前書き(という名の言い訳)

いきなりですみませんが、ハルヒ短編書いてみました。
しかも深夜三時のテンションで。一時間半で書いたんで推敲とか殆どしてないです。物凄いやっつけクオリティ。
というか個人的な気持ちを切り替える為の脱スランプが目的だったというのと、いつもと違った長門とキョンを絡ませてあげたいと思った故の突発的な行動です。内容イミフかも。
どうみても消失長門ちゃんに影響受けてます。本当に(ry

やっつけでも許せるという方のみ、お読みいただければ幸いです。
あと、長門は原作でもちゃんとお茶を淹れてるシーンがあります。そこだけ一次設定無視です。何という虫の良さ。

あ、全年齢向けですよ?

だぁー眠い。もう俺は寝る。後は二人で好き勝手やってくれ。



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 外は、雪が降っていた。

 暦の上では既に一月中旬となったこの冬。窓の外を吹き荒れる吹雪は今がピークとばかりに自らの憎き所業をこれでもかと人間どもにアピールし、暴力的なまでの寒さを校舎のボロい壁を通して染み込ませてきていた。
 資金に余裕の無い公立高校だからだろう。校舎内で暖房器具が完備してある場所はせいぜい職員室くらいのもので、俺達生徒は廊下であってもこの背骨の芯まで凍らせるような冷凍ビームに常時身を凍えさせていなければならない。一時凌ぎとしてその温かい職員室に所要を装い避難するという手もあるにはあるんだが、そうなると担任の岡部辺りに俺の色々な意味で危険な成績について、聞きたくも無いありがた~いお説教を延々と聞かされる羽目になる危険がある。そいつは勘弁といったところだ。
「う……さむっ」
 窓ガラスをガタガタと鳴らす外の暴風に、俺は思わず怨嗟の悪態をつく。今日の天候は昼ごろから一段と悪くなり、外はぶ厚い雲に覆われ吹雪はごうごうと舞い荒れる始末だ。放課後には放送部のほうから『帰宅には充分警戒するように』とアナウンスが入っていたっけ。確かにこの荒れようはなかなか馬鹿にならん。
 まぁお天道様も、たまには少しばかり日ごろのストレスを晴らしたかったのかね。何せこの世界には、生きているだけで天候まで左右しかねん存在が約一名いるからな。

 コンコン

 見慣れた文芸部――現在は団長様の乗っ取った《SOS団》なる奇矯なクラブだが――のドアを軽くノックする。この習慣ももう慣れたもので、なにせもし中で朝比奈さんがメイドへと変貌を遂げる生着替えシーンを目撃してしまった日には、団長様からきつい、それはもうきついお灸が据えられる事が目に見えているからだ。
 健康な男子生徒として『あの学園のマドンナたる朝日奈さんの着替えシーンを見たくは無いのか』という問いに対しては勿論YESと答えざるを得ないが、それを命と天秤にかけられたとなっては流石に首を縦には振れないものな。……まぁ、それでもアホの谷口あたりだったらどうか分からんが。
「よーっす」
 ノックの返事が返って来ないことを確認し、軽く挨拶をして部屋に入る。
 するとそこには、いつもの定位置に座って片手で本のページをめくる寡黙な対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長門有希がいた。俺は特に目的もなく長机に備わったパイプ椅子を引っ張り出し腰掛ける。
「長門だけか?」
「……そう」
 相変わらず素っ気無い奴だ。他の皆はまだ来てないみたいだし、ちょっと話でも振ってみるか。
「何の本読んでるんだ?」
 そう尋ねると、長門は読んでいた本の表紙を俺に向かってすっと提示してきた。……まるでいつの日かのやりとりのデジャヴじゃないか。
「進化論? 確か……ダーウィン何とかだっけ。面白いのか?」
「……ユニーク」
「そうか……。って、一年前にも同じような会話してたよな。俺達」
「……そう」
 それだけ言うと長門はまた本の上に膝を置き、視線を戻した。

