脚の傷が痛む。
ぽたぽたと滴り落ちる血が、その下の地面に赤く染み込んでいく。
だが、今のギルには少しも気にならなかった。
目の前で、戦闘態勢に入っている〝奴〟がいる。
気は、そっちに向いていた。
第11話 〝暗雲立ち籠める暗闇の森〟
「……らぁっ!!」
右腕の大砲を奴に向かって構え直し、いち早く腕に力を入れる。
途端、一瞬の出来事。
地に向かって打ち込まれた砲弾……によって引き起こされた爆発は、辺りを煙で囲うにはうってつけだった。
「〝鉄の大剣
アイアンブレード
〟……」
もくもくと硝煙が立ちこめる中、ギルは今まで大砲だった右腕を今度は剣に変える。鋼色に鈍く光り、身の丈ほどもある巨大な大剣だ。
次の瞬間、煙の中からうなり声を上げる「人型」が飛び込んできた。
すかさず横へパンチをかわし、右腕の大剣で斬りかかる。
「このっ……!!」
「キシャアアアアアアア!!!」
「……!!」
瞬間、ぞっとしたギルは、思わず左腕も小型の剣に変えた。
そこから始まる接戦は、とても筆舌には尽くしがたいものだった。
ギルの剣による攻撃はことごとく「人型」の図太い腕や脚で弾かれ、時には刃を歯で噛み付いて止められる。
一方「人型」から繰り出されるパンチやキックは、ギルは剣で交戦すると同時に、何とか全てをかわしていた。
……一見、対等にも見えるこの勝負だが、ギルは既にこの戦いが、自分にとって圧倒的に不利なものであることを感じ取っていた。
まず、ギルと「人型」とじゃ身体が違う。
宝石のように赤く、鉄パイプのように図太い奴の手足は凄い筋肉で、筋肉質なギルの身体も奴の前では霞んで見えるほどだった。
その腕から鋭く空気を切って放たれるパンチは、一発食らうだけでも致命傷だ。実際、さっきからかわし続けているこいつの拳は、流れた先の大樹や石などを例外なく粉々に破壊している。大剣を盾にしてガードすることも考えたが、それだと確実に大剣ごと吹っ飛ばされて終わり、ということが目に見えていた。
……だが、ギルの剣を二、三発食らったってこいつは死にはしないだろう。
「人型」の拳はギルの頬や服を掠りながらも、何とか一度も直撃を食らわないまま耐え凌いでいた。
「(くっそ!! このままじゃ、やられんのも時間の問題か……!)」
そう思ったギルは、突如、右腕を大砲に戻した。
素早い動作で砲身を奴に向けると、そのまま右腕に渾身の力を込める。
「〝巨人の大砲
ゴーレムズ・キャノン
〟!!」
ドカアアアン!!
