この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「飛 礫(つぶて)」 27
「下でリュックを受け取った二人に見覚えがありますんや」
龍蔵の言葉に、近藤が驚きの目を向けた。
「見覚えある言うて、それは一体誰や?」
「チョット探りを入れて確認しますわ。
どっちみち被害届も出んようなコソ泥や、大したもんやないと思うけど、
確証を掴まんと説教もできませんがな。
近藤ハン、この件は察が動くような事案やありませんわ。
ワシが、犯人を突き止めて、動機を解明してみせますわ。
コソちゃんがやってる事情が分かったら、相談にも乗れるかもしれませんがな。
ワシ一人じゃ証明にもならんから、お爺を連れていきますわ」
「お爺を連れてどこへ行くんや?」
「今んとこそれは内緒ですわ、まぁ酒でも飲んで待ってたら宜しいわ」
内容が呑み込めんまま、近藤がうなずいた。
お爺を伴った龍蔵は、釜に現れた。
「龍ちゃん、三重子ハンと忍ちゃんをどないする気や?」
お爺は、釜に来た事情が読めない。
「話を聞くだけですがな」
「龍ちゃん、今日も炊き出しやってるようやで、あの男は何者や?」
屋台で働く男を見つけた。
「またご馳走になりに来たで、この人は知り合いの人かいな?」
お爺が、男を見やった。
「おっちゃんら、今日炊き出しやってるんがよう分かったな。
このおっちゃんは、伸介のおっちゃんや。
同じ三重県の出身やし、手伝うてもうてるんや」
忍が、なんの警戒もなしに答えた。
「今日は、うどんや無しに蕎麦やろ?」
龍蔵が問いかけた。
「何で知ってるんや? 今日は蕎麦の入荷があったから蕎麦の炊き出しや。
ギョウサン無いから、無くなりしだい閉店や」
忍が笑顔を見せた。
「終わったら、ウチへ寄ってください、話したいことが有りますんや」
蕎麦の炊き出しを受け取った二人は、三重子の顔にうなずいた。
「ちょうどエエわ、ワシらも話が有って来たんや」
龍蔵は、持ってきた荷物を傍らに置いて、蕎麦を食べ始めた。
-つづくー