心ある議員にお送りさせていただきました。
この国のため、人の心のため、動いて下さると信じております。
警戒区域内の家畜殺処分を緊急停止させるためにお力をお貸しください
平成23年9月9日
取り急ぎ申し上げます。
ご存じの通り、福島の警戒区域では現在、取り残されている家畜に対する殺処分が行われていますが、何とかこれを緊急に停止させるよう政府に対し働きかけ頂きまして、改めて最善の策を、国・自治体・農家の三者で再検討していける時間が持てますよう、お忙しい所とは存じますが、特段のご配慮をもちましてお力添えを賜りたくお願いを申し上げます。
以下、警戒区域における家畜を巡る問題点について、ご説明を申し上げます。
【1】家畜殺処分の執行にかかる法的な問題について
5月12日に行われた官房長官記者発表では、殺処分の指示について、
「原子力災害対策特別措置法第20条3項の規定に基づき、20km圏内の警戒区域の家畜について、原子力災害対策本部長から福島県知事に対し、当該家畜の所有者の同意を得て、当該家畜に苦痛を与えない方法によって処分をするよう、いわゆる安楽死させるよう指示することにしたところでございます。」
と述べられていますが、この第20条3項というのは、
「3 前項の規定によるもののほか、原子力災害対策本部長は、当該原子力災害対策本部の緊急事態応急対策実施区域における緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため特に必要があると認めるときは、その必要な限度において、関係指定行政機関の長及び関係指定地方行政機関の長並びに前条の規定により権限を委任された当該指定行政機関の職員及び当該指定地方行政機関の職員、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関並びに原子力事業者に対し、必要な指示をすることができる。」
というもので、当然の事ながら、その指示内容が現行法を逸脱することは許されません。そして、その指示が「必要な限度」を超えて適用されることも許されてはおりません。
しかしながら、
・家畜の遺体の様子から見て苦しめられて殺されたことがうかがわれるという趣旨の農家さんの証言
・通常の動物の誘導では考えられない脚部にロープが絡まった死体の写真
などから、現在行われている殺処分は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和四十八年十月一日法律第百五号)第40条、
「動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。」
を大きく逸脱し、また5月12日官房長官記者発表の「苦痛を与えない方法によって処分をする」「いわゆる安楽死」という説明とも大きく食い違う、多大な苦痛を伴う殺し方によって実施されていると思料されます。
動物の安楽死には国際的に認識されている一定の基準があり、農水省は当初それに則り、鎮静、麻酔、筋弛緩剤による薬殺の三段階による出来るだけ苦痛のない方法を用いるとの方針を示していました。本年5月16日の衆議院予算委員会においても、鹿野農水相は民主党・城島光力議員への答弁において「安楽死」を明言。城島議員はそれに対して、動物福祉の観点からも苦しめることのないようにとの意味でさらに「安楽死」の言葉を重ねて念押しをしています。
にも関わらず、牛の脚をロープで縛って殺す。苦しがって暴れるから縛る。こういう到底安楽死とは言えない処分の仕方がなされているとするならば、
一に政府・行政自らが動物愛護法の定めを無視した不適法な行為を行っている。
二に国民および当該家畜の飼養者である農家への信義に大きく反している。
という極めて重大な政治的問題が浮上します。
もしそのような事実があるとすれば、殺処分にかかる指示、及びその執行ともに、法の定めも「必要な限度」をも逸脱したものとして、即時停止されなければなりません。それが法治国家としての、わが国の当然の処置であると言えるでしょう。
私達はこの件について、写真や証言等、多数の客観的な証拠を提示することが出来ます。せめて事態の究明が行われる間だけでも、まずは殺処分をいったん停止することを、強く政府に対して働きかけて頂ければ幸いです。
