京極夏彦『いるの いないの』 | What's Entertainment ?

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京極夏彦・作、町田尚子・絵、東雅夫・編 怪談えほん『いるの いないの』を読んだ。その感想を書きたい。
本作は「怪談えほん」シリーズの第三弾で、2012年2月10日に株式会社岩崎書店より刊行された。

35mmの夢、12inchの楽園

この絵本は、見開き15枚によって構成されたお話である。ある夏、古いお祖母さんの家でお祖母さんと二人暮らしすることになった男の子。
とても古い日本家屋で、太い柱と梁、高い天井、板の間と畳、沢山の猫。昼間でも家の中はどこか薄暗く、とりわけ天井は明かり取りの窓があるだけで、家の中でも最も暗い場所だ。

35mmの夢、12inchの楽園

少年は、その暗がりの中に何か潜んでいるんじゃないかと思うと、恐怖を感じつつもついつい天井に目が行ってしまう。しかし、お祖母さんは家の暗がりに慣れているから、男の子の恐怖心なんかまるで理解出来ない。
そんなある日…。

35mmの夢、12inchの楽園

極限まで削ぎ落とされたひらがなだけの文字と、陰鬱な谷口六郎とでもいった画風の町田尚子の挿絵。昭和の時代に幼少期を過ごした方なら、一度は覚えのある怖さを表現した絵本である。
それは、闇に対する恐怖、手の届かない場所に何か潜んでいるのかもという恐怖、だれかに見られているのかもという恐怖である。
端的に言えば、誰もいなくて電気が点いていない二階に一人上がって行く時の怖さである。子供の頃、僕らはいつだってどこか臆病だったのだ。

それは、携帯やネットで検索すればとりあえず簡単に答えが見つかる時代の前、分からないこと調べがつかないことばかりだった時代の、ノスタルジックな怖さなのである。

今の若い方にはいささか伝わりにくい怪談ではあるけれど、こういう怖さを知っているかいないかだけでも、畏れに対する感性って違ってしまうものなんだ。

沢山の人に手に取って頂きたい優れた絵本である。