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リンパ浮腫
更新日:2013年01月25日 掲載日:2006年10月01日


 1.リンパ浮腫とは   2.リンパ浮腫の予防   3.リンパ浮腫の治療   4.「リンパ浮腫」のページの作成について 


1.リンパ浮腫とは

1)リンパとは?
体の中には、動脈と静脈のほかに「リンパ管」と呼ばれる管(くだ)があります(図1)。リンパ管は、全身の皮膚のすぐ下に網目状に張り巡らされていて、このリンパ管の中には「リンパ液」という液体が流れています。リンパ液は、タンパクや白血球などを運びます。また、腋窩(えきか:わきの下)や、首の付け根、そけい(脚の付け根)などには、「リンパ節」という豆のような形をした組織があり、感染やがんが全身へ広がることを抑える役割を持っています。

図1 表在リンパ管と深部リンパ管

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2)リンパ浮腫の症状
(1)リンパ浮腫の原因と発症時期
がんの治療において、手術でリンパ節を取り除いたり放射線治療によってリンパの流れが停滞することで、生涯にわたり腕や脚がむくむことがあります。このむくみをリンパ浮腫といいます。これは乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、皮膚がんなどの治療による後遺症の一つです。発症時期には個人差があり、手術直後から発症することもあれば10年以上経過してから発症することもあります。

リンパ浮腫は、がんの治療を受けた全ての患者さんが発症するわけではありませんが、一度発症すると治りにくいという特徴があります。軽いむくみであれば、自己管理をしながら普段の生活を送ることができますが、重症化すると生活に支障を来すことがあります。発症後は早い時期から治療を始め、悪化を防ぐことが重要です。

旅行や引っ越しなどで重い荷物を運ぶなど、無理をしすぎるとむくみのきっかけになることがあります。また、炎症をきっかけにむくみを発症することもあります。
(2)リンパ浮腫の症状
1.早期の症状
自覚症状があまりないのでむくみに気が付かないことがあります。リンパ液がたまって皮膚の厚みが増すと、それまで見えていた静脈が見えにくくなる、皮膚をつまんだときにしわが寄りにくくなるなどの症状がみられることがあります。

2.軽度から中等度の症状
腕や脚ががんの治療前と比べて太くなります。腕や脚がだるい、重い、疲れやすいなどの症状が出てきます。体の場所によっては、むくんだところを指で押すとあとが残ります。

3.重症化したときの症状
むくみが進行すると、皮膚が乾燥しやすい、硬くなる、毛深くなる、肘(ひじ)、手首・指・膝(ひざ)・足首などの関節が曲がりにくい、動かしたときに違和感があるなどの変化があらわれます。

一般的に、リンパ浮腫は痛みを伴わないことが多いのですが、むくみが急に進んだときには痛みを感じることがあります。
3)リンパ浮腫の起こりやすい場所
起こり方は人によってさまざまですが、一般的にがん治療後初期の段階でむくみが生じやすい場所は、乳がんの治療後では肘の上下、婦人科がん・泌尿器科がんでは下腹部、陰部、脚の付け根(内もも)の辺りです。最初はリンパ節切除術を行った場所に近いところ、つまり腕や太ももの付け根から徐々に手の先、足の先へと広がっていくことが多いです。

図2 がん治療後にリンパ浮腫が起こりやすい場所

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2.リンパ浮腫の予防

1)リンパ浮腫の有無と程度の確かめ方
「図2 がん治療後にリンパ浮腫が起こりやすい場所」を参考に腕全体、脚全体を目で見たり、手で触ったりして左右を比べて確かめましょう。
(1)静脈の見え方
リンパ液がたまって皮膚の厚みが増すと、今まで透けて見えていた静脈が見えにくくなります。
(2)皮膚の厚み
皮膚を指でつまんでみましょう。リンパ液がたまってくるとしわが寄りにくくなります。また左右で厚さが違ったり、腕時計やブレスレット、袖口のゴムのあと、下着や靴下のゴムのあとが残りやすくなったりします。