【2】殺処分の実施方法に関する問題について
まず、農家への殺処分同意の取り付けについてですが、私達は富岡町の幹部職員も同席した農家の皆様とのミーティングにおいて、「農水省の役人が来て、同意するのもしないのも自由です、でも結果は決まってますけどね、と言った」といった発言を得ています。
農水省は「警戒区域内の家畜の安楽死処分の対応に関するQ&A」において、「安楽死処分を強制することはできるのですか」に対して「あくまで、家畜の所有者の方の同意を得て行うものです」と説明してきました。にも関わらず、現地の農家には同意の有無に関わらず結果は決まっていると公言したという事実は重大です。それによって殺された家畜はもう取り戻せないのですから、現場の職員の行きすぎでは済まされない問題です。
さらに県NOSAI家畜部の方からも、
・同意書取り付けのノルマに追われた行政職員が、
・文字を読むことが困難な高齢者に対し、「とにかくここに名前を」と、内容の確認もそこそこに署名をさせていた。
・「同意をしないと賠償金が出ない」との虚偽の発言で不安を掻き立てて署名をさせていた。
などの証言を得ています。
こうした強引かつ不適切な同意書の取り付けがどれだけ農家を追い詰めているか。未曾有の大震災に加え、原発事故による着の身着のままの避難生活という苦しみの中にいる人々に更に追い打ちを掛けるこうしたやり方は、極めて不適切です。
また、前述の様々な証言が立証されるならば、行政が今までに取り付けてきた同意書は、不当な手段で得た不正な同意書として適法性を失います。無効な同意書に基づく殺処分の実施はできません。
この点からも、事態の究明が行われる間は殺処分を停止することを、強く政府に対して働きかけて頂ければと存じます。
【3】殺処分の実施のずさんさの問題について
また、私達はさらに重大な事実を掴んでいます。それは、殺処分に同意していない家畜までもが殺されているという事実です。
殺処分は家畜の所有者(酪農畜産経営の主体者)の同意に基づいて行われるものですが、そうではない家族から同意を引き出し、それを利用してさも正式な同意が取れたかのように殺処分を執行したという不正を私達は掴んでいます。仮にこれが作為的な不正ではなく、担当者の誤認による結果だとしても、高度な厳格性が要求される原子力災害対策特措法に基づく職務の執行において、間違えました次は気を付けますは通用しません。
さらに、行政に牛の移動を依頼したら移動ではなく殺処分にされた、電話で抗議したにも関わらず、一度ならず二度までも同じ目に遭ったという証言や、殺処分された牛を耳票で確認したら他者の所有する牛も混じって殺されていたなど、極めてずさんな殺し方をしていることが分かる証言もあります。
一度殺してしまったら二度と取り返しの付かない殺処分にこのようないい加減極まるやり方がまかり通っていることは、国による国民の財産権の侵害として、もはや違憲行為とも言わざるを得ないものがあります。憲法第29条第3項は正当な補償の下であれば私有財産を公共の為に用いることを認めていますが、これは過ちを繰り返しても補償をすれば免責になるということを定めたものではありません。
このような、同意をしていない所有者の家畜も十把一絡げで殺されていく現状は、即時改善されなければなりません。これは前述のように、次からは気を付けますでは済まされない問題であり、現段階の行政には原子力災害対策本部長の指示に基づく殺処分を的確に執行出来る能力がないという証しですから、的確な執行能力が立証され、なおかつ第三者による実効力有る監視体制が確立されるまでは、現状の殺処分は停止されなければなりません。
【4】殺処分後の死体の処置に関する公衆衛生の問題について
さらに、本年5月16日の衆議院予算委員会において、自由民主党の江藤拓議員が指摘した、殺処分後の公衆衛生確保に関する問題があります。江藤議員は宮崎県の口蹄疫の体験を元に、次のように述べています。
「大きな問題があるんですよ、この殺処分については。我々は埋却をしました。埋却地でも随分もめました、場所が見つからなくて。今回は、殺処分をして、ブルーシートをかけて、消石灰をまくんだという話ですよね。これから温度はどんどん上がっていくんですよ。ブルーシートでふさぐと、大体、中の温度は六十度を超えるんですよ。どうするんですか。
