この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「趨勢(すうせい)」 5
「こうして居酒屋で飲んでても、街ですれ違うても、
ヤクの捜査官やなんて誰も気づきまへんわ。
それに厚生省の職員が、
逮捕権を持ってるなんてほとんどの人が知りませんで。特に名取ハンは若いし男前や、
その名取ハンの懐からワッパが飛び出してきたら、
ビックリするか玩具のワッパやと思いますやろな。
それにしても、お銀は目が高い言うか間抜けいうか、
住吉ハンに彼氏を探しに行って
マトリをつかまえてくるんやからな……」
龍蔵がお銀の顔を覗き込む。
「止めてくれる、なんや男に飢えてる女みたいやんか、
そら男前やしエエ人やとは思たで、ただ思ただけや」
お銀が懸命に弁解する。
「龍蔵さんもこんな可愛い人苛めたらアキマセンがな、
お銀さん今後ともよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げた、慌てたお銀が畳に頭をこすりつけた。
そこへニコニコ顔の男が入って来た、歳は五十前後であろうか。「梅吉やないか、おめでとうさん。今年も協力頼むで」
「おめでとうございます。
ワシがあんまり活躍せん方がエエ気がするんやけど、
何かあったら一働きさせてもらいます」
龍蔵が座敷に招き入れた。
「これでマトリが二人になったがな」
龍蔵の言葉に、怪訝な顔の二人がお互いに見入った。
ーつづくー