼び出すなんて珍しいな」
来ヶ谷「ああ、ちょっと難儀な案件をかかえてな」
恭介「来ヶ谷が難儀なら俺にも荷が重いんじゃないのか?」
来ヶ谷「そうじゃない。楽しくなりそうなので手伝って欲しいだけだ」
 ちょっと策を練ればたいしたことはないものだが、折角なので被害者から加害者にさせてもらいたい
恭介「理樹がらみか」
来ヶ谷「うむ、そういうことだ」
 さすがに話が早い
恭介「…なるほどな。俺より真人や鈴じゃダメなのか?」
来ヶ谷「いや、キーマンは恭介氏にするようにとクライアントから要請だ」
恭介「ほぅ…なんだか燃えてきたな」
来ヶ谷「このメモにクライアントの要請が書いてある。目を通してくれ」
 私は極めて機械的にメモを差し出す
恭介「お前たち本当に好きだな。俺も混ざっていいのか?」
来ヶ谷「ああ、かわいいものは好きだよ。私は
 ん、このセリフ懐かしいな…
恭介「よぅし、テンションあがってきたな!真人や謙吾にも頼んでみよう」
来ヶ谷「あ、いや…そこまでしなくても…」
恭介「おっと、予鈴だ。じゃあ今夜にでも早速決行するぜ」
 いうだけいって去っていった
来ヶ谷「さて、私は仕事を詰めるだけだな」
 私も立ち上がり、放送室を後にする


~理樹・夜~

 僕は宿題をしている
 隣で大男の出す吐息の中で集中できるんだから大した集中力だと思う
真人「よし、腕立て1000本終わりっ。今日はこのぐらいにしておいてやるぜ」
 真人が床を眺めてそう呟く
理樹「床と話をするのはやめなよ、気味が悪いから」
 そう声をかけて気づいた。僕はバカだと
真人「じゃあ、理樹に話しかけることにするぜ」
理樹「ええー。僕、宿題してるんだよ」
真人「待った。俺も写しながら話しかければ不自然じゃねぇ」
理樹「あ、それもそうだね…」
真人「ところで、終わったら何して遊ぶんだ?」
理樹「そうだねぇ…。肝試しって季節じゃないし、人形劇もやっちゃったし、何しようか…」
真人「恭介に聞いてみるか?」
理樹「いや、恭介も就活に忙しいんじゃない?」
恭介「はっ、俺をなめるなよ」
 いきなりドアが開いて恭介が入ってきた
理樹「え、まだ宿題終わってないから後でね…」
恭介「…」
 そのまま去っていこうとする
恭介「そうか、俺は今まで理樹の勉強の邪魔ばかりしてたのか…そうだよな、理樹は真人や謙吾と違って頭脳派だから勉強して進学しないとな」
 ものすごく落ち込んでいる!
 そこへ・・・
謙吾「なんだとぅ」
 謙吾の声
謙吾「恭介、俺まであの筋肉と一緒とはどういうことだ」
香里「言葉どおりよ」
謙吾「なんだとぅ。シスコンなワカメ頭の女に筋肉呼ばわりされる筋合いはないっ!」
理樹「ああ、謙吾ごめん。僕のケータイだ」
真人「着ボイスかよ…」
恭介「理樹の着ボイスのセンスを疑うな…」
理樹「ええーっ」
謙吾
真人「「「そこ、ええーっ言うな!!」」」
恭介
 三人のツッコミが綺麗にハモる
 …それから何故か僕の着ボイスについて延々語られるハメに
恭介「理樹、お前は男だろ。ここは男らしく…」

往人「さぁさぁ、楽しい人形劇の始まりだぞっ!」

恭介「っていうのはどうだ」
理樹「そんなの、緑川ファンにしか通用しないんじゃない?」
恭介「…そうか、緑川ボイスは理樹の趣味じゃないんだな…俺、こんな声ですまなかったな」
 しまった、言い過ぎた!
真人「俺は…」