目の前で爆音が響き渡り、もの凄い爆風に辺りの木々が千切れんばかりに揺れる。
ギルは、確かな手応えを感じた。
「ギッ、シャアアアッ!」
「人型」は直撃した砲弾に吹っ飛ばされ、遥か向こうで硝煙に包まれた。
腹を痛めたかのような、「人型」の唸り声が聞こえる。
当然のごとく、ダメージは殆ど無さそうだが。ともかく、一時的にでも奴と距離を取ることには成功した。
ギルは深く息を吐き、今までの張り詰めていた状況を忘れるように、頭を左右にぶんぶんと振った。
「接近戦は自殺行為だったか……見たところ奴の攻撃は体技だけだったからな。ある程度の距離を置いた方が戦いやすい……」
そう思っていた直後。
身体が、吹っ飛ばされた。
突如、目の前の景色が、凄い勢いで遠ざかっていく。
「……かッ……!!」
流れていく景色の中に、拳を突き出す「人型」が見えた。
――――――――――――
「……っは、……っ、はっ……はっ……」
荒く、小さく息をする。
なにが起こったのか分からず、ギルは静かに首を擡
もた
げた。
だが、じわじわと、しかし痛烈にやって来た腹の痛みに、顔を歪める。
「……く……っ……」
朦朧とする意識の中、頭を左右に動かして辺りを見る。
森の奥まで吹き飛ばされたのだろう。さっきまでとは全く違う景色だった。
辺りは大木で囲まれ、その木々の僅かな隙間から、微かに日光が漏れ出しているだけだ。
さっきより、圧倒的に暗い場所。
だが、それ以上に、
痛い。
「……肋骨
あばら
、何本かイったな、こりゃ……」
声にならないほど小さな言葉を繋げ、何とか言葉にした。
だんだん、状況が飲み込めてきた。
――迂闊
うかつ
。
完全に油断していた。
舐めていたのだ、奴の身体能力を。
〝一瞬で距離を詰め、殴り飛ばす〟。それは奴にとっては造作もないことだったのかも知れない。
一度吹っ飛ばしたからといって、距離が取れると思っていた。その自分の浅はかな考えに、今さらながら少し腹が立つ。
「やっべぇ……身体、動かねぇ……」
悲痛な声を絞り出したが、声を出すことすら苦痛を伴った。
ぐらぐらと揺れる視界の中、だんだん意識が遠のいていくのが分かった。
エリィは……そうだ、あいつは無事なのか?
あと……えー、飛鳥だっけか? あいつともはぐれて……
……くっそ……
……あいつら……無事なんだろうな……
身体が、沈んでいくのを感じた。
――――――――――――
「おい、また来たぞ。これで三人目だ」
「アンタが入り口をたくさん作りすぎたからじゃないか!」
「……しかし……そうでもしなきゃ、逃げる前にあいつらに喰い殺されるのがオチだ!」
「おいおい……今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「他の二人は?」
「今ウチにいるよ」
「……ありゃ? こいつは……」
「酷い怪我だ」
To Be Continued……
ぽたぽたと滴り落ちる血が、その下の地面に赤く染み込んでいく。
だが、今のギルには少しも気にならなかった。
目の前で、戦闘態勢に入っている〝奴〟がいる。
気は、そっちに向いていた。
第11話 〝暗雲立ち籠める暗闇の森〟
「……らぁっ!!」
右腕の大砲を奴に向かって構え直し、いち早く腕に力を入れる。
途端、一瞬の出来事。
地に向かって打ち込まれた砲弾……によって引き起こされた爆発は、辺りを煙で囲うにはうってつけだった。
「〝鉄の大剣
アイアンブレード
〟……」
もくもくと硝煙が立ちこめる中、ギルは今まで大砲だった右腕を今度は剣に変える。鋼色に鈍く光り、身の丈ほどもある巨大な大剣だ。
次の瞬間、煙の中からうなり声を上げる「人型」が飛び込んできた。
すかさず横へパンチをかわし、右腕の大剣で斬りかかる。
「このっ……!!」
「キシャアアアアアアア!!!」
「……!!」
瞬間、ぞっとしたギルは、思わず左腕も小型の剣に変えた。
そこから始まる接戦は、とても筆舌には尽くしがたいものだった。
ギルの剣による攻撃はことごとく「人型」の図太い腕や脚で弾かれ、時には刃を歯で噛み付いて止められる。
一方「人型」から繰り出されるパンチやキックは、ギルは剣で交戦すると同時に、何とか全てをかわしていた。
……一見、対等にも見えるこの勝負だが、ギルは既にこの戦いが、自分にとって圧倒的に不利なものであることを感じ取っていた。
まず、ギルと「人型」とじゃ身体が違う。
宝石のように赤く、鉄パイプのように図太い奴の手足は凄い筋肉で、筋肉質なギルの身体も奴の前では霞んで見えるほどだった。
その腕から鋭く空気を切って放たれるパンチは、一発食らうだけでも致命傷だ。実際、さっきからかわし続けているこいつの拳は、流れた先の大樹や石などを例外なく粉々に破壊している。大剣を盾にしてガードすることも考えたが、それだと確実に大剣ごと吹っ飛ばされて終わり、ということが目に見えていた。
……だが、ギルの剣を二、三発食らったってこいつは死にはしないだろう。
「人型」の拳はギルの頬や服を掠りながらも、何とか一度も直撃を食らわないまま耐え凌いでいた。
「(くっそ!! このままじゃ、やられんのも時間の問題か……!)」
そう思ったギルは、突如、右腕を大砲に戻した。
素早い動作で砲身を奴に向けると、そのまま右腕に渾身の力を込める。
「〝巨人の大砲
ゴーレムズ・キャノン
〟!!」
ドカアアアン!!
