コノハはめえに抱えられたまま、人気のない建物の裏に戻った。イイもの見せてあげると言っためえは一体これから何をする気なのだろうか?
 コノハは抱えられた状態から地面に降ろされてちょこんと座った。
 めえはさっきコノハが変身する時にしたように、周りに他に誰もいない事を確認してから、コノハに向かって言った。
「見ててね……とその前に、邪魔なものは脱いでおこう」
 めえはそう言って、浴衣の紐を解いて、ショーツとブラジャーを脱いだ。
(!)
 服が邪魔ということはまさか……
 コノハが思ったことは的中した。めえは下着を脱いだ後、少し恥ずかしそうに浴衣で前を閉じ、変身を始めたのだ。
 カリンと融合して変身したのは例外的に除いて、他人の変身を見るのはビーストトランスに行って以来のことだ。
 めえは静かに立ったまま目を閉じた。
 星空の輝く空の下、それは美しい変身だった。
 めえの耳がピクピクと小刻みに震えながら、三角形へと形を変えながら大きく大きくなっていく。全身は白を基調とした淡いクリーム色の毛が伸びていき、めえは何度も大きく深呼吸をする。両手の指が少し太くなり、めえはグーパーグーパーを繰り返すと、やがて内側からピンク色の肉球が現れた。
 立ったまま変身するのは光景は初めて見る。不思議なことに、めえは変身しているのにも関わらず、息を全く荒げていない。ただ、目を閉じて静かに深呼吸を繰り返している。
 両足の指先が太くなり、かかとが高くなって、つま先立ちしているような格好になった。めえが足を軽くあげると、もさもさとクリーム色の毛で覆われていく。足の裏側には肉球ができているみたいだった。ここで耳を見ると、これまでで初めて見る大きさになっていた。カリンが見せたクルミのゾウ変身に匹敵するかもしれない。しかし、顔と同じくらいの大きさになった両耳は垂れることなく、ピンとキレイに動物らしい三角形を保っていた。めえが少し表情を歪ませ、力み始めたと思ったら、浴衣のお尻側が盛り上がる。恐らく、しっぽが生えているのだろう。めえが顔の表情を元に戻すと、ふさふさのかなりボリュームのあるしっぽが股の間から見えた。めえは突然大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐き始める。すると、それに合わせて鼻先と口先が前方に突き出し始め、その過程で鼻先が黒い三角形に変化した。うっすらと髭も生え、顔の形はキツネのようになった。
 そう言えば昼間、カリンは狐塚一家は狐憑きだとか言っていなかっただろうか。しかし、そんなことはありえるのだろうか? 
 めえの姿はキツネに近付いていく。しかし、髪も生えたまま、ヒトの形は保ったまま。めえの変身している姿はまさにハーフトランス状態だった。
 コノハは最初、ビーストトランス関係の人ではないかと思ったが、あまりにも自然過ぎる変身に、それとは異なる者だと確信した。実際、めえは変身薬を打っていない。
 最後に大きく呼吸しためえはパチっと目を開けた。
「へへーどう? すごいでしょー」
 めえは浴衣を羽織ったまま耳が大きなキツネ半獣化の姿になった。しかし、しっかりヒトの姿の時であっためえの面影は残っている。
「にゃぅー!」
(すごぉーい!)
 コノハはめえの変身シーンにすっかり魅入ってしまった。もしこの場にカリンがいたならば、一人で十人分の絶賛を浴びせたことだろう。
 コノハはフルトランス状態にしか変身できない。しかし、めえは融合したカリンみたいにハーフトランスの姿になれるようだ。