【前回のあらすじ】


京の町を騒がせ続けている人斬り事件と、春香の不安を考慮した秋斉は、新撰組に声掛けすると共に、腕の立つ坂本龍馬、高杉晋作、桝屋喜右衛門、結城翔太の四人にも召集をかけていた。そこで、春香の夢に現れる謎の男のことや、不思議な鳥のこと。新撰組観察方である、山崎烝の報告をもとに一日も早い下手人捕縛を目的とした話し合いが成された。そんな中、春香を攫っていこうとする謎の男と対峙することに。偶然、通りかかった土方と沖田の応戦により、何とか春香を奪い返したものの、応戦空しく、闇の中へと消え去る男を取逃がしてしまうのだった。


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【比翼の鳥】 第10話



翌朝。


以前のようにまた花里ちゃんの部屋で一晩を明かした私は、早々に秋斉さんの部屋へと出向き、昨晩起こった出来事をはじめから話す秋斉さんの言葉に耳を傾けていた。


「…大丈夫か?」

「え…」

「心、ここにあらず…ゆうところやね」

「すみません…」


耳を傾けつつも、捕らわれた時のことを少しでも思い出すだけで全身が強張り、男の低く抑えたような声や凍てついたような感触が甦る度に、涙が溢れそうになる。


「怖くて、昨晩は一睡も出来なかったので…」

「謝ることあらへん。わての方こそ、あない思いをさせてしもうて…」

「いえ、秋斉さんはいつも精一杯のことをしてくれています。この件が無くても、ずっと感謝していました」


眉を顰める秋斉さんにぎこちない笑みを返すも、内心はどうしようもない程の不安に襲われていた。昨晩、私を襲って来た男が夢の中に現れた男であり、今回の殺人事件の犯人だと確定したようなものだったから…


「何度も考えていました。今までの出来事が全部夢だったらいいのにって」

「………」

「でも、これは紛れもない現実なんですよね。夢の中の男は、私を探していた…」


言いながら、堪えていた涙が頬を伝う。

急いでその涙を拭って、空元気に微笑み秋斉さんを見やると真剣な眼差しと目が合った。


「春香はんにはもっとここで成長してもろて、いずれは藍屋を背負って立つ花魁になって貰いたい。そない思うとるんどす」

「…秋斉さん」

「せやから、絶対に守らなあかしまへん」


そう言うと、秋斉さんは一つ吐息を零し、柔和な表情で静かに口を開く。


「ありとあらゆることを試し、諸悪の根源を断つ。まやかしだらけの物の怪なんぞに、のうのうとあんさんを手渡す訳にはいかへんさかい」

「でも、どうすれば……どこに逃げても必ず私を見つけ出すと…」


また俯く私の目前、秋斉さんがすっくと立ち上がる様子が視界に映りこむ。


「下手人が捕まるまでの間、腕の立つ護衛を雇って凌ぐほか無い。幸いにも、強い味方がおるしな」

「強い味方?」


私の問いかけに、秋斉さんは微笑んだままこくりと頷いた。




その強い味方とは、


「みんな、剣術の達人ばかりだ。俺を含めてね」

「あんさんは数に入っとらん」

「…やっぱり?」

「当たり前や」


苦笑する慶喜さんの隣で、秋斉さんが溜息まじりに呟いた。



あれから、数刻の後。

再び秋斉さんの部屋に呼ばれた私は、慶喜さんと五人の見知らぬお侍さんらしき男性達に驚愕し、次いで、彼らを一人ずつ紹介し始める慶喜さんの話に耳を傾ける。


「しかも、中には物の怪と対峙した者までいる。だから、きっと春香を守ってくれるだろう」

「あの、不束者ではありますが…よろしくお願いしますッ」

「なんだか、彼らに嫁ぐみたいだね…」


少しぎこちなく顔を強張らせる慶喜さんに苦笑を返し、今度は秋斉さんからの説明に耳を傾けた。それは、どこへ行くにも誰かが私の傍につくということと、新撰組や見廻り組などの力を借りて下手人捕縛を強化するということだった。


「丁度、この藍屋にも用心棒をと思うとったとこやったし。あんさんら、くれぐれも春香はんを頼みましたえ」

「お任せ下さい」


中でも、斉田と名乗った二十代前半くらいの男性が私に歩み寄り、優しい笑みをくれた。彼らは現代でいうところのSPとでも言うか、自分は重要人物でも何でもないただの一般人だけれど、誰かに守られているという安堵感にほっと胸を撫で下ろす。