柳也「神奈ァッ!飛べ!!もっと高く飛ぶんだ!!」

真人「…がいいと思うが」
理樹「それ、マイナー過ぎてみんな引くよ」
真人「そうか…マイナーなんだな…俺、そんな声もできてすまなかったな」
 ええっ、そこが凹むとこ!?
恭介「謙吾は?」
謙吾「俺か?そうだな…」

来ヶ谷「フハハハハハ怖かろう!」

真人
恭介「「「怖いわッ!!」」」
謙吾
 またツッコミがハモる
理樹「来ヶ谷さんってそんなに怖いかな…」
真人「ああ、理樹もあいつのキックコンボを全て食らってみればわかるぜ」
謙吾「マシンガンを全弾急所に当てられてみろ」
恭介「メテオやバハムート召喚されてみたほうがいいかもな…」
 そんなことあったっけ…
理樹「カッコいいし、頼れるし、可愛いところもあるじゃん」
恭介「…」
謙吾「…」
真人「…」
 全員フリーズした
恭介「やっぱり、お前は勇者だよ」
理樹「そうかな…」
真人「で、勇者様の着ボイスがあんなのとはどうなんだ」
謙吾「そうだな」
恭介「ああ、そうだったな…俺の案だが…」

芳野「これが…俺からの贈り物だぁーーーッ!!」

真人「スカしているが、カッコ良さでは抜群だな…」
理樹「緑川ボイスは譲れないんだね…」
恭介「いや、緑川ボイスを否定されたら俺自身も否定される気がしてな…」
謙吾「ここはギャグっぽくこんなのはどうだ」

春原「よう、岡崎。…それと便座カバー」

真人「それだーっ!」
恭介「それだーっ!」
 ないないない

理樹「で、恭介は僕の着ボイスについて語りにきたの?」
恭介「おっと、そうじゃない。実は商店街からイベントの要請があってな…」
謙吾「ほう。活動すること10年余。リトルバスターズも有名になったものだ」
恭介「次のミッションは今度の休日に女装メイド喫茶店を開くこと」
理樹「ええー」
真人「へぇ面白そうじゃないか」
謙吾「巫女はだめなのか?」
理樹「ちょ、真人も謙吾もやる気なの?」
恭介「俺たちリトルバスターズが地域のみなさまに貢献できるチャンスだ。やるに決まっているじゃないか」
真人「まぁオレたちには女装子アイドルがいるしな…」
 真人がいうと三人の目がいっせいに僕をみる
理樹「ええーっ、僕!?」
謙吾「お前以外にいるのかよ…」
理樹「そ、それは恭介とかどうかな…」
 そんな役嫌だ。せめて誰か生贄を増やさないと
恭介「え、俺かよ…」
真人「俺はいいと思うぜ」
謙吾「俺や真人より恭介の方がいいんじゃないか」
 筋肉コンビも賛成してくれた
理樹「恭介がやってくれるなら、僕も頑張るから」
恭介「じゃ、オーケーだな。服は用意してあるから、着替えて食堂に集合!」
理樹「いやいやいや。食堂じゃ先生とかにみつかったら大変だから」
恭介「おっとそうだったな。この時間じゃ教室に忍びこんだ方がいいか。理樹、リトルバスターズ召集だ」
理樹「うん、みんなに一斉メールしてみるね」

