「ズズズー」
 カオスな状態も時間が経てば収束していくもの。コノハのケモッ娘形態を見て、騒ぎ立てていた一同であったが、今は落ち着きを取り戻してめえおススメのゴージャスなミルクティーをみんなで飲んでいる。
「コノハ、まだ戻れそうにないん?」
 テンリがコノハに聞いた。
「うん……どうしたらええのかにゃんてんでわからへん」
 こうなってしまっては、今まで自分はどうやって変身してきたのかとさえ思ってしまう。服はぶかぶかのままもあれなので、めえの子供の頃のお下がりを貸してもらうことになった。服を着たネコのケモッ娘姿はますますケモナーが思い描く理想的なケモノに近付いているような気がしてならない……
 カリンだけはチラチラチラチラ、コノハの方を見てきて落ち着きがない。今すぐにでも飛び込んできそうだが、何とかギリギリの理性で抑えているような危うい感じだ。
「うーん、変身体質の人のことはよくわからないけど、そういえば、前、コタロー君も動物に変身したまま人の姿に戻れなかったことあったわよね?」
 ミルクティーを運んできてくれたねえが言った。コノハの姿を見たときは驚いていたが、すぐに慣れた風だった。
「そうですね、僕も戻れない時があったから、そういう時期があるのかもしれない」
 ティッシュを鼻に詰めたコタローが答える。何だか情けない風に見えてしまう。
コタローは人に戻れなかったことで、タヌキとしてしばらく高校の飼育小屋で飼われてしまっていた。
「めえは結構いろんな姿に変身できるからあれだけど……コタロー君が言うように、コノハちゃんにもそんな時期があるのかもしれないわね」
「そうですにゃねー」
 コタツに足を突っ込むが、全身の獣毛がすぐに熱を持つのでコタツから足を入れたり出したり。布団にくるまっていた方が安定して温かいかもしれない。
「まぁ、そんなに気を落ち込まないでいいわよ。冬休みでしょ? しばらくうちに居てもいいし」
「はいにゃ……」
 ねえが温かい言葉をコノハに送る。コノハはねえの優しさに目頭が熱くなった。
「コノハがお泊りするなら、めえも嬉しいなぁ~~」
 めえはニコニコ。フェネック寄りのケモノ姿で微笑んでくる。しかし、めえは獣毛が厚いのか服は着ていない。これに関してはコタローは慣れているのか、めえと話をしても鼻血は出てこないようである。
「まぁ、今日はみんなでめえの家にお泊りさせてもらうとして、コノハの様子見やなー」
 テンリはクリスマスパーティー後、帰る予定だったが、付き合ってくれることになった。
「まぁ、せっかくのクリスマスだから細かいことは気にせず、楽しんで」
 ねえはそう言って、部屋から出て行った。
「はにゃぅ……ずっとこのままにゃったらどにゃいしよぉー」
 数ヵ月前、ずっとネコになっていてもいいと思っていた黒歴史がふと脳裏を過った。
「その時は、めえの家に住めばいいよぉー!」
 めえがニコニコ、そんなことを言ってくれる。これは気を使って言ってくれたというものよりも本心だろう。
「あぁ……あかん……もう……我慢……無理……」
 カリンがブルブル震え始めた。
「コノハあぁぁぁぁぁーん!!」
 カリンがコノハの方に飛びついてきた。
「にゃあぁぁー!」
 しかし、それは予想済み。コノハはサッと横に避ける。
「うにゃ!?」
「ひぇっへっへ、つ~か~ま~え~た~」
 カリンは瞬発的に体勢を立て直し、コノハの体を両手で掴んだ。カリンの方が体が大きく、力も強いのでコノハは逃げられない。まるで巨人に体を掴まれているような感じである。
「ふおぉぉぉ~~もふもふもふもふもふもふ」
 カリンは奇声を発しながらコノハを愛でる。頭をなでなで。しっぽをさわさわ。肉球をぷにぷに。意外にも、これは気持ちよかったりする。
「あにゃー、ふにゃー」
 助けを求めて体をじたばたさせるが、テンリはコノハ可愛いと言って助けてくれない。この姿はいろいろダメだ。
「うちも同じような姿なりたいなぁ……」
「!?」
 嫌な予感がする。この雰囲気は……カリンとまた融合してしまうような……
「嫌にゃー!」
 コノハは爪を立てて、カリンの顔を引っ掻いた。
「痛っ! あん……コノハ凶暴……でもこれもいい……」
「カリンの変態!」
 カリンが痛がって力を緩めた隙に、コノハはテンリの方にトテトテと走って向かった。足の裏に肉球があるので、少し走り辛い。
「おいでおいでコノハー」
 テンリが両手を広げてコノハを招く。コノハは勢いのままテンリのムネに飛び込み、抱きしめてもらった。
「あぁー! テンリ、ずるいずるいずるいいいいい!!」
 カリンがものすごく悔しそうに言う。ハンカチがあったら歯で引き千切っていそうだ。
「よしよし、コノハ、カリンは怖いからここにいてええよー」
 テンリの扱い方もコノハを子供っぽくみているが、体を優しく撫でられると心地よかった。最近、変な性癖に目覚めそうな自分がいる……
「ねえねえ、コタロー、めえをだっこして」
「えぇ!?」
 コノハとテンリのやりとりを見ていためえは羨ましくなったようで、コタローに同じことを要求。コタローは突然のめえの甘えに顔を赤面させた。
「早く早くー」
「う、うん……」
 キツネのぬいぐるみみたいな小さな姿になっためえを膝の上に乗せる。めえが膝の上にいる。めえが膝の上にいる。コタローは良からぬ妄想を掻き立てそうになって、合わせてて頭を左右に振った。
「ありがと。うふふ」
「////」
 めえが満足そうに言うと、コタローは照れまくった。バカップルよろしくの甘い雰囲気が突如広がる。
「うちは……うちは……誰もおらへん……」
 コノハをテンリに取られ、めえはコタローとラブラブ。カリンはテンリに嫉妬の視線を送りまくる。
「へへん、そんな視線を送ってもコノハはわたしのものやからね」
「解せぬ……解せぬぞ、テンリィィィー!」
 感情の起伏が激しいカリンさん。毎日無駄なエネルギーを消費しまくっていそうだ。
「テンリにゃん、熱い……」
「テンリにゃん……かわいい」
 テンリはコノハにそう呼ばれて萌えたらしく、さらにぎゅーとコノハを抱きしめる。
「うにゃあぁぁ~! ヘルプヘルプ!」
 コノハの意に反して抱きしめられたコノハはテンリの腕の中でもがいた。
「あぁんっ! やんっ! にゃはっ!」
 その時、コノハの体が再び急激に熱くなり始めた。
「あ、あれ……コノハ……?」
「はぁはぁにゃはぁ……」
 ビクビクとコノハの体が震え、マズルが少しずつ前へ突き出し始めた。
「え……何……?」
 テンリは困惑する。カリンは、チャンスは今とばかりにカメラを撮り始めた。