この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。

 

 

                「馬耳東風」  16

 

「今までのは他殺説ですが、

自殺説を唱える人たちもいましたので、

その概要だけでもお伝えせんとあきません。

毎日新聞は事件発生直後から自殺を主張していました。

同紙は『生体れき断』を出版、

大規模な人員整理を進める国鉄の

責任者の立場に置かれたことによる、

初老期鬱憂(うつゆう)症による発作的自殺と推理したんです。他にも松川事件の被告として逮捕・起訴され、

14年間の法廷闘争の末に無罪判決を勝ち取った

佐藤一さんが下山事件全研究を出版されました。

内容を読みますと、

下山事件も連合国最高司令部(GHQ)

あるいは日本政府による陰謀、

当初は他殺と考え、

下山事件研究会の事務を引き受けていたのですが、

調査を進めるうち次第に他殺説に疑問を抱いて、

発作的自殺説を主張するようになったんです。

他殺の根拠とされた各種の物証に関して、

地道な調査に基づいて反論が加えられたんです」

 龍蔵は完全に聞き手にまわった。

ーつづくー

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