この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「飛 礫(つぶて)」 21
忍ちゃんに誘われるまま、寝泊りしてるドヤについて行った。
「おっちゃんら、わたしとお母ちゃんの部屋はここや。
この二階なんや、三階は無いから頭打たんようにな」
言うが早いか、広い階段を二段跳びで上がって行く。
後に続いた三重子も、一段飛ばしに駆け上がった。
「龍ちゃん、あの親子は何もんや?」
お爺が、上を見上げる。
「二人が言うてましたがな、伊賀の出身で忍者やと」
「ナンボ忍者でも、それは昔の話や。
今どき忍者なんておるんかいな?」
お爺の息が治まらない。
「おっちゃんら何してるんや? こんな階段も、よう上らんのかいな。
将棋と一緒で修業が足らんな。
わたしなんか、毎晩神社へ行って三十段の階段を駆け足で五回往復するんや。
こないだも言うたけど、腕立て伏せに腹筋もするんや。
それぐらい訓練せな、身体はなまってしまうで。
苦労して上がって来たんや、まぁ入りいな」
忍に手招きされた。
「綺麗な部屋やな」
一歩入った龍蔵がつぶやいた。
「それは褒め言葉やないで、タンスやとか物が無いから片付いてるんや。
こないだ、お銀姉ちゃんに怒られたんと違うの。
近藤いう刑事ハンが怒鳴られたと聞いたで」
二人が、素直に頭を下げた。
「今日は、ビックリすることばっかりや。
龍蔵ハンに誘われて、初めて釜に来たけど、
忍ちゃんや三重子ハンに会えるし、屋台のうどんまで食わせてもうた。
この歳して、初めての世界に足を踏み入れたけど、
予想以上に、温かみのあるとこや。
もっとヤーさんがウロウロしてて、怖いとこやと想像してたけど、
そんなこと無いな。
確かに、道路で寝てる人もいてるし、暇つぶしに公園で話してる人もいてる。
これで、みんなが働けたらもっと笑顔が増えて、住みやすいとこやと思うわ」
お爺が感想を述べた。
「何をグチャグチャ言うてるんや。
ようは、わたしとお母ちゃんがどんな生活してるんか、確認に来たんやろ?」
適格な忍の声に、二人の勢いがとまった。
「ワシら、偶然炊き出しのうどんを見つけたから立ち寄っただけや。
あんたらがどこに住んでるかも聞いてなかったし、名前しか知らんのやで」
苦しい言い訳をした。
-つづくー