コノハの癌細胞を大歳に移す作業は困難を極めた。
 ベッドで点滴が打たれているコノハに加え、テリンも点滴を打ちながらひたすら、イメージを強く保ち続けなければならなかった。心を強く保ち、集中し続けること。睡眠時以外はずっとコノハからの癌細胞除去に徹した。
 しかし、効果はあった。コノハの本来の姿が少しずつ見えるようになってきたのである。
 獣化しようとする細胞を大歳に移し続けることで、コノハの獣化具合が減り始めた。後は完全にヒトに戻るまで同じ行為を続けるのみだった。
 コノハが話せるようになると、テリンもカリンとテンリが交互でおしゃべりした。
 病は気から。負けないという気持ちを保ち続けることが重要だった。
 めえコタや母もテリンを応援し続け、コノハの体は徐々にヒトの姿を取り戻していった。


 そして――
「……もう、獣化し続ける部分はあらへんかなぁ……」
 コノハは二ヶ月の闘病生活の中で、少し痩せた。本来持っていた遺伝子量を減らしたのだから無理もない。
「めえ、頼むで」
「うん。クルルルルルルゥ――――」
 めえが鳴く。獣化を促そうとしている。しかし、この鳴き声にコノハの体は反応しなかった。
「もう一回。クルルルルルルゥ――――」
「……」
 無反応。
「これは……成功と考えていいんかな?」
 テンリが言った。
「うん、成功やで!」
 カリンが力強く言った。
「治った……治ったんや!」
 コノハは感極まって涙を零す。それに釣られてみんなも一緒に泣いた。
 退院まではもう少し体力を回復させる必要があるが、春を迎える前に、コノハの獣化因子は完全に消滅できた。
 動物に変身することができた、不思議な数ヶ月間も幕を閉じ、いつもの日常が戻ってくる――


おしまい