1年位前に書いていた連載小説をうpしてみることにしてみました。
 kyouneには珍しくエロ小説ではありません。異世界バトルものという厨ニ的設定丸出しのものです。
 実は僕はこれが処女作。それゆえ文法的におかしな所も散見されるでしょうが、温かい目で見て頂ければ。

 22話で連載が止まってしまっており、今のところ連載再開の予定はありません。
 もし皆様の方で「続きが読みたい」という声があがった場合は、連載再開を検討したいと思います。

 それでは、どうぞ。








 誰でも一度は考えたことはないだろうか。
 実は、今俺達が住んでいる世界とは別に、もう一つ別の異世界がどこかに存在しているのではないか。とか、
 現代の科学では観測できない遠い宇宙に、地球と同じような、もしくはそれより遥かに発達した文明を持った星が存在しているのではないか、とか。
 それらはただの夢物語として扱われるが、絶対に「有り得ない」と証明することはできないはずだ。
 もし実在するのなら、俺はそういう所に行ってみたい。
 この忙しい日常の喧騒から抜け出して、そういった未知の世界を歩いてみたい――。

 ……と、思っていた時が、俺にもありました。
 悲しいかな俺は生まれてから十八年もの歳月で、そんな夢物語は「ほぼ、というか99・9%有り得ない」という結論に行き着いた。
 普通に考えれば当たり前だ。
 この世を支配する様々な物理法則。また世間の〝常識〟も相まって、高校三年にもなって未だにそんなことを熱心に唱えている野郎は、もっぱら「電波」とか「変人」などと呼ばれたりするのが、ごくごく一般的かつ普通のオチなのだ。
 受験や生活、果てはその先の就職まで目まぐるしい日々に追われていた俺は、いつしか子供の頃に持っていた、そういう〝理想〟を、すっかり忘れてしまっていた――。



          第1話 〝イヴの夜に響く〟



「はい、じゃあ今日の授業はこれまで。各自復習をしっかりとしておくように」
 教壇の前に立つ男性教師が、そう言って教科書をパタンと閉じた。
 教師が教室から出て行くと、教室中の生徒達はそれぞれ背伸びをしたり欠伸をかいたりしながら、そそくさと一斉に帰り支度を始める。
「……あーあ、やっと終わったか……」
 俺は口から気の抜けた炭酸ガスのような声で、小さく溜息をついた。

 ここは都内の有名な進学塾の教室。
 全国でも指折りの有名な塾で、そこでは圏内一握りのエリート学生が毎日のように集まって授業を受けている。
 何を隠そう俺もその内の一人だ。
 窓の外は既に真っ暗。時刻は夜の十時半。もうすっかり、夜空には大きな満月が眩く光を放っていた。
「おーい、飛鳥
あすか
ぁ」
 ふと、後ろから名前を呼ばれた。
 振り返ってみると、そこには同じクラスの友人達が携帯電話を片手でいじりながら、五~六人のグループを作っていた。
「なぁ、俺らこれからカラオケ行くんだけどさ。飛鳥も一緒に行かね? どうせ明日は休みなんだし、今日はクリスマスイヴだろ。彼女いない男達で集まって、朝までパーッと騒ごうぜ!」
 やけにテンションの高い男達からの遊びの誘いは嬉しかったが、明日のギッシリ詰まったスケジュールが目に浮かぶと、俺は直ぐさま首を横に振った。
「悪い、明日も朝から晩まで別の塾があるんだ。今日はパスな」
「えーっ! クリスマスまで塾の予定入ってんのかよ! お前の所はホント教育熱心だな……」
「……まあな。自覚はしてるよ」
 俺は苦笑しながら鞄を手に取り、遠ざかっていく彼らに手を振った。
 カラオケか……。
 楽しそうだなと思いながらも、俺はさっさと鞄に荷物を纏めると、近くのドアから教室を後にした。

 自分で言うのも何だが、俺は割とどこにでも居そうな、ごく普通の高校三年生だ。
 残念ながら、漫画やアニメに出てくる主人公のように特別に運動神経が良かったり、極めて特異な家系を持ったりしている訳でもない。ましてや杯を交わした兄弟が居るわけでも、生まれながらに人智を逸した超人的特殊能力を持っているわけでもない。
 髪は親譲りの黒髪を少し長めに伸ばしており、身長は百七十六㎝。血液型はAB型で、趣味は休日のテレビゲームに読書。悩みといえば、夏目 飛鳥
なつめ あすか
という名前が少し女っぽいと言われるくらいで。ちなみに好きな食べ物は焼肉に海鮮パスタ。
 まあこのように、本当にごくごく一般的な普通の男子高校生なのである。
 特筆すべき点としては、自慢じゃないが成績が全国でもトップクラスの「エリート」と呼ばれる学生であるという事くらいか。
 物心ついた頃から、母親に徹底的な英才教育を受けさせられ、小・中・高と共に勉強尽くめの日々を送ってきた。
現在も有名な進学校に在籍しており、来年も変わらず偏差値最高レベルの大学に入学する予定だ。既に合格判定はAクラスが出てはいるが、念には念をと言うことで、こんな遅くまで圏内のエリートが集まる進学塾に通わされている。

