この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。

 

 

「大 君」  20

 

 

「またワシに手柄を譲ってくれるんかいな、オオキニほんま助かるわ。

ワシらデカも、一般の営業マンやないけど、

ある程度の成績を上げんと、首筋が寒いんや。

手柄を貰うんやから、ワシも隠し事はアカンな。

実はな、佐久衛門さんの死因の解明に鑑識が活躍したんやけど、

いま言うた佐久衛門さんと左衛門さん以外にも、

はっきりした指紋が検出されてるんや。

やけど前科も無いんか、指紋照合に適合する指紋が見つからんのや。

この指紋が誰なんか、それを突き止めたら事件の解決につながると思われるんや。

百を超えた佐久衛門さんが、自分で腹を刺して自殺したとは考えられんのや。

歳いった老人に、自分の腹とはいえ致命傷になるような刺し傷を与えるには、

相当な腕力が必要なんや。それに、自殺特有のためらい傷も無いしな。

そやから、佐久衛門さんの自殺の可能性は低いんや。

そやからと言うて、この左衛門さんの犯行かと言うたら、

百を超えた父親を殺す理由が無いんや、動機が無いんや。

今は記憶が喪失してるみたいなんで、

本心がどうなんか確かめることもできんのやが、

医者に任せて治療するんも一つの方法やと考えてるんや。

誰のもんかはっきりせん指紋が解明できたら左衛門さんの疑いも張れるし、

一件落着になるんやが」

 近藤が酒を口にした。

「そうやな、記憶が戻って家を出る前の状況がはっきりしたら、

何もかも可決のような気がするな。

ワシちょっと気付いたことが有りますんや。

どう調べるか厄介やけど……、

ワシの作戦に乗って調査するデカを投入してくれますか?」

 龍蔵が酒を注いだ。

「デカを投入するとなると、

それなりの理由がないと許可にならんで、

捜査会議で説明してみんなに納得してもらわんと無理やわ」

 近藤の顔が曇った。

ーつづくー

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