図3 皮膚をつまんで左右の厚みの違いを確認してみましょう

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(3)太さの違い
図4を参考にして、両方の腕または脚の太さを定期的に(1ヵ月に1回程度)計測しましょう。むくみの程度は朝夕で異なるので、同じ時間帯に同じ姿勢で測ることをお勧めします。

図4 毎回同じ場所で計測しましょう(図は測定場所の参考例です。)

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2)日常生活で気を付けること
(1)むくみの早期発見を心掛ける、(2)スキンケアを行う、(3)日常生活上での注意点を守るなどの自己管理が大事になります。
(1)むくみの早期発見を心掛ける
むくみがないかどうかを観察しましょう。
(2)スキンケアを行う
リンパ浮腫の発症や悪化のきっかけとなりやすい炎症を予防するために、以下のことに注意して皮膚の保護を行うことが大切です。
1.皮膚の清潔を保つために
・ せっけんやボディーソープは肌に合うものを使用し、よく泡立てて皮膚を優しく洗いましょう。皮膚のしわや指の間も洗い、よくすすいでから水分を拭き取りましょう。
・ 皮膚の病気は治しておきましょう。
・ 下着は小まめに取り換えましょう。
 
2.皮膚の乾燥を防ぐために
・ 皮膚が乾燥すると皮膚の保護機能が低下し、細菌感染を起こしやすくなるので、手荒れ、肌荒れ、さかむけ、指やかかとのひび割れに注意し、保湿剤を使用して常に潤いのある状態にしておきましょう。
   
3.皮膚を傷付けないために
・ 擦り傷、切り傷、虫刺され、ペットによる引っかき傷に注意しましょう。
・ 野外活動や土いじりをするときは、ゴム手袋、長袖、長ズボンなどで皮膚を守りましょう。
・ 深爪や甘皮の処理に注意しましょう。
・ 無駄毛の処理はかみそりで剃(そ)るのは避け女性用電気シェーバーなどを使用し、皮膚を傷付けないようにしましょう。
・ 湿布など直接肌に貼るものや、鍼(はり)・灸(きゅう)・刺激の強いマッサージは避けた方が無難です。
・ 料理やアイロンがけをするときには、やけどをしないように注意しましょう。
・ カイロは低温やけどの原因になる場合があるので、注意して使いましょう。
・ しもやけは炎症の原因となるので、保温を心掛けましょう。
・ 過度の日焼けは、軽いやけどを起こします。直射日光を避けるなど、日焼け対策をしましょう。
(3)日常生活上での注意点を守る
1.医療機関で処置を受けるとき
・ 乳がんなどの治療後は、手術した側の腕で、採血や点滴、血圧測定はしないようにしましょう。ただし、やむを得ない場合は、医療者に相談しましょう。
 
2.食事・体重管理について

体重の増加に気を付け、標準体重を維持しましょう。
・ バランスのよい食生活を心掛け、刺激の強いものやアルコールは適量にしましょう。
   
3.体に負担をかけすぎないために
・ ホットカーペットやサウナ・岩盤浴・長時間の入浴など、過度の温熱刺激に注意してください。
・ なるべく重い荷物は持たないようにしましょう。
・ 就寝時、疲れやむくみを感じるときは、腕や脚を少し高くして休みましょう(図5)。
・ 子宮がんや前立腺がんなどの治療後は、正座をやめ、足を伸ばして座りましょう。
   
4.衣類・装飾品の選び方
・ 部分的に締めつけがきつい下着、衣類、靴下は避けましょう。特に脚の付け根や膝、足首は食い込みやすいので注意しましょう。
・ 締めつけがきつい指輪や時計、ブレスレットなどの装飾品は避けましょう。
・ 足のサイズに合った靴を選びましょう。高いヒールの靴は避けましょう。