「…………」
「…………」

 そのまま、五分経過。
「…………」
 どうした事だろう。沈黙が気まずい。
 おかしいな、最近はこんな事もなくなってきた筈だったんだが――長門と同じ空間に居て何も喋っていないと、何故かこっちの居心地が悪くなるようだ。別段俺が会話下手……という事なのか?
「そ、そういや、ハルヒ達遅いな。何やってんだろうな」
 沈黙が払われる事を期待して会話を繰り出す。
 すると窓際の寡黙なる宇宙人は、眼鏡のふちを指先ですっと持ち上げる動作をしてこっちを向いた。

「……今日、涼宮ハルヒは団の活動には来ない」

 予想だにしていなかった返答に、俺は一瞬耳を疑う。
「え? 来ないって……あいつ今日もちゃんと学校来てたぞ? 部室にも先に行ってるって言ってたし」
 はて、どうした事だろう。まさかあの鬼の団長が自ら部活をサボるとでも? それは考えにくいと思うのだが――
「同様に、朝比奈みくるも古泉一樹も今日の活動には参加しない。今日の活動は、わたしとあなただけ」
「……え?」
 何だ何だ、一体どうした事だ? 三人が揃いも揃って休みなんて……何かあったんだろうか。
 いや、それよりも――
「理由とかは知ってるのか?」
「…………不明」
「え? じゃあ何で休むなんて事……」
 そこまで言いかけた時、長門はいきなりすっと席を立った。
「お茶」
「え?」
「淹れる」
 すると長門は何を思ったか、いつもは朝日奈さんが団員分のお茶を淹れてくれるティーセットが置いてある小さなテーブルへと移動し、不慣れなような手つきでポットと急須、湯飲み二つをそろえた。
「…………」
 俺が呆気に取られているうちに、あいつは何故か着々とお茶を淹れる準備をしている。どうして長門がお茶なんかを? 朝日奈さんが来ないから、代わりに淹れてくれるっていうのか?
 心遣いは嬉しいのだが長門よ、まずは俺の質問に答えてほしいというのと――
「……あっ」
 茶葉は、ポットの中に直接入れるものじゃない。

 見よう見まねでやっていたのか、初っ端から手順を間違っている長門。俺は見ていられなくなり、席を立って長門の近くまでいくとその小さな手に手を添えた。
「な、長門。気持ちは嬉しいんだが、無理してしてくれなくても大丈夫だぞ?」
 すると彼女は後ろ向きながらも、どこか、若干拗ねたような目つきをして言った。
「無理などしていない。これは日常から朝比奈みくるが行っている『給仕』という一連の行為。終始観察していた訳ではないので明確な手順は不明瞭だが、使用される用具から大よその使用方法は把握可能」
 そう言うけどな長門よ。開始早々で手順を間違われたのでは俺とて気が気では無いんだ。
「失敗はしない。任せて」
 しかしだな。
「私はあなたにお茶を淹れたい」
「……む」
 何だろう。傍から見ると少々ドキッとするような台詞じゃないか。お前がそんな事を言うなんてな。
「……一人でできる」
 ――そうか。心配ではあるが、まぁハルヒではないんだ。飲んだ者が蛇へと変貌を遂げるお茶を作り出す筈もないだろう。最悪水のままでも飲める。
「……馬鹿にしないで。ちゃんとお茶にする」
 あぁ、すまなかったな長門。じゃあ続けてくれ、俺はお茶が完成するのを楽しみに待たせて頂く事にする。
 ……しかしだな、長門。
「何?」