 しばらくして教室に全員揃う
クド「わふー…おふたりともとてもぷりちぃなのです…」
小毬「うんうん、二人ともとってもかわいいね~」
葉留佳「くぅーっ、女の子として自信をなくしてしまうのですヨ…この女性の敵めぇ…」
来ヶ谷「…うむ、満足だ」
美魚「眼福、眼福」
 今、僕と恭介はメイド服を着て女子の前に立っている
 よくよく考えてみたら変態だ…
謙吾「…並んでみると、女子と変わらんな」
真人「ああ、一部始終を知らなければ俺の筋肉でも中身が恭介や理樹だってわからねぇ…」
理樹「いやいやいや。筋肉は関係ないでしょ」
来ヶ谷「どうかね、二人のできは。私は理樹君の方がかわいいと思うが」
美魚「そうですね、ですが恭介お兄さんのクールっぷりがステキだと思います」
小毬「う~ん…理樹くんもかわいいけど、きょーすけさんの方がクールビューティって雰囲気があっていいかな。ゆいちゃんっぽいよね」
来ヶ谷「いや、ゆいちゃんと呼ばれたくないし、恭介氏と一緒にされたくもない」
葉留佳「なんだとぉー。はるちんの唯ねぇを馬鹿にするなぁーっ!はるちんは唯ねぇのファンクラブ会員第一号ですからネ…でも、恭介くんのほうがクオリティ高いかな」
理樹「…そうなんだ」
 そう、いつだってそうだ
 いつだって、恭介はカッコいい
 いつだって、恭介がいいところを持っていく
 それに比べて僕は…
恭介「理樹、どうした」
 そんな僕の気持ちも知らず、恭介は話しかけてくる
 恭介はいつだって僕に優しい
 恭介はいつだって僕よりカッコいい
 僕は女の子になっても恭介にかなわないんだろうか
 そんなのは嫌だ…
 僕は…僕は恭介に勝ちたい…
 そう思って僕はうつむく
恭介「理樹、大丈夫か?」
 僕の大好きな人の声が聞こえる
真人「おい、理樹。しっかりしろ」
来ヶ谷「理樹君、聞こえるか?」
 僕を心配する声が聞こえる
クド「リキ、いつもの病気ですか?返事してください、リキ!」
葉留佳「理樹きゅん、理樹きゅん、おーい理樹きゅーん?」
小毬「きょっ、きょうすけさはぁ~~~ん。理樹くんがぁ~~~~」
 葉留佳さん、その理樹きゅんってのやめてよ
恭介「小毬、落ち着け。謙吾、真人。理樹を横にするんだ」
謙吾「ああ」
 うつむいていた僕の身体が教室に寝かされる
 みんなが僕を心配して顔を覗きこんでいるようだ
理樹(もう僕にかまわないでよ…)
 走り出して逃げ出せばいいんだろうけど、この格好で校舎を走り回る勇気はない
葉留佳「白雪姫は王子様の口付けで生き返りましたよね」
来ヶ谷「まぁあれは喉につまったリンゴを吐き出しただけだったと記憶しているが」
クド「この中でリキの王子様といいますとーえーと、えーと」
 なんだか葉留佳さんの一声で妙な方向へ話が進んでいるようだ
小毬「ほわぁ…理樹くんの王子様といえば…」
真人「ここでオレの筋肉がうなりをあげる…いくぜ、理樹!」
 筋肉、筋肉ーっと心で返事をする
謙吾「真人の筋肉でもだめか…」
来ヶ谷「…私が王女の唇を奪ってもいいか?」
葉留佳「ダメですヨ」
クド「ダメなのです」
小毬「ダメです」
美魚「ダメです」
来ヶ谷「むぅ…」
 来ヶ谷さんにキスされるんだったら、それはそれでよかったのかな…
恭介「ま、俺が言い出したことだ。俺が責任を取って理樹を嫁にもらおうか」
 恭介の爆弾発言
クド「そっそれはー…全国のリキファンが夢見てやまないことをキョースケさんが…」
小毬「りんちゃんをお嫁さんにもらえない気持ちはわかるけど、それは納得できないな…」
葉留佳「やいやいやい、幼馴染だかなんだか知らないが、みんなの理樹きゅんを独り占めしようだなんて、天が許しても唯ねぇが許さないぞう!!」
来ヶ谷「いや、私は別にかまわんのだが…」
美魚「私は棗×直枝なのでかまいませんけど」
