今頃だが
私は大学で事務の仕事をしている。
公務員でもなければ
教員免許も持っていない。
大学に雇ってもらっている。
学生の入学手続きから
教授たちの研究書類の作成まで
様々なことをしている。
今も准教授に頼まれ
授業で使う書類作成の手伝いをしている。
隣にいるのが佐藤先生。
私より10歳くらい年上で
学生の頃
ラグビー部だったので
体格はがっしりしている。
大人の男性という感じだ。
そう私は智樹に出会う前は
この佐藤先生に憧れを抱いていたのだ。
「助かったよ。ありがとう。
今からみんなで食事に行くけど
井上さんもどう?」
教員、事務員、学生、計6名で夕食を共にした。
智樹には内緒。
ああ見えて
結構やきもちやきなのだ。
負けず嫌いで
すぐムキになる。
そんなところも可愛いのだけど
面倒なので言わないことにしている。
店を出るとき
佐藤先生が私の耳元でささやいた。
「次は二人だけで来よう。」
私はハッとしたが
すぐにみんなの輪に入った。
なんだったのだろう?
帰りの電車の中で思ったが
智樹の曲を聴いているうちに
すっかり忘れてしまった。
それから何かしらの用事を頼まれ
佐藤先生と二人でいることが増えた。
今も研究室に二人きりで
作業をしている。
「少し休憩しようか。」
「はい」
私が作業テーブルを片付けている間
佐藤先生は部屋を出て行き
お盆をもって戻ってきた。
「どうぞ。」
そう言って
私の前にコーヒーとイチゴのショートケーキを置いた。
「ありがとうございます。」
サプライズが嬉しくて
笑顔でお礼を言った。
雑談しながらティータイムを楽しんだ。
「今晩
食事などいかがかな?」
そう誘われたが
今日は智樹の家へ行く日だ。
智樹も早く帰ると言っていた。
「すみません
先約があるので。」
「そう残念。彼氏かな?」
「まあ そんな感じです。」
この時
佐藤先生の表情に私は気づいていなかった。
ソファでCDをいじっている智樹に
入れたてのコーヒーを渡し
隣に座った。
私は窓からの景色を眺めた。
この静かな時間が好きだ。
私の携帯が鳴った。
「もしもし。
…
いえ大丈夫です。
…
はい。分かりました。
では明日
…
はい 失礼します。」
静寂を壊された智樹は
少し渋い顔をした。
「誰? 男?」
「大学の先生。」
「んなもん 出るなよ。」
仕事第一の人がそういうこと言うかな。
不機嫌な智樹にちょっと意地悪を言った。
「もしかして 妬いてる?」
「ちげーよ。」
すねている。かわいい。
智樹が私の膝にそっと手をのせて言った。
「…やっぱ 妬いてる。」
顔を違う方へ向け
口をとんがらせている。
可愛すぎる!
思わず智樹を抱きしめた。
佐藤先生と二人
研究室にいる。
昨日のことがあった後なので
私はテンポよく書類を作り上げた。
最後の書類に手をのばした時
佐藤先生が私の手を握った。
私は驚いて顔を上げた。
「僕の恋人になってくれ。」
いきなりの発言に面をくらった。
「私には 彼が…」
「僕の方が優れているだろう。
きみには僕の方がふさわしいんだ。」
怖いと思った。
力強く握られているので
手が痛い。
「すみません!」
手を振りはらい
なんとかその場から逃れることができた。
それから私は佐藤先生を避けるようになった。
仕事の手伝いも
理由をつけて断った。
智樹には話さなかったが
勘がいいので
私の変化に気付いていたようだった。
つづく
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日中は少し春めいてきましたね
季節の変わり目
体調の変化など
お気を付けくださいね。
私の空想の世界に
お付き合いくださり
ありがとうございました。