カリンが右手を上げると、画面の中のケモノキャラも右手を上げる。
 ポップな音楽が流れ始め、体をどう動かすかの指示が出るとともに、可愛らしい声も出る。
「右手上げてー、ジャンプジャンプ、足を交叉して、前屈ー」
 見ていると結構激しい動きをしている。これがこの曲の振りなのかはわからないが、指示に従って体を動かせば確かに踊っているように見える。
 カリン以外の三人は画面に釘付けになって見ていた。
「はぁはぁ……まぁ、こんな感じやで」
 体力には自信があるはずのカリンが息を整えながら言った。それだけでも激しい運動とわかる。
「おっもしろそ~~! めえやるー! 次、めえやるー!!」
「よっしゃ、めえ、キタコレ」
 めえがバーチャルダンスバトルに初挑戦する。ダンスの得点で友達と競い合うのがこのゲームの由来なのだ。
 めえがテレビの前に立ち、カリンに全身をスキャンされる。カリンがキャラクター作成をコントローラーでサササッと操作して、めえが半獣化したようなフェネックのケモノキャラを作り上げた。
「めえはこんな感じかなぁ? どや?」
「うん、いいね! おおきにー」
 めえは嬉しそうにカリンに返事をすると、カリンは得意げに鼻を擦った。
「それじゃあ、始めるでー、準備はええか、めえ?」
「うんっ!」
 めえがそわそわする。コタローがそれをドキドキしながら見守る。
「レッツダンシング!」
 めえがカリンの時と同じようにテレビに向かって叫ぶと、ゲームが始まった。
 ポップな音楽が流れ、めえはゲームの指示に従って体を動かしていく。画面の中のケモノも同じようにそれに合わせて動く。
「はっはっはぁっ、あ、違った。あ、う~~、意外に難しいなぁ」
 めえはぎこちない感じの動き。
 カリンのようにうまくは踊れないようだ。コタローがコタツから拳を握って小さくがんばれと応援している。恋人らしい?光景だ。
「あはっ、やぁっ、あーん!」
 後半につれて動きが激しくなっていく。めえは指示の動きに反応できず、失敗、失敗。得点が上らない。
「むぅぅー、あぅぅー」
 めえの長い白髪の中からぴょこんとケモ耳が飛び出した。
 うまく踊れなくてフラストレーションが溜まってきたようで、少し難しい顔になってきた。
「あ、違っ、あ、右? うぅ、ジャンプ?」
 にょきにょきにょき。めえのスカートの根元からしっぽが生え始めた。他に人がいるところだったら、必死に隠したかもしれないが、気ごころの知れた仲間内なので、あー、獣化してるー、程度の認識に収まっている。
「はぁはぁ……うー、カリンの半分くらいだった。悔しい……」
 めえのゲームが終わった。


「めえ、中途半端に変身してるで」
「ふにゅ?」
 めえの姿は手足が腕や膝まで半獣化、通常めえが獣化する半分くらいのケモ耳が生えている状態だった。人外娘や半妖怪といった姿。
 コタローはめえの中途半端な変身の姿を見て、何を感じたのか、鼻血を垂らした。
 めえは自分の体を見直して、「あ、ホントだ」と少し驚いた風だった。無意識だったらしい。これは外のゲーセンには連れていけないなと一同。
「次はだれだれ?」
 カリンは自分がまたプレイしたいようで、早く早くと次のプレイヤーを急かす。
「そんじゃ、わたしがカリンに対抗したるでー!」
 テンリがそう言って、めえとバトンタッチ。
「ふふふ、テンリもうちには勝てへんで」
 バチバチバチと視線が飛び交う。この二人は相変わらずだ。
 カリンがテンリを全身スキャンし、コントローラーでセクシーなケモノキャラを作った。テンリはそれに満足した様子で、早速、プレイし始めた。
「レッツダンシング!」
 テンリのダンスが始まる。
 最初はゆるやかに体を動かし、徐々に激しい動きへと移行していく。
「む」
 カリンが眉根を寄せる。テンリは今のところノーミスだ。
「ふふふ、カリンには負けへんでー」
 テンリがお尻を振りながら、カリンに言う。
 ぷりんぷりんとスタイルの良いお尻がダンスに合わせて揺れ、コタローはそれに見惚れて゜q゜といった顔になっている。
「イテッ」
 コタローが放心していると、めえに膝をつねられたようだ。めえがキッとコタローを睨み、コタローはシュンとした。二人の愛は深まっているようだ。
「それじゃあ、両手両足を床についてー」
「え?」
 テンリがゲームの指示に合わせて四つん這いになる。そして、後ろ足で砂を掘るような動きをさせられる。それから、仰向けになってごろんごろんとしたり、かなり、アニマルチックな動きをさせられる……エロイ……
 コタローはそんなテンリを見て、再び、鼻血を垂らした。めえが少しの怒りを込めて、コタローの鼻に丸めたティッシュを差し込む。
「はぁはぁはぁ……なんなんやこれ……?」
 テンリははぁはぁと荒い息使いで、ゲームを終了した。
「ふふふ、このゲームはうちが支配しているのを忘れずに……」
 カリンがまた何かよからぬことをしたらしい。テンリは惜しくも、カリンには届かなかった。