目の前で爆音が響き渡り、もの凄い爆風に辺りの木々が千切れんばかりに揺れる。
ギルは、確かな手応えを感じた。
「ギッ、シャアアアッ!」
「人型」は直撃した砲弾に吹っ飛ばされ、遥か向こうで硝煙に包まれた。
腹を痛めたかのような、「人型」の唸り声が聞こえる。
当然のごとく、ダメージは殆ど無さそうだが。ともかく、一時的にでも奴と距離を取ることには成功した。
ギルは深く息を吐き、今までの張り詰めていた状況を忘れるように、頭を左右にぶんぶんと振った。
「接近戦は自殺行為だったか……見たところ奴の攻撃は体技だけだったからな。ある程度の距離を置いた方が戦いやすい……」
そう思っていた直後。
身体が、吹っ飛ばされた。
突如、目の前の景色が、凄い勢いで遠ざかっていく。
「……かッ……!!」
流れていく景色の中に、拳を突き出す「人型」が見えた。
――――――――――――
「……っは、……っ、はっ……はっ……」
荒く、小さく息をする。
なにが起こったのか分からず、ギルは静かに首を擡
もた
げた。
だが、じわじわと、しかし痛烈にやって来た腹の痛みに、顔を歪める。
「……く……っ……」
朦朧とする意識の中、頭を左右に動かして辺りを見る。
森の奥まで吹き飛ばされたのだろう。さっきまでとは全く違う景色だった。
辺りは大木で囲まれ、その木々の僅かな隙間から、微かに日光が漏れ出しているだけだ。
さっきより、圧倒的に暗い場所。
だが、それ以上に、
痛い。
「……肋骨
あばら
、何本かイったな、こりゃ……」
声にならないほど小さな言葉を繋げ、何とか言葉にした。
だんだん、状況が飲み込めてきた。
――迂闊
うかつ
。
完全に油断していた。
舐めていたのだ、奴の身体能力を。
〝一瞬で距離を詰め、殴り飛ばす〟。それは奴にとっては造作もないことだったのかも知れない。
一度吹っ飛ばしたからといって、距離が取れると思っていた。その自分の浅はかな考えに、今さらながら少し腹が立つ。
「やっべぇ……身体、動かねぇ……」
悲痛な声を絞り出したが、声を出すことすら苦痛を伴った。
ぐらぐらと揺れる視界の中、だんだん意識が遠のいていくのが分かった。
エリィは……そうだ、あいつは無事なのか?
あと……えー、飛鳥だっけか? あいつともはぐれて……
……くっそ……
……あいつら……無事なんだろうな……
身体が、沈んでいくのを感じた。
――――――――――――
「おい、また来たぞ。これで三人目だ」
「アンタが入り口をたくさん作りすぎたからじゃないか!」
「……しかし……そうでもしなきゃ、逃げる前にあいつらに喰い殺されるのがオチだ!」
「おいおい……今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「他の二人は?」
「今ウチにいるよ」
「……ありゃ? こいつは……」
「酷い怪我だ」
To Be Continued……