「ふぅ、もう随分寒くなってきたな……」
 塾の建物を出ると、突然吹いた凍てつく外気が身を襲った。
 今日は十二月二十四日。クリスマスイヴ真っ盛りの日である。
 街をざっと見渡しても、まあ見事にカップルや恋人達でいっぱいだ。こんな日にも塾に通う独り者の俺は、何だかそこら中に蔓延したイチャついた空気を鬱陶しく感じる。
 俺は別に、特別異性からモテなかったりする訳ではないのだが、あまりそういうことにガツガツした……いわゆる「肉食系男子」ではないため、こういったことにはさっぱり疎いのだ。ただこの日だけは何故だか、町中にいるカップルを自然と憎悪の眼で見てしまう。日本人特有の器の小ささというヤツだろうか。
「…………ふぅ」
 何気なくついた小さな溜息は、真っ白い煙となって空高くへ上っていった。
 ま、いいか。何と平和な世の中じゃないか。

 それから俺は家路についた。夜道を五分ほど歩いただけでも十二月の寒さは辛く、身体に密着させたこのコートとマフラーがなかったら凍死してしまうのではなかろうかと思うほど寒かった。両側のポケットには携帯用のカイロを入れ、ポケットの中でそれを握り、手の中をじんわりと暖めている。これらは全て冬の受験生必須アイテムだ。
 左腕の腕時計は午後十時四十七分を示している。

 俺は家に帰った後の予定を頭の中で構想する。
 家に帰ったらひとまず暖房の効いた部屋でソファに寝ころび、暖かいコーヒーでも飲んで、それからまた……夜遅くまで……受験勉強か。
「うーん……」
 低い声で嘆息した。もう少し「夜遅くまで受験勉強」の間に何か挟めなかったものか。
 何だかな。世の中が平和なのは大いに良いことだけど、もう少し生活に変化があっても良いんじゃないだろうかと思う。俺が言っているのは別に、街に突然大怪獣が現れたり、人智を逸した超人的超能力を授かったりとか、そういうのじゃない。それはそれで大変なことになりそうだしな。
 ただ、俺ももう何年も全く同じような受験生活を繰り返しているのだ。
 流石に疲れる。たまには友達同士で遊びにでも行きたいものだが、教育者の母親が黙っていないだろうからそれもできない。TVゲームは一日に三十分と定められているが、そんなんじゃモン○ンの上級クエストも満足にできないのが煮え切らない。……受験中に「遊びたい」と思うのは、この時期特有の受験生の本能的衝動なのだろうか?
「……はーあ」
 頭ばっかり回る脳が次第に疲れてきた。
 遊ぶことを考えても空しいだけなので、俺は早歩きで家路につく足を速めた。
 まあ考えるのは後にしよう。とりあえず暖房の効いた部屋に到達するまでは……。

 その時だった。
 帰宅後の勉強の予定を立てるため、何気なく左腕の腕時計を見ていた。

 ――突然、時計の秒針がピタッと止まり、動かなくなった。
 よく見ると、短針も長針も微動だにしなくなっている。
「……あれ、故障でもしたか? 買ったばっかりの筈なのに」
 左腕をぶんぶんと振ってみたが、針は変わらず動く気配がない。
 どうやら壊れてしまったらしい。仕方ないので腕時計は腕から外し、ポケットの中にしまい込んだ。……何だか変な感じだ。新品なのに壊れるなんて。
 直後、ふと街をゆく周りのカップルが目に入った。何とも仲むつまじげなお二人だ。
 ……しかしおかしい。その二人のカップル、手を繋いで笑ったままピクリとも動かない。片足は一歩を踏み出そうとしているのに、いつまで経っても足を地面に付こうとしない。片足で立っている状態だ。
「? ……なにやってんだ?」
 俺は目を細めてその二人を見ていたが、やがてその俺の目はみるみるうちに大きくなる事になる。
 街の異変に気付いたのだ。
「……え?」
 これは一体どういう事だ。
 街ゆく人々も、道路を走る車も、バイクも、自転車も、全て死んだかのようにその動きを止めていた。
 夜風に吹かれて空を舞っていた新聞紙も空中でピタッと静止し、街灯の明かりに群がる小さな虫も微動だにせず固まっている。目に入る全てのものが、物理法則を完全に無視して動かなくなっている。
「何だこれ……どうなっちまったんだ?」
 俺は訳が分からず、ただ辺りを見渡していた。
 本当に全てが止まって、動いていない。

 突如――視界がぐらっと歪んだ気がした。
 次の瞬間、俺の頭の中を、強烈な激痛が走った。
「……‼」
 突然襲いかかったその痛みに耐えきれなかった俺は、思わず地面に倒れ込んだ。
「あっ……がっ……ああああぁぁぁ‼」
 両手で頭を押さえ、コンクリートの道路の上を転がり回る。脳の芯が破裂するかのような激痛だ。
「頭が割れるっ……‼」
 だがどんなにしても、その痛みが収まることはなかった。



 ……一体どれほどの間、その痛みに身をよじっていたんだろう。
 五分か、十分か……。それは分からないが、俺には永遠の時間のように感じられた。

 だんだん目の前が白く霞んできた。
「……だめだ」
 色が消えていく。
「やめろ……‼」
 何も映らなくなっていく。
「……‼」

 意識が消えそうだ。
 何だか眠い。
 頭が割れる……。

 目の前が、真っ暗になった。








 後から思うに、もし神が居るとするなら、そいつは俺の願いを聞き入れてくれたのかも知れない。
 だが、もしそうだとするなら、その神とやらは随分と願いを叶えてくれるのが遅いじゃないか。
 叶えられた俺の願いは、実に何年も前の、子供の頃のものだった。


To Be Continued……