図5 むくみのある手、脚は枕などを用いて、少し高くして休みましょう。
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3)スポーツや運動、仕事について
(1)スポーツ
・ 激しい運動は避け、適度な運動を続けましょう。運動によって腕や脚がだるくなり、筋肉痛が残るようであれば、運動のしすぎです。少し控えめにしましょう。
・ スポーツやレジャーでは、過度な負担にならないように注意しましょう。急激に腕や脚を振り回すような動きに気を付けましょう。
(2)仕事
・ 仕事や家事は一度にまとめて行わずに、時々休憩するなど負担になりすぎないようにしましょう。
・ 椅子に座って仕事をする場合は、長時間同じ姿勢で作業しないように、時々肩、肘、手首、膝、足首などを動かしましょう。
(3)旅行や移動
・ 長時間の乗り物での旅行では、時々休憩をとるなど無理のないスケジュールを立てましょう。
・ 特に飛行機での移動では、気圧の変化によりむくみやすくなります。長時間にわたる同じ姿勢を避けましょう。
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3.リンパ浮腫の治療

1)むくみに気付いたら
むくみに気付いたときには担当医を受診しましょう。
治療法として、日常生活上での注意点を守ること、スキンケア、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、圧迫下での運動を組み合わせた「複合的治療」が推奨されています。必要があれば、リンパ浮腫の専門的な知識や技術を持つ医師の助言を得ながら、自分の症状に合った治療を行いましょう。
2)リンパ浮腫を発症した場合
むくみを改善し、重症化を防ぐことが重要です。日常生活上での注意点を守ること、スキンケアを行うことが自己管理の中心となります。

個々の症状に応じて、リンパ浮腫を専門的に診療している施設を受診し、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、圧迫した状態での運動を組み合わせた治療を受けましょう。
リンパ浮腫治療は、一般(保険診療)の治療のほかに、病院独自の保険外の取り扱い(自由診療)を行っている場合もあります。

詳しくは、各がん診療連携拠点病院の相談支援センター、または担当医にお尋ねください。
「病院を探す」「相談支援センターにご相談ください」の頁を参照してください。

「研修修了者が対応するリンパ浮腫外来のある医療機関を探す」より、リンパ浮腫外来のあるがん診療連携拠点病院と、研修修了者が対応しているリンパ浮腫外来のある医療機関を探すことができます。
(1)用手的リンパドレナージ
用手的リンパドレナージは、腕や脚にたまったリンパ液を正常に機能するリンパ節へと誘導して、むくみを改善させるための医療用のマッサージ方法です。一般的に行われているマッサージや、美容目的のリンパドレナージとは異なりますのでご注意ください。
(リンパ浮腫に対する用手的リンパドレナージは、専門的な医療技術です。)
(2)圧迫療法
圧迫療法はむくみを軽減し、その効果を維持するために重要です。リンパドレナージをどんなに一生懸命行っても、圧迫が不適切だとむくみは改善しません。
圧迫療法は、圧迫により皮下組織内の圧力(圧迫圧)を高めて毛細血管からの漏れ出しや、リンパ液がたまるのを防ぐ効果があり、弾性着衣(弾性スリーブ、弾性グローブ、弾性ストッキング)(図6)や弾性包帯などを用いて行います。
むくみの程度によって圧迫の方法は異なりますが、軽度から中度のリンパ浮腫であれば弾性着衣を用いた圧迫を、高度のリンパ浮腫には弾性包帯を用いた圧迫を行うなど、個々の症状に応じて行うことがあります。

図6 弾性着衣の種類

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※リンパ浮腫の治療に使用する弾性ストッキングと、手術後の深部静脈血栓形成予防に使用するストッキングとでは用途が異なります。
(3)圧迫した状態での運動
弾性着衣や弾性包帯などを用いて適度な圧迫を行った状態で、できるだけ大きくゆっくりと筋肉を動かすように運動することは、むくみの改善に効果的です。腕にむくみがある方は、ゆっくり大きく手を握ったり開いたりすることと、肘や手首の関節の曲げ伸ばしを、脚にむくみのある方は、ゆっくり膝や足首の曲げ伸ばしをする運動を行いましょう。

