「ふぅ~、カリンも感情の変化激しいから付き合うのたいへんやわー」
 コノハは校門を出ると駅と反対方向に歩きだし、呟いた。
 狐塚神社までの田舎道を歩く。良い天気で遠くにはもくもくと入道雲が見えた。
「夏やなぁー。海行きたいー」
 どこからか聞こえる蝉の声が夏らしさをさらに強調する。歩いているだけでも汗が滲んでくる。
「お、見えてきた。もうすっかり、祭りの後は片付いてるなぁ。みんなすごい」
 昨日、派手に彩色されていた狐塚神社はすっかり、元の静けさを取り戻しているようだった。何か得体の知れないモノがいそうが厳格な雰囲気。
「それにしても……誰かに見られているような……」
 コノハはくるっと振り返る。しかし、誰もいなかった。
「まさかね」
 少し嫌な予感を感じながらも、コノハは狐塚神社に向かった。


 狐塚神社の入り口、鳥居の前に立つ。鳥居には大きなしめ縄があり、しめ縄からキツネのしっぽを模ったものが垂れ下がっている。この鳥居にあるしめ縄は〝道切り〟とも呼ばれ、境内と俗界のウチとソトを分断する境界の役割を果たしている。悪霊などがソトから入って来ないように、神域を守っているのだ。道切りに垂れ下がるものは神社によって異なるが、ここでは狐天を祀っているのにちなみ、キツネが境界を守護するものとして、しっぽを模ったものが垂れ下がっているのだ。
「よし……」
 昨日とは違う雰囲気に、怖気がつきそうになったが、コノハは鳥居をくぐって、参道を歩いて行った。
「家はどこなんやろう?」
 昨日、初めて来たに等しい狐塚神社、意外に広いので迷いそうになる。
「とりあえず、誰かいやへんかなぁー」
 何故かヒトの気配がしない。聞こえるのは風に揺れる木の葉の擦れる音と蝉の鳴き声だけだ。
「あれ……お札打っているにも人がおーへん……」
 社務所にも人はいなかった。しかし、隣に家らしい建物が建っていた。
「あ、ここっぽい。ピンポンは……あれ? どこだろう?」
 インターホンが見当たらない。どうしようか。
「開いていたりして……」
 試しに扉をスライドさせている。玄関のドアは見事に開いた。
「……」
 入るべきか入らぬべきか。
「すみませーん誰かいませんかー」
 しかし、答えは無かった。
「どうしよう……」
 玄関の前で悩むコノハ。と、
「ええーい、暑苦しい脱げー!」
誰かの声がした。
「誰かいる! ちょっと失礼しちゃおうかな」
 コノハは靴を脱いで声のした方の襖を開けた――

「!!!?」
 その先には、見てはいけない光景が広がっていた。めえと知らない男性が裸でイチャイチャしている。
「し、失礼しました……」
 二人はお取り込み中でコノハに気付いていない様子。コノハは急いで襖を閉めた。
 ドックン
 ドックン
 ドックン
 心臓がバクバクする。何故昼間っから? 神社でしていいの? というか何があった?
 様々な疑問が飛び交うコノハ。しかし、初めて生でああいうのを見てしまい、変な汗が出てくる。
「き、今日は帰ろう」
 お取り込み中なのに遊びにきたとかそんなことを言う勇気は無い。
 今日は帰ろうと玄関で靴を履き、真正面を見ると……
「!」
 木の後ろからこちらを観察している誰かさんとバッチリ目が合った。
「カリン!」
 誰かさんはビクッと肩を震わせる。
「……付いて来たんか……」
「え、えへへ……」
 照れたような笑みを浮かべ、カリンが木の後ろから出てきた。
「……とりあえず、座れるとこ移動しよか」
 ぴょー
 複雑な心境のコノハにカリンのウサピヨが返事した。