身を高ぶる者は謗られ(非難され)、
身を低くする者は褒められる。(祝福される)
この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「 謗(そし)る 」 3
「桃谷の家は、父親が何で儲けたのか豪邸でした。
屋敷の坪数も五百坪はあったと思います。
鬱蒼(うっそう)とした森のなかにある屋敷でした。
昔の造りなので手水場(ちょうずば)、お便所のことですが、
石畳を歩いて北の隅まで森を抜けねばなりませんでした。
私は手水場に行くのが嫌いで我慢をしたために、
入院したことも有りました。
座敷から縁側に出て大きな踏み石に下りて、
下駄を履いて手水場へ歩きます。
当時はサンダルなんて洒落た物は無かった時代です、
履物は下駄か草履でした。
石畳を歩くとカランコロン、
音が出ないように歩いても、
カタカタと恐ろしいような音に苛(さいな)まれます。
夜中はとても怖くて我慢の連続でした。
雨の日は番傘をさして身を縮めて行くのです。
それは年齢が増しても休まることを知りませんでした。
女中さんが三人、男衆(おとこし)さんは二人いました。
女中さんは、掃除洗濯はもちろんのこと食事の用意や買い物、私の面倒もみなければならず毎日ばたばた動き回っていました。男衆は、風呂の薪割りや庭木の手入れ、
森の枝払いもやってました。
そうそう思い出しました、屋敷には人力車がありまして、
父親や母親が出かけるときには、
男衆の誰かが車夫をしていました。
私も学校の送り迎えは人力車でしたので、
男衆にはお世話になったのです。
特に親しくしてたのが、哲造さんでした。
いつもニコニコと優しい男衆でした。
女中さんではカネさんに優しくしてもらいました。
そんな屋敷で生活していたのですが、
十歳のころに父の前に正座させられ、話を聞かされました」
桃さんが造りを肴に酒をたしなんだ。
ーつづくー