この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「大 君」 23
「龍ちゃん、新情報や」
翌夕刻、近藤が駆け込んだ。
「どないしましたんや? 犯人が分かりましたんか」
息せき切る近藤に駆け付け三杯、注いでやった。
「龍ちゃんも気が早いな、犯人はこれからやけど、
佐久衛門さん親子の面倒をみてた家政婦が見つかったんや。
本田タエ言うて、六十五になる女で家政婦を二十年もやってるベテランや。
ところがこのタエは口が堅いいうか、こっちの質問に真面目に答えんのや。
何を聞いても知らんの一点張りで口をつぐむんや。
この婆さんの指紋も照合できたし、
何等か知ってる筈なんやが、口を開かんのや」
近藤が、困惑の表情をみせる。
「追及を緩めたらあきませんわ、これ以上の証言者は見当たらんのやから、
徹底的に追求したら、最後は根負けしてゲロするはずや。
タエは、殺しの現場を見たことが証言をせん理由ですで」
「そうは思うんやけど、何せ任意で聴取してるんで、無理な追及ができんのや」
「何を言うてますんや、任意で有ろうが何であれ、
人権を無視してでも追及するんが察のお家芸や有りまへんのか。
机叩いて怒鳴り散らしたら、ゲロしますわ」
龍蔵がハッパをかけた。
「それがな、最近は無理な自白での冤罪が数々出て来て、
自白の強要は控える雰囲気があるんや。
もしタエさんが、自白を強要されてるなんてメディアに漏らしたら、
大変な騒動になるんが目に見えてる。
それだけに、ワシらの追及も昔みたいな訳にはいかんのや」
察の現状を打ち明けた。
ーつづくー