この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「大 君」 22
「龍ちゃんの考えには一理あるな、確かに老人二人の生活は無理や、
それに二人とも男や、飯の用意や掃除洗濯、
どれをとっても男二人の老人がこなしてたとは考えにくい。
考えにくいどころか不可能や。
龍ちゃんエエとこに目をつけたで」
「そやけど、
賄い婦の誰かを雇うてたにして、何で名乗り出んのかな?
ひょっとして、殺しの現場を見てしもうて、恐ろしゅうなって逃げたんかもしれんな」
龍蔵が首をかしげた。
「それは犯人やからやと思うわ、殺しの犯人やったら名乗り出るはずないで」
近藤が自信ありげに答えた。
「そうかもしれんけど、
賄い婦や老人の世話する人言うたら、大概が女ですで。
そうなると犯人が女やと言うことになりますがな」
「そうとは限らんで、今時の賄い婦は男も居てるんや。
今後は、人の助けが必要になる老人が増えると思うんや。
そうなると、男の介護する人間が必要になる。
男の老人は、女と比べて体重も重いし大柄な男やと女の手におえんと思うんや。
暴力を振るう男の世話は、女の手では無理や。
ワシが殺しの犯人と睨んでるんは男しかないと判断してるんや。
その判断は、ナンボ老人でも佐久衛門さんは男や、
寝たきりやったかもしれんけど、
大の男を刃物で刺し殺す凶悪性は、女の手では無理やと思うんや」
近藤が熱弁した。
「そんなん偏見は、捜査するモンがもったらアカンわ。
寝たきりの老人やったら、刺し殺すくらいのことは女でも容易にできることや。
事件の後名乗り出んかった事が不信や。
殺人に女も男も有りませんで、佐久衛門さんが今までどんな生活をしてきたんか、
もうちょっと丹念に調べた方がエエ思いますで」
龍蔵の意見に、近藤の顔が引き締まった。
-つづくー