「実は僕、タヌキに変身できるんだ」
 コタローは迷った末、テンリに打ち明けた。
「タヌキ?」
 テンリはコタローの言った意味が掴めなかった。相手はどこからどう見てもウサギである。
「ウサギでしょ?」
「む、僕はタヌキだ」
 テンリはやっぱり化かされているのだろうかと思った。それじゃあ、これは実は夢なのだろうか?
「よっと、このままめえの家に行くのもアレだしなぁ、困ったなぁ」
 コタローは変身してしまった自分の体をあちこち動かしてみる。耳が結構動くことに驚いた。しっぽはほとんど動かせない。どんな姿なのか確認して見たくなった。
「君、鏡とか持ってない?」
「え? 鏡? 持ってますよ」
「どんな姿なのか見てみたいんだ」
 テンリはウサギがそう言ってくるのでいろいろ疑問を抱きつつも、カバンの中から手鏡を出して、コタローを映してあげた。


「……本当にウサギになってる……」
 コタローは初めて見るウサギ姿の自分の驚きの声を漏らした。もしかしたら自分はいろんな動物に変身できたりするのだろうか?
 自分のことをタヌキだというこの人について、テンリは自分のことを話すべきか少し迷っていた。この人が嘘を付いている可能性もあるが、キツネに変身するめえやシカに変身するナナミなど、つい先日、前例を見ているので、動物に変身できるヒトがいてもおかしくないように思えた。
「あ、あの、わたし……!!?」
 テンリが自分の体質のことを話そうかと思った瞬間、コタローが苦しそうな声を漏らした。
「あ、熱い……」
 コタローは再び、変身熱にうなされた。今度は何になってしまうというのか?
 テンリは動物からヒトに戻る過程を初めて見る。いつもはこれは夢だと散々告げてその場を去るようにしていた。
「! これは……戻っているのか?」
 伸びているウサギの耳が少しずつ縮み始めた。腕に生えているクリーム色の毛が薄くなって肌色の肌が露出する。
「ハァ……あぐぅ……」
 ウサギに変身した時同様、慣れない変化をする体に、コタローは息を荒げて耐える。
 全身の毛が薄くなり、体が少しずつ大きくなり始めたところで、コタローは気付いた。変身の際に、局部は見られてしまったが、今のこのままヒトに戻ると全裸のまま女の子の前にいる羽目になるのでないかと。体の変身熱とはまた違った恥ずかしさの熱が上がってくる。これ以上、醜態を晒すのは何とか避けたい。
 しかし、コタローがそう思っているうちでも、ドンドン体の獣毛は失われていき、肌が露出していく。ここで、コタローはいつものように普通に変身することはできないだろうかと考えた。