角川とドワンゴの経営統合 ~ ドワンゴによる買収処理と税制適格株式移転 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


タイミング的に乗り遅れましたが、KADOKAWA(以下、角川)とドワンゴが経営統合するようですね。

共同株式移転による統合ということで、ちょっとプレスリリースから会計・税務的な話題を確認してみます。

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本件は、角川とドワンゴが共同株式移転により100%親会社を設立し、両社の旧株主は新設親会社の株式を取得して上場するとともに、角川とドワンゴは新設親会社の100%子会社になります。

株式の交換比率は、角川株式に対して1.168株、ドワンゴ株に対して1.000株となります。

この比率だけ見てもよくわかりませんが、角川とドワンゴが相互に持ち合いしている株(これらは新設親会社の自己株式となります)を除くと、新設親会社に対する出資比率は、旧角川株主が48%、旧ドワンゴ株主が52%になります。

尚、ドワンゴ会長の川上氏は現在ドワンゴの14.85%を保有していますが、統合後は新会社株式の8.8%を保有する筆頭株主になります。

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統合の報道が行われる直前の5月13日の株価は角川3,150円、ドワンゴ2,566円でした。比率は1.228です。従い、移転比率1.168はどちらかというとドワンゴ株主に有利な比率と言えますね。

案件公表後の5月15日には、角川3,470円、ドワンゴ2,972円で綺麗に1.168倍になっています。

尚、その後両社の株価は下落しており、5月26日時点での時価総額は、角川926億円、ドワンゴ1,076億円です。統合会社の時価総額は、自己株となる持合い株を除いて1,823億円と計算されます。

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さて、開示資料によれば、本件の会計処理としては、ドワンゴが角川を買収したものとしてパーチェス法を適用するとのことです。

どちらが買収者なのかの決定は悩ましいところではありますが、相対的な旧株主の比率ではドワンゴ、新会社の筆頭株主という点でもドワンゴです。一方、株価に対してプレミアムが付されたのもドワンゴ。新会社の取締役構成という点では、旧角川5名に対して旧ドワンゴ6名。

これらを総合勘案すれば、ドワンゴに軍配が上がりそうな感じですね。

ちなみに角川の純資産は2014/3末時点で1,104億円です。ここからドワンゴ株式の3月末の時価相当を控除すると931億円です。

一方、角川の時価総額からドワンゴ株式分を除くと880億円。

買収価額がやや純資産を下回るということで(これに加え角川のコンテンツ等の無形資産の時価評価により時価純資産はもっと高い可能性もありますが)、会計的には負の暖簾のポジションのようです。

但し、当然ながらこの辺は今後のドワンゴの株価に依ります。

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ちなみにドワンゴの簿価純資産は2014/3末で219億円。時価総額との比較では750億円ほどの暖簾が計上されるポジションです。

つまり、今回の統合は、会計上いずれが買収企業と認定されるかによって、負の暖簾が計上されるか、多額の正の暖簾が計上されるか、という大きな差が出ていたわけです。

まあ、だからといってドワンゴが買収企業になるように設計したわけではないでしょうけど。

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最後に税務の取扱いです。

開示資料において、ドワンゴのFAだったJPモルガンのdisclaimerにもある通り、本件は税制適格の株式移転となることを想定しているようです。

当然ながら両社に支配関係はありませんので、適格になるには共同事業要件を満たす必要があるわけです。

この点、株式移転の対価は株式のみ、移転後の完全親子関係は継続する見込み、両社の従業者の80%以上は継続する見込み、両社の事業に関連性あり、両社の事業は継続される見込み、両社の関連事業の売上又は従業者の規模が1:5以内或いは両社の特定役員に退任予定なし、という当りの要件を考慮して、おそらく問題ないということなのでしょう。

ちなみに、元々角川は純粋持株会社である角川グループホールディングスの下に事業会社がぶら下がる資本構造でしたが、2013年4月と10月に角川グループパブリッシング、角川書店等の11社と持株会社が合併し、現在は角川本体が事業会社となっています。

この辺りも適格要件の検討に影響していたように思います。

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ということで、適格株式移転の場合、両社に対する時価評価課税は発生しないことになりますね。

ちなみに、現在、両社は各々連結納税を採用しています。

この点、新設親会社の100%子会社になることにより両社の連結納税は解消することになります。

ただ、おそらく連結納税のメリットを継続する為、新設親会社による連結納税を同時に開始するのではないかと想像します。

この適格株式移転と同時の連結納税開始には特例があり、旧親法人である角川とドワンゴの繰越欠損金は、新連結納税グループ全体で利用できる繰越欠損金として引き継ぐことが可能です。

一方、その100%子会社として連結子法人になる会社の取扱いは、100%子会社後5年以上経過又は設立保有の場合は時価評価課税なしで繰越欠損金は個社のみで利用できる欠損として引継ぎ可能、これに当たらない子会社の場合は時価評価課税の対象且つ繰越欠損金は切捨てといった扱いになります。

ま、この辺もきっと色々考えているんでしょうかね。

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ということで、今回はここまでです。

まあ、会計・税務的にはあまり大した話題はありませんでした。。

経営統合うまくいくといいですねぇ。