かずちゃんは、７人兄弟の３番目の長女。
北海道の田舎で、ご両親は小さな牧場やっていたんだよね。
大家族で、貧しくって、牧場だから当然仕事も小さな頃から手伝ってた。
朝早くって、雪が降る日は寒くて仕方なかったね。
寝坊したモンなら、お父さんやお兄ちゃんにこっぴどく怒られたでしょう。
女の子だから、きっと牧場だけじゃなく、
家事もいっぱい手伝ったんじゃないかなぁ？
一番下の子とも随分年が離れていたから
しっかりしなきゃいけないと、責任感が強かったでしょ。
でもさ、ちょっと抜けてる所もあるよね(笑)
中学を卒業すると
貧乏だし、下の兄弟たちの為にも
当然の様に働きに出ることにしたんだよね。
北海道から遠く離れた、岐阜県の紡績工場で。
寂しかったかな？
でも、かずちゃんが働かないと、家族が困ったものね。
頑張ったんだねぇ。
学歴や教養がある人たちは
もっとお給料のいい仕事につけて羨ましかったんだ。
「なんで、育ちが違うだけで
こんなに頑張っているのに私は認めて貰えないんだろう？」って
悔しい想いもしたね～。
でもさ、まさかそこで運命の人と出会えるなんて思ってなかったね。
結婚式は、二人ともお金がなくて
自治会館みたいなところでやったんだってね。
引き出物も、かずちゃんの家族分しか用意できなかったって聞いたよ。
でも、白無垢着れて嬉しかったでしょう？
あの頃の文通、てっちゃんたらまだ大切に保管してるらしいよ(笑)
愛されてるね～～～
でもさ、本当はかずちゃん、もっと愛されたかったんだよね。
だっていつも不安だったんでしょう？
それね、実はね、ダミーなんだよ。
てっちゃんの愛が欲しいんじゃなくて、
かずちゃんのお父さんとお母さんの愛が欲しいから
いつまでも心が満たされていないんだよ。
だって７人兄弟だものねぇ。
下の子達と年も離れているし、本当は寂しかったよねぇ。
お父さんもお母さんも、独り占めしたかったよねぇ。
しっかりなんかしたくなかったよねぇ。
もっと甘えたり、食べたい物も欲しい物もいっぱいあったでしょう。
「なんで、産まれる順番が違うだけで
こんなに頑張っているのに私は認めて貰えないんだろう？」って、言いたかった？
でも、できなかったんだね。
我慢しなくちゃって、思ったんだよね。
私が良い子にしなくちゃ、お父さんとお母さんの言う通りにしなくちゃ
家族が生きていけないって。
本当は、ピアノとか、ちょっといいお家のお嬢さんがやるような事、やってみたかったね。
もしピアノやってたら、かずちゃん音痴だって馬鹿にされずに済んだかもしれないし。
本当は高校にも行って、勉強した方が良いお仕事に就けるって分かってたのに
そんなお金がないのは分かり切った事だから、諦めたんだよね。
「高校に行きたい」なんて、言いたくても言えなかった。
でも、かずちゃんが働けば、下の子達は高校に行けるようになるかもしれないって
お父さんとお母さんもきっと喜んでくれるって、頑張ったんだよね。
かずちゃんとてっちゃんが結婚して
娘３人生まれて、どうだったかな？
そっか、一生懸命で、無我夢中だったんだ。
そうだよね、ずーーーっとそう生きてきたんだね。
ピアノも３人習わせて、公文やそろばんや習字にも行かせて
かずちゃんみたいにならないように
かずちゃんみたいな人生にならないように
勉強もちゃんとやって貰いたかったね。
あったかい家庭を築きたくて
子育てしながら内職して
バイトを掛け持ちして
睡眠は数時間でいっぱい働いて
マイホームを建てたんだ。
そっか、よく頑張ったねぇ。
かずちゃん、自分の夢を叶えたんだねぇ。
凄いねぇ。
あぁ、でも、娘さんたちが言う事を全然聞かないって？
家のお手伝いもしないし
習い事はサボるし
かずちゃんの事を時々馬鹿にするんだ？
ちゃんとしなさいって
しっかりしなさいって
かずちゃんは言ってるのに、言う事聞いてくれないんだ。
「なんで、家族の幸せのためにこんなに頑張っているのに
私は認めて貰えないんだろう？」 って、思うんだ。
かずちゃん。
言ったでしょ、ダミーだって。
かずちゃんね、ちゃーんと愛されているんだよ。
３人の娘たちからも
てっちゃんからも
かずちゃんの、ご両親からも。
小さなかずちゃんは、両親の為にいっぱい我慢してきた。
やりたくない事もいっぱいやって来たし
やりたい事はちっともさせて貰えなかった。
よく頑張ったねー。
よく、頑張ったよ。。。
でもね、もうあの頃のかずちゃんじゃないから
もう、頑張らなくてもいいんだよ。
仕事もそんなにいっぱいやらなくていいし
睡眠いっぱい取っていいし
家事は・・・まぁ言う前からあんまりやってないけど(笑)
子供を監視しなくていいよ。
家追い出されちゃってもいいよ。
子供たち大学に行かせられなくていいよ。
どうせ行かないし(笑)
かずちゃんがどうにかしようとしなくても
それぞれ自分の居心地のいい場所見つけて
勝手に幸せになるからさ。
良い奥さんにならなくていいよ。
良いお母さんになれなくていいよ。
だって、てっちゃんの奥さんも
３人のお母さんも
この世にかずちゃん１人だから。
かずちゃんのままでいい。
かずちゃんは、あの頃の幻想に、今も追われているだけ。
大丈夫だよ、そんな事をしなくても
頑張ったり、我慢したりしなくても
ちゃんと愛されているから。
もう、怖くないから。
かずちゃん。
私を産んでくれてありがとう。
私を育ててくれてありがとう。
ずーっと、ずーーーーーっと
小さなかずちゃんが泣いていたんだね。
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