西村喜廣『虎影』 | What's Entertainment ?

What's Entertainment ?

映画や音楽といったサブカルチャーについてのマニアックな文章を書いて行きます。

2015年6月20日公開、西村喜廣監督『虎影』



製作総指揮は高橋正、プロデューサーは鈴木宏美・服巻泰三、原作・編集・特殊造型監督は西村喜廣、脚本は西村喜廣・継田淳、音楽は中川孝、撮影はShu G.百瀬、照明は太田博、美術は佐々木記貴、特殊造型は下畑和秀、VFXスーパーバイザイーは鹿角剛、アクション監督は匠馬敏郎、録音は中川究矢、衣裳は中村絢(おかもと技粧)・村島恵子(おかもと技粧)、ヘアメイクは清水ちえこ、肌絵は初代彫政統、助監督は塩崎遵、脚本協力は水井真希。
製作は『虎影』製作委員会、配給宣伝はファントム・フィルム。
宣伝コピーは「愛する者を救う為、男は再び刀を抜く」


こんな物語である。

かつて忍びの世界では最強と恐れられた虎影(斎藤工)は、6年前に愛する月影(芳賀優里亜)が身籠ったことから、それ相当の苦難に耐え二人して火影衆を抜けた。現在では、5歳になった息子の孤月(石川樹)と家族三人、野良仕事に汗しながら穏やかに暮らしている。



火影衆の頭で己の欲望のためには手段を選ばない東雲幻斎(しいなえいひ)は、やげんの隠し財宝の噂を聞きつけ、その在処を記した巻物を盗み出すよう手下に命じる。ところが、手に入ったのは、金銀二つで一つの巻物のうち金の巻物だけだった。銀の巻物は、やはり財宝を狙う他の者に奪われたのだった。
そこで、幻斎は夜馬(鳥居みゆき)に命じて虎影に銀の巻物を奪うよう話を持って行かせた。一度は夜馬を蹴散らした虎影だったが、幻斎は孤月を人質に取り「息子の命を助けたければ、2日の間に銀の巻物を持ってこい」と命じた。



銀の巻物を持っているのは、やげん教の教祖である瑞希(松浦りょう)が治める藩だった。この藩は水害の絶えない土地にあったため、すべての民を借り出して過酷なダム建設を行わせていた。そして、工事のために連日罪もない村人たちを人柱として川に沈めていた。その指揮を執っているのは、リクリ(津田寛治)という男だった。
一度は城に潜入して銀の巻物を手に入れた虎影と月影だったが、同じ忍びのライバルで今はリクリに雇われている鬼卍(三元雅芸)と鬼十字(清野菜名)によって囚われ、二人はリクリの元に連れ戻されてしまう。



窮地に立たされた虎影は、2日のうちに金の巻物を持ってくることを交換条件に、月影を人質に残して再び火影衆の里に向かうが…。




いささか凡庸に過ぎる表現だが、世間的には「今、最も旬なイケメン俳優のひとり」的なポジションにある斎藤工主演の西村組!忍者映画である。
なかなかに、異色のコラボレーションといえる作品だろう。

一言でいえば、徹頭徹尾西村映像的な文脈に貫かれたエンターテインメント・アクション・ムービーになっている。
斎藤工が主演したことでやや佇まいはメジャーな雰囲気を纏っているものの、その作品キャラクターには一切ブレがない。

オランダ人のフランシスコ(村杉蝉之介)が時代背景の解説をしたり、影絵を用いたりとそこかしこに意識的なチープさを持ち込んだり、ベタにコミカルなくすぐりを散りばめたりといった緩さ。
その一方で、アクションにおけるシャープでスピーディな展開と適度にセクシーな味付けを施したりと両輪で物語は突き進んで行く。斎藤工に「うんこ、うんこ」言わせるのも、西村組ならではだろう。

このチープなコミカルさとハイテンションを行き来しながら、娯楽性に関しては94分間一切ダレることがない。それは、まさしく良質なアトラクションに身を任せているような爽快感である。
津田寛治の愛人的なキャラ長杏にストリッパーの若林美保を、妖怪目なし役に水井真希をキャスティングしているところも、“らしい”

もちろん、本作の見所は斎藤工の活躍とアクション・シーンの数々である。
ただ、個人的な好みを言わせて頂くならば、虎影の敵役・三元雅芸のキレのある動きと正しく美味しいところを持って行く憎いくらいに恰好いいキャラクターということになる。



本作を観ていると、Vシネマ全盛時代を経由してデジタル映像がメインストリームとなった現在の映画産業ならではの作品という気がする。
テレビ局や広告代理店主導の「THE MOVIE」的な大作とインディペンデントな作品が並び立つ現在、作り手の側も演じる俳優の側もボーダレス化が進んでいるし、そういう状況を象徴する自由な映画といってもいいのではないか。

オーソドックスで古典的なストーリーテリングを、現代的な視点で換骨奪胎したような作風は、北野武監督の『座頭市』を観た時の印象に近いかもしれない。
それにしても、ついつい『仮面の忍者 赤影』や『ルパン三世 カリオストロの城』から引用してしまうのは、ある種の性と言えなくもない(笑)

本作は、如何にも今の時代ならではの忍者映画。
とにかく、シンプルに楽しめばそれでいい娯楽快作である。