葉留佳「みおちんも姉御もこのふいんきでその反応はナシーーーッ!!」
恭介「理樹、眠っている間にあったことだ。お前は何も覚えていない。それでいいんだ」
 恭介が呟いている
 そして、恭介の顔が近づいてくる
 恭介の吐息を感じる…
 ああ、恭介の唇が僕の唇に…
葉留佳「お、おお、おおぅ…これはドキがムネムネしますね…」
美魚「どきどき…」
小毬「ほ、ほほほほ、ほわ~…」
クド「なんですか、この百合の香りは…背景に薔薇の花が見えますっ」
 これは僕の危機なんだろうか
理樹「わぁぁぁ、ストップ、ストーップ!!」
 僕は飛び起きる
 みんなの目が点になり、僕をみつめている
真人「お前、大丈夫なのか?」
 真人が一番に口を開いた
理樹「大丈夫だよ…みんな、大げさなんだから」
 立ち上がってくるりとターンしてみせる
来ヶ谷「これはやばい」
理樹「え?」
来ヶ谷「もう一回、ターンしてみせてくれ」
理樹「う、うん」
 くるりとターンする
 エプロンとスカートがふわりと宙を舞う
謙吾「惜しむらくは…巫女ではないことだな」
 謙吾が喋った
理樹「どういうことかな…」
謙吾「何、恭介は確かに綺麗だが…」
小毬「今の理樹くん、とってもかわいらしかったよ」
クド「キョースケさんはカッコいいですが、リキ。かわいいですよ」
 かわいさ担当の小毬さんとクドに言われると照れてしまう
恭介「…理樹、俺はお前には勝てないな」
 恭介…
恭介「眠るお前を見たら女の子にしか見えなかった」
美魚「お二人の触れ合う唇を見たいと思ってしまいました」
 やった…僕は恭介に勝ったんだ…
来ヶ谷「私は恭介氏より理樹君の方が断然可愛いとずっと思っていたがな」
理樹「来ヶ谷さん…」
 いつだって、僕のことを信じてくれる来ヶ谷さん
 今日はいつもよりその姿が格好よく思えた
恭介「そういえば、鈴はどうした。今まで喋っていないみたいだが」
理樹「そうだね…鈴どこにいるの?」
 みんなで教室内に目を向ける
 その端に鈴の姿があった
小毬「りんちゃん、どうしたのー?」
 小毬さんが声をかける
 ちりん、と鈴を鳴らして鈴がこちらに向き直る
鈴「…」
 鈴の発する言葉に全員が注目する
鈴「…ド変態」
 一言だけ言って教室から去っていった
来ヶ谷「確かに、教室で女子生徒を前に女装するというのは変態以外の何者でもないな」
美魚「それも、楽しんでいるのですから、変態です」
理樹「ええーっ」
謙吾「変態二人を商店街の催し物に出すのはどうなんだろうな」
真人「オレの筋肉を出した方が良くないか」
 ないないない。
小毬「でも、きょーすけさんと理樹くんが女装趣味でもいいと思うな」
 小毬さん、あなたが神か
小毬「かわいいものはぁ~~~、ジャスティスなのです」
来ヶ谷「ま、そういうことなのさ」
謙吾「だが、変態二人を商店街の催しには出せないな」
クド「そうですね」
 こうして女装メイド喫茶は中止することに
理樹「恭介には勝ったけど、鈴に変態の称号をつけられちゃった…」
謙吾「恭介に勝てる変態…いい称号だな」
理樹「いやいやいや、最悪でしょ」


~来ヶ谷・翌朝~

 女装騒ぎの翌日、私は一人で食事をしている
智代「当然だ。付き合って不幸になどなってたまるものか」
 ケータイがメールの着信を知らせる 
 私はケータイを開いてそのメールを確認する

差出人:西園女史
題名:ミッション・コンプリート
本文:棗×直枝。鉄板ネタですが、生でみれて満足です。
 恭介さんの女装も見れて…眼福、眼福。
 ところで、来ヶ谷さんの計画はどこまででしたか?

 クライアントの案件を答えられて良かったとは思うが
来ヶ谷「どこまでが私の計算内か、それは教える必要がないのだよ」
 小さな声で呟き、昨日の出来事を回想して思うこと

 リトルバスターズは今日も平和だ