「え! コタロー君、学校の飼育小屋に入れられていたん?」
 カオスな状況が落ち着き、テンリを中心に話を整理した。コタローもめえがケモノ姿でしゃべりまくっているのを見て、タヌキの振りをしているのをやめた。カリンがポン吉ポン吉とコタローをもふもふしまくるので、話を聞いたところ、タヌキになったまま元に戻ることができず、コノハ達の学校の飼育小屋に入れられていた時期があったという。
「(あ、私、普通のタヌキと思ってたから普通に餌をあげたことあったわ)」
 コノハは心の中で思った、しかし、コタローと目が合うと、コタローは赤面した。少し気まずい雰囲気。
 今の状況は、コノハはタヌキのままテンリに抱かれ、コタローとめえはケモノ姿のままカリンから降ろされた。
「えーっと、もう、いい感じやったのに、カリンがタイミング悪く帰ってくるからコタロー君とめえをくっつける作戦が台無しやわー」
 テンリが当事者達の前でカリンに向かって堂々と言う。
 しかし、当事者の二人はテンリの言うことをちゃんと聞いていなかったようで、それぞれポカンとしている。めえは変身の抑えが効かなくなり、完全にフェネック化した。コタローは鼻血を止めるためにテンリからティッシュをもらったが、タヌキ姿ではうまく鼻に詰めることができず、自然に止まるのを待つ形になった。
「ぶぅー、そんなうちに言われても困るわ。うちはコノハのTFが見たかったのにぃー、のにぃー」
 ぶうたれて不満気味なカリン。反省の色など露もないようだ。
「まぁ、ええわ。とりあえず、買ってきたもん食べようやー」
 そう言ってカリンは手に提げていたスーパーの袋から屋台の品々を取り出した。
「はい、めえはミルクティー好きやったね」
 カリンが缶ジュースをめえの前に置いた。
「わぁー、ありがとうカリン」
 しかし、めえはキツネ姿である。前足もまるっとしていて、蓋を開けることはできない。と誰もが思ったのであるが、めえはくるりを反転して、器用にしっぽを蓋の下に挟み込み、思いっきり振って缶ジュースの蓋を開けた。
「めえ、すごい……」
 めえは両前足で器用に缶ジュースを掴み、嬉しそうにゴクゴク飲む。一同はしばし、めえの器用な動作に見とれた。
「売れ残りばっかであんまええの無かったけど、安かったわ」
 そう言ってカリンが出した品にコタローがピクンと反応した。
「ハッ! それは稲荷屋の油揚げ!」
「ん? 変わったもん売ってたから買ってみたんやけど食べる?」
「ほしい、ほしい! 僕は子供の頃から好きで夏祭りにはいつも読んでいるんだ。今日は一族の会議で食べられないかと思っていたけど……食べたい」
 コタローが目を輝かせながら言った。
「ほいっ」
 カリンが何を思ったのか、油揚げをコタローの方に向かって投げた。完全に人の扱いをしていねぇ!
 しかし、コタローはそんなこと全く気にもせず、空中で見事にパクッと銜え、地面でムシャムシャと嬉しそうにしっぽを振って食べる。
「タヌキなのに油揚げ?」
「キュイ……(う、うん、好きみたいやね……)」

 テンリとコノハが何か違うという雰囲気を感じて思わず呟いてしまった。
 どうもめえとコタローはケモノ姿だからか、本能的にほしいものに夢中になっている。
「コノハもなんか食うか?」
「キューン(そうやな)」
「あぁ! うちがやるやる、コノハに餌あげる!」
「ガルルル(ケモノ扱いするな!)」
 コノハがカリンに向かって怖い声で鳴くと、テンリがカリンを制した。
「コノハ嫌がってるやろ。わたしがあげるわ」
「うぅ……うぅ……」
「タヌキって何食べるんだっけ……」
「キュイキュイキュイー!(だからテンリもタヌキ扱いせえへんといて!)」
 コノハの鳴き声は誰にも理解されない。これは早く元に戻った方がよさそうだ。

 結局、コノハはタコせんをテンリに食べさせてもらった。タヌキ姿だとなかなかめえのように器用に前足を使うことができず、少し食べるのに苦労した。
 一同が和気藹々とカリンの買ってきたあつまみを食べたところで、テンリが思い出した風に言った。
「よーし、役者が揃ったところで、そろそろ作戦を始めよか」
「ん? 何の?」
 カリンは全くわかっていない様子。しかし、他の一同もポカンとした感じだった。
「阿呆、めえとコタロー君をつっつけて、コヅチちゃんのブラコンを直す作戦やろ!」
 テンリがカリンに大声で言ったのを聞いて、コタローは思わず、飲んでいたお茶を口から噴いてしまった。
 しかし、テンリはそれに気づかず、さくさくと話を進めていく。
「ここまできてやらへんかったら、コノハがタヌキになった意味あらへんやろ! こほん、作戦はこうや。コタロー君がちょうどタヌキになって出てきたつうから、もう一度そのまま入ってもらって、コヅチちゃんを裏の出口から外に誘導する。外に出たら、コノハも加わって、タヌキ二匹で走り回って混乱させる。その隙にわたしがこの忌まわしい体で触ってコヅチちゃんをタヌキにする。タヌキになったらカリンが拘束して、目の前でめえとコタロー君をくっつけると」
 さくさくとテンリは説明した。しかし、そんなに都合よく作戦が進むとは到底思えない。一同は複雑な表情をした。
「ええからやる! はい、全員配置に付けー!」
 テンリは強引に押し進め、何故かそれをしなければならない雰囲気になってしまったので、言われるがまま作戦を行うことになった。
 テンリは裏の出口と言ったが、狸居家の構造を知っているわけではない。ノリで言ったのだろう。しかし、コタローが言うところによると、今いる場所から草薮をくぐると庭があり、家の裏の出口もあるという。
 雰囲気に流されるまま、全員でその裏口に行き、近くを探索して体の隠れる場所を確認し、作戦を決行することになった。