この小説はフィクションです、実在とは関係ありません。
「飛 礫(つぶて)」 17
コソちゃんは、とうとう現れんかった。
「忍ちゃんの言う通りやったな、
そんでも、あんな四年生見たこと無いわ。
ナンボ訓練や言うても、体を鍛えて国語辞典を持ち歩く、
母親の教育の賜物かもしれんけど、素直に受け入れるあの子は凄いわ」
座敷に席を移した二人は、下りてきた近藤と共に、
酒を飲みながらの談笑になった。
「いま本庁へ電話入れたら、コソ泥ちゃん今日は質屋に現れたらしいで。
それも、ほんのさっきの犯行らしいわ」
「質屋に現れた? いよいよ本性を現したかな」
龍蔵がうめいた。
「本性現した言うて、質屋でダイヤの指輪や貴金属を盗んだんやろうか?」
お爺が酒のコップを握りしめた。
「それがな、質屋の話によると、貴金属の類は一切盗まれてないそうや。
盗んだもん言うたら、質屋が家庭用に置いてあった乾麺やウイスキー、
醤油砂糖、箱に入れてた新品の下着のシャツなんかや。
警報機までつけて警戒してる蔵に押し入ったのに、
貴金属には見向きもしてないんや」
近藤が首をかしげる。
「質屋の蔵に入った言うことは、素人やないな。
警報機の電源でも切って入ったんやろか?」
お爺が近藤の顔をうかがう。
「電線を根元で引っこ抜いて、簡単に鍵も開けて入ってるんや。
素人や無いのは解るけど、なんで金目のもんを盗まんかったんか、
そこらが理解できんのや。
質屋も、客が質入れした品が盗まれんかったんで、
被害届は出さん言うたらしいけど、蔵に入ったんは事実やし、
頼んで届を書いてもうた状態らしいんや」
三人は、酒を口に当てながら考え込んだ。
ーつづくー