祭りの演出か実際そうなのかはわからないが、キツネの嫁入り行列は笛や太鼓を叩いていかにもめでたそうだ。
「! 冷たっ!」
 テンリがどこからか降ってきた水を浴びた。しかし、続いてコノハ、カリンも上から降ってくる水に少し濡れる。見れば、行列の中の何人かは水の入った桶を持っており、それを観客側の空に向かって手で撒いているのだった。
「これってあれかな、晴れてる時に雨降ったらキツネの嫁入りっていう」
「たぶん、そうやろ。なかなか凝った演出するなぁー」
 コノハとテンリは感心して行列が近付いてくるのを待つ。一方、カリンはというと、常に携帯しているのかデジカメを取り出してカメラマンと化していた。夢中で行列を激写する。
 艶やかな演出に多くの人は時間を忘れ、魅入っていた。キツネの嫁入り行列が三人前も通り、中頃に差し掛かると、キツネの仮面を付けた女の人を乗せた人力車が現れた。
「!」
 コノハはその女の人の白い髪の色を見て朝の出来事を思い出した。
「あれ? でももうちょっとあの時の人は背が高かったような……」
 コノハは違和感を覚えた。
「うわぁ、凝ってるなぁ」
 隣のテンリが感嘆の声をあげた。
「ん?」
「見てよ、コノハ。あのキツネのお嫁さんの格好。お尻の方、服からキツネのしっぽ生やして、長い髪からキツネの耳を出してる。他のところもこんな感じなんかなぁ」
 それは人力車が過ぎてからわかった。キツネの仮面を付けた白髪の女の人は花嫁衣裳をしているが、キツネの演出のためか、お尻は衣装を突き破ってしっぽを出し、髪の間からはキツネの耳を付けている。特撮用のメイクを施したのか、まるで本物のキツネのしっぽと耳を付けているようなリアル感があった。
「へぇ~」
 コノハは感心してキツネのお嫁さんを見送った――と。
「!」
 一瞬、キツネのしっぽが動いた気がした。