少し時間を遡る――
 めえはコヅチに手招きされて一族の会議から抜け出した。玄関先に向かったところで、コヅチが振り返る。
「めえ、何でうちに来たん?」
「え? 何でって、親戚の集まりがあるから……」
「そんなのわかっとる。何でめえが来たのかって聞いとるんや」
「だ、だから親戚の集まりで、めえは……その、〝筋〟持ちだから」
 ピクッ
 コヅチの表情が一気に険しくなった。
「わかってるわ、コタローに会いに来たんやろ、ええなぁー、お二人さんは一緒にケモケモしてー」
「ち、違うよぉ! めえは会議に呼ばれたからで、コタローに会いに来たんじゃ……」
「うるさい!! お前が憑きモノに変化できるようになってから、コタローも憑かれたんや、それまではコタローは変化しなかったのに」
「そ、そんなこと言われても、めえだって、めえだってどうして変化できるのかわからないよぉ」
「最近はコタローの〝天紋〟も育ってきている、これ以上、お前に合わせるとコタローが〝獣堕ち〟してしまうかもしれへん、もう会わんといて」
「そ、そんなぁ、ど、どうしたの、コヅチちゃん、昔は優しかったのに……怖いよ……」
「ちゃん付けするな!! 帰れ! コタローに会う前に帰れー!!」
「うっ……ひどい、ひどいよ……めえ……何も悪いことしてないのに……グスッ、グスッ……」
「もう二度とうちに近付くな……わかったな」
「う、うええぇぇぇー」
 めえはコヅチの発言に心をズタズタに傷付けられ、狸居家を飛び出した。
「姉さん! 何やってんだ!」
 めえが泣きながら出ていく瞬間を会議から抜け出したコタローは目撃してしまった。
「あ、コタロー。これでもうコタローにくっつく悪い虫は追っ払ったよ」
「姉さんの言っている意味が全然わからない……めえは何も悪くない」
「何? めえを庇うんか? 私は、私はコタローのことを考えて考えて考えているのに」
「どうしたんだよ、姉さんはめえに過剰反応し過ぎだ……」
「何でわかってくれへんの?」
「姉さん……僕はめえを追う」
「あかん! めえと会ったらまた獣に近付いてまう!!」
「そんなことない!! めえがそんな存在だったら、広間に集まっている連中はどうなんだよ!!」
 コヅチが玄関から出ていこうとするコタローの服を掴んで離さない。コタローは仕方なく、狸に変身して玄関を出て行った。