この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「暫 (しばらく)」 18
「墓石の不法投棄なんて初めて聞いたけど、
そんな被害に遭うてるんはこの寺だけですんか?」
龍蔵が問うた。
「宗派の集まりが有って聞いてみたんやが、
さすがに寺や墓地に捨てられるんはマレみたいやけど、
田舎へ行くと山に捨てられるんは後を絶たんそうや」
「みんな先祖を敬(うやま)い、
墓は大切に守られてると思てたのに、
捨てるとは驚きや、なんでそんなことになりますんや?」
疑問を訊ねた。
「昔のように家族が多かった時代は、
誰かが墓の守り手を引き継いだもんやが、
最近は一人っ子や、結婚もせん若者が増えて、
墓を守る人間がおらんようになってきてるんや。
これからも無縁墓が増え続けて、
処分に困った後継者や、
中には寺が依頼した墓石処分を、
処分費用をうかすためにヤミ投棄する業者まで現れてるんや。
この問題はウチだけの問題やない。
全国のお寺が頭を痛めてるんや。
昔の人は、墓を守るのを当然のことと考え、
死者の尊厳を守ったもんや。
ところが今の世の中、代々の墓が絶え無縁墓が増え続けてる。お寺の墓地も、持ち主に連絡しようにも引っ越した後で、
連絡のつけようが無い檀家が数多くみられるようになった。
お寺が新しい檀家に墓地の権利を授けるにしても、
無縁墓を処分せんとアカン、
処分を依頼した業者が不法投棄する構図は、
どっかで歯止めをかけなアカンのや。
墓石は死者の痕跡であり、
死者と共に生きるという精神で敬うてきた。
墓石と言う死者たちが存在した痕跡を、
無縁やと言うだけで捨ててしまう非情、
死んだ人を忘れず評価する人間性を取り戻してほしいんやが」
坊主が苦悩を訴えた。
ーつづくー