ただし、腕や脚への過度な運動は逆効果となるので注意しましょう。
リンパ浮腫の手術療法に関しては、治療方法が確立されつつあります。ここでは保存的治療(手術的治療を除いた治療法)のみを掲載していますので、手術的治療については専門の医療機関にご相談ください。
3)リンパ浮腫の治療時の注意点
用手的リンパドレナージはセルフケアとしてのものも含めて、必ずしも全ての場合に行うものではありません。行う際には、不適切な方法で行うことのないように専門的な知識や技術を持つ医療者の指導の下で無理のない範囲で行うことが大切です。

弾性包帯による圧迫療法は、より高度な技術を要するため、リンパ浮腫の治療を専門 としている施設に相談しましょう。また、弾性着衣の使用に関しても、不適切な使用ではかえって悪化することがあるので、専門的な知識や技術を持つ医療者の指導に従って行いましょう。
弾性着衣の療養費支給について
リンパ浮腫治療のために使用される弾性スリーブや弾性グローブ、弾性ストッキング、弾性包帯の費用については、療養費の申請を行えば、一部支給が受けられる制度があります。

詳しくは、弾性着衣を購入する前に医療機関でご確認ください。
4)リンパ浮腫に伴う蜂窩織炎(ほうかしきえん)
リンパ浮腫を起こすと、リンパ液の流れが悪くなるため、虫に刺されたり、小さな傷があると、細菌が侵入し、腕や脚全体に炎症が広がることがあります。これを蜂窩織炎といいます。
(1)蜂窩織炎とは
細菌感染が原因で生じる皮膚の急性炎症です。
(2)蜂窩織炎の症状
手術をした側の腕やむくみのある脚に赤い斑点や広範囲に皮膚の赤み、熱感がみられ、痛みを伴います。時には38℃以上の高熱が出ることがあります。

症状が軽症の場合は発熱はなく、皮膚の赤みも限られた範囲にとどまることがあります。赤みや熱感があっても、細菌感染が原因ではない場合もあるため、担当医に相談しましょう。
(3)蜂窩織炎の対処方法
このような炎症の兆候があらわれたら、できるだけ早く近くの医療機関を受診しましょう。治療は、抗生物質の内服または点滴を行います。

皮膚に赤みや熱感がある間は、リンパドレナージや圧迫などの治療をいったん中断し、安静を保つ、冷やす、腕や脚を高くするなどして、炎症が改善するのを待ちましょう(図7)。
注)一般的には蜂窩織炎といわれますが、医学用語では蜂巣炎(ほうそうえん)といいます。

図7 赤く腫(は)れているときは冷やしましょう

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5)再発や転移など、病状の進行に伴ってリンパ浮腫を発症した患者さんの場合
がんの再発や転移など病状の進行によって、リンパ浮腫やそのほかの原因の浮腫がみられることがあります。

このような病状の進行に伴うリンパ浮腫は、リンパ節への転移および腫瘍がリンパ管や静脈を圧迫して、正常なリンパ液や血液の流れをさえぎるために起こります。リンパ浮腫によるむくみと同時に、痛みやしびれなどさまざまな症状を合併することもあります。

再発や転移などがんの進行に伴うリンパ浮腫の場合は、その原因となるがんの治療を優先し、担当医と相談しながらむくみの治療を行うことになります。
6)がん終末期のリンパ浮腫患者さんの場合
リンパ浮腫のある患者さんががんの終末期となったときには、さまざまな原因の浮腫を合併することで症状が悪化す ることがあります。その場合は、担当医と相談しながら痛みなどの症状緩和を中心に、必要に応じてむくみの治療を追加することになります。

そのほかご不明な点は、がん診療連携拠点病院の相談支援センター、または担当医に相談してください。
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4.「リンパ浮腫」のページの作成について

Webページ「リンパ浮腫」は、厚生労働科学研究費補助金(第3次対がん総合戦略研究事業)「国民に役立つ情報提供のためのがん情報データベースや医療機関データベースの質の向上に関する研究」(研究代表者 若尾文彦)の中の「がんクリニカルパスデータベース構築に関する研究」研究小班(研究分担者 河村進)の研究成果をもとに作成されたものです。
【作成協力者についてはこちらをご覧ください】


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