 お茶を淹れる時ってのは、まずはポットで湯を沸かすもんだ。
 お前のそれじゃあ、行く先はアイスティーだ。

「……ユニーク」
 いや、別に面白くは無いぞ。


 暫くした後、長門はお盆に湯飲みを二つ乗っけてこっちへ向かってきた。中にはちゃんと緑茶らしき緑色の液体が湯気を立てており、ちゃんとお茶が淹れられたという事にとりあえず一抹の不安を払拭する。
 彼女はその細い両腕でよろよろと盆を掴んだまま歩き、こちらに向かってくる。そして俺の座る長机に湯飲みの一つをそっと置くと、こちらの目をじっと見つめてきた。
「……出来た。どうぞ」
「お、おう。サンキュー」
 ――何故だろう。どこか妙にこそばゆいような気恥ずかしさを覚えてしまう。
 いつもは部屋の隅で無口で本ばかり読んでいた長門が、こんな風にお茶を出してくれるという事があまりにも新鮮だったのだろう。俺は自分の中でも形容しがたい感情を胸のうちに留めたまま、せっかく淹れてくれたお茶の熱を逃がすまいと湯飲みの縁に口をつけた。
「……」
「……」
 そのまま一口。飲んでいる間も長門は俺から視線を離さない。……うぅ、何故だ、恥ずかしい。
 ――そしてお茶の味。
 意外にも普通にウマかった。朝日奈さんが淹れてくれるいつものお茶とはまた一つ違った味わい。何と言うか、素朴な風味。
「……どう? ちゃんと、できてる?」
 心配そうな表情でそう聞いてくる彼女。どうやら俺が次に発する言葉を心待ちにしているようだ。
「ああ、美味いよ。お世辞じゃなく、普通に美味いぜ」
 俺が素直な感想を口にすると、長門は「そう」と素っ気無く返し、自分の定位置へとすたすたと戻っていった。相変わらずリアクションの薄い宇宙人だ。
(……ははっ)
 ――だが、今の俺なら分かる。さっきの「そう」は、長門の瞳の奥に嬉しがってた表情がほんのりと灯っていた。これでもあいつの表情を読むのに、この一年で少しは上手くなったつもりだ。
 隠しきれていないぞ長門よ。お前、お茶が上手に淹れられた事が嬉しかったのだろう。
 ああ、いい変化だと、俺は埃っぽいにも関わらず部室の空気を僅かに仰いだ。いささか今日のあいつに変なところは感じるものの、そもそも《変な事》なんてのはあのハルヒに振り回される毎日ではあって当然、いや、無くては不自然な事だ。ある種気にしたら負けなのだ。
 それよりも、あの長門が自らお茶を進んで淹れようとするとは。あまつさえそれで『喜ぶ』とは。
 これでいい。これでいいんだ。いくら宇宙人だって、いくら対有機生命体なんちゃらかんちゃらだって、そういう感情は持って然るべきなんだ。毎日ハルヒの野郎にいいように振り回されてるだけじゃ、お前にだってストレスってもんが溜まるんだろう。
 前にあいつはそれを《エラー》だとか《バグの蓄積》だとかって表現をしてたけど、そんなんじゃない。少しでも人間らしい面をお前が見せてくれたのであれば、俺は非常に嬉しく思う。
 ――と、前向きに思わせる力がこのお茶にはあった。
 正直この時点で、ハルヒや朝日奈さんや古泉が何故部活に来ていないのかという疑問は、俺の中では風化しつつあった。いや、本当は気にしなくてはならないんだろうが、これもまた非日常。俺と――あと長門もだろうか、せめてこの《非日常》を楽しんでおこうか。

 明日みんなが来たら、この事を話したほうがいいのだろうか。
 ハルヒは何と言うだろう。お茶係が二人に増えたのをいい事に、この機会に長門にもメイド服のコスプレをさせたりしてな。あいつならもしかしたらやりかねんかも知れんが、もしその場合は長門が着るメイド服は、朝比奈さんのような華美なものではなく逆に質素なものを提唱しよう。その方があいつには合う筈だし、ハルヒだって納得するはずだ。
 朝日奈さんは何と言うだろう。自分のポジションが危ぶまれている事に危機感を感じたりとかするのかな。いや、あの人はそんな柄でもないか。むしろ自分の後輩としてお茶の淹れ方の指導なんかを張り切って始めてしまったりとかするかもしれない。それはそれで、何かよさそうじゃないか。
 古泉は何と言うだろう。あいつはきっといつも通りにやけているだけだ。適当に取り出したボードゲームに一人で熱中している内に、朝日奈さんと長門、二人分の出したお茶でも飲む事になるのか。
 それはそうと長門、明日以降もお茶を淹れてくれたりしないんだろうか。

 そんな事を考えながら、俺は段々とまどろみ始めた瞼を持ち上げるのが億劫になってきていた。
 見ればまだ時計の針は五時ちょっと前だというのに、空に厚く圧し掛かった雲のせいでもう随分と暗いように思える。あぁ、身体もいい感じに温まったところで、いい感じに眠くなっ