口蹄疫のとき、宮崎で、夜、悲しい音が聞こえました。それは、埋却した牛や豚のおなかの中にガスがたまって、破裂するんですよ。悲しい音ですよ。つらい音ですよ。埋めてもそうなんですよ。埋めてもにおいは強烈でした。ハエがぶんぶんわきましたよ、本当に。殺虫剤をまくのが仕事だったんだから。これを野積みにするということは、私は大問題だと思う。」
これに対して農水相は、原子力安全委員会に殺処分後の措置を早急に立案するよう要請するとの答弁を行っていますが、いまだブルーシートに消石灰の処置すら不完全なまま放置されている死骸が散見されるとの証言があります。
逆に、耳票も確認しないまま土中に埋めてしまい、誰のどの牛が殺されたのか確認のすべがなくなるという問題も生じています。農家の方々の中には、殺処分の実施状況の説明がない、自分の牛が殺されたのかどうかも分からないと苛立っている方もおられますが、まともに報告できる状態ではないというのが本当のところでしょう。農水省は、現場で処分を講じた獣医師が決められた方法に従って確認するとともに記録員が記録をとるとしていますが、それが的確に行われているかについては、大きな疑義が持たれるところです。
このように、関係者外の目が届かない閉鎖区域なのをいいことに、徹頭徹尾ずさんなやり方で無益な殺戮が繰り返されている。これが現在の警戒区域における殺処分の実態です。
【5】福島復興の為、命ある家畜を生かす道を
こうした事態を目の当たりにした農家の方々のお気持ちはいかばかりでしょうか。農家の皆様はもう何もかも疲れ果てて、酪農畜産で復興を目指していく気力すら失ってしまっているようにすら見受けられます。
家畜はただの財産ではありません。牛にも豚にも鶏にも、遺伝資源という、他の何物でも代えることの出来ない極めて高い価値があるのです。種牛、種豚、種鶏。これらは福島の酪農畜産を未来につなげていく重要な資源だったのです。それが失われたら、今警戒区域となっている市町村の酪農畜産は、未来が閉ざされてしまいます。政府はそれをどう補償するのでしょう。お金で買うことの出来ない価値を、どう金銭換算して補償するというのでしょうか。
私達はここに断言します。今生きている家畜を生かすことが、福島復興への道であると。殺処分は復興を阻害するどころか不可能にする暴挙であると。どうか福島復興の為にも、家畜の殺処分を、一時的にでもいいですから停止させてください。そして、国・自治体・農家の三者で最善の方法を話し合う道を開いてください。福島の産業経済の宝である貴重な遺伝資源を殺さず、生かして未来につなげることで、福島の復興を目指せるチャンスを与えてください。
私達は警戒区域に生き残る家畜達を、農家の皆様方と力を合わせて保護していく体制を作るべく努力しています。全国に支援者を求め、その輪は日々広がっています。私達日本国民は、3月11日以降、大きく変わりました。国民一丸となって復興に努力していくことで、命の尊さ、助け合うことの大切さ、共に寄り添い合って生きることの素晴らしさを、身を以て学んできたのです。3月11日以前は不可能だったことも、今なら成し得ます。
福島に元気を。福島に未来を。私達は酪農畜産分野でそれを支え、実現していきたいのです。そのためには、警戒区域内における家畜殺処分の即時中止が不可欠です。
南相馬市の馬は、同市の伝統行事である相馬野馬追に用いる馬として、豚については学術研究目的で飼養を継続する豚として、区域外への移動が認められています。他の市町村の牛なども、同様の貴重な価値を持つ存在です。同様の措置がとれないはずはありません。南相馬市の馬や豚の所有者も、その他の市町村の家畜の所有者も、全ての家畜の所有者が法の下に平等に取り扱われる機会が得られますよう、どうかその第一歩としての殺処分の一時停止にお力をお貸しください。宜しくお願い致します。
早々
家畜おたすけ隊
代表 谷 咲月
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アッサム山中さん、ご協力まことにありがとうございました。