この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「大 君」 24
「そんなん恍けてるんに決まってますがな、
ここまで追い詰めて逮捕できんかったら府警の大恥ですで。
女や思うて気を許してるんと違いますの?」
龍蔵がニヤニヤ笑いながら酒を注いでやった。
「アホな事言わんとってくれるか、ワシらは世の中から犯罪をなくすプロやで。
こんな婆さんに負けるわけにいかんけど、
なんせ任意やから強引な取り調べができんのや」
「情けないな、府警で追及できんのやったらワシが追及しますわ。
なにも偉ばって言うてるんと違いますで。
こんだけ殺人現場に近かった人間が、何にも知らん言うんは不自然ですやろ。
そのタエいう女は、重大な事を隠してますで。
それを解明するんが地取りや。
近隣を地回りして調べたんと違いますんか」
龍蔵の追及に、酒を飲んで誤魔化した。
「地取りをやり直した結果、もう十年以上前から佐久衛門さんの家に出入りして、
家族同然の付きあいやったらしい。
そこで話を聞くと、タエさんに孫ができたとき、
佐久衛門さん親子がたいそう喜んで、祝いをしてくれたらしい。
そんなことから親しみが増して、親子同然に生活するようになったみたいや。
そやから、佐久衛門さんと左衛さんは自分の親同然で、
感謝しかないと泣き崩れたんや」
近藤が、居たたまれんようになって酒を注いだ。
ーつづくー