それから、名残惜しそうに置屋を後にする慶喜さんと、同じく所用があると言って出掛けてゆく秋斉さんを見送った。


護衛の方々は、それぞれ藍屋近辺を見廻ったり、この界隈の護衛とも情報交換をしたりして常に監視の眼を怠らずにいてくれる。


私にも、常に誰かが付き添ってくれているから心強いものの、厠まで付き添われて何だか落ち着かない時を過ごしていた。


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いつものようにお座敷へ出る準備を整え、護衛の方と共に揚屋に辿り着いた私に花里ちゃんは心配そうな顔で言った。


「春香はん、ほんまにお座敷へ出るん?」

「うん。独りで部屋にいるより誰かと一緒にいるほうが安心するから」

「それなら、わてがずっと傍におるさかい。なんも心配要らへん」

「ありがとう、花里ちゃん…」


もう一人、頼もしい存在に改めて感謝すると同時に、玄関付近を見廻ってくれている方々にも頭を下げた。



その後、配膳を任された私と花里ちゃんは奥のお座敷へと向かっていた最中。襖が開け放たれたままの空き部屋が続く廊下に差し掛かった時、何故か、鼓動が速まり眩暈に襲われ始めた。


寝不足だからだろうと気を引き締め直すも、以前、狭心症を起こしかけた時と同じような症状だと思った瞬間、前をゆく花里ちゃんの背中が左右に揺れ始め、一瞬にして目の前が真っ暗になり。


「待って、花里…ちゃ…」

「ん?どないしはった…は、春香はん!」


なんとか御膳を落とさず下に置き、蹲りながらまるで視力を奪われてしまったかのような現象に、慌てて手を差し伸べてくれているであろう花里ちゃんに縋(すが)りつく。


「み、見えないの!なんにもッ…」

「春香はん!しっかりしぃ」


「どうかされたのですか?!」


花里ちゃんの心配そうな声とほぼ同時に、遠くから聞き覚えのある声がして思わず肩を竦めた。


(この声は…)


「春香さんじゃないか!」

「あ…ぁ……っ…」


あの男では無く北村さんなのだと気付くも、怖くて花里ちゃんの腕を離せずにいたその時。真っ暗で何も見えなかった視界に薄らと見知らぬ森林が浮かび上がり。


「これは…」



幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~


以前と同じような境遇だと思った瞬間、平静ではいられず花里ちゃんの胸に顔を埋め身を屈めた。


「こらあかんわ!秋斉はんに伝えてお医者様に来て貰わな…せやけど、こうゆう時に限ってだぁれも通らへん」

「私が抱いて行きましょう」


(えっ…)


「どこのどなたか存じまへんが、そら助かりますわ!」


まるで目隠しされているような状態で、二人の会話を聞いていた次の瞬間、体がふわりと宙に浮いた。


「あ…」

「こちらどす!」


北村さんに抱きかかえられていることに躊躇いを感じるも、すぐ傍にあるであろう肩にしがみつくと北村さんは、花里ちゃんの声に応えながらゆっくりと歩みを進める。


「しっかり掴まっていて下さい」

「…はい」


すぐ傍で北村さんの息遣いを聞いているうちに、今度はとても優しく懐かしい感覚に囚われた。


(何なんだろう…この気持ち。胸が熱くなって、どこか切ないような…)


そう思った途端、少しずつ視力が回復し始め、ぼやけながらも明かりを取り戻したことを告げると、北村さんは泣き笑いのような顔で言った。


「良かった。でも、まだ危うい」

「いえ、もう自分で歩けますから下ろして下さい」

「嫌です」

「北村…さん」

「そんな虚ろな眼で言われて下ろせる訳がない」


困ったように微笑む北村さんから視線を逸らし、こちらに呼びかけて来る花里ちゃんを見やった。


随分先をゆく花里ちゃんが秋斉さんの部屋の前で、ここがそうだと言わんばかりに襖を指差し、中へ入って行く。


「あそこだな」

「はい…」


目を凝らす北村さんに頷いて、また視線を前方へと向けたその時、飛び出すように出て来た秋斉さんの驚愕した瞳と目が合う。


「春香はん!」


次いで、北村さんを部屋の中へ誘導した後、秋斉さんは「お医者様を」と、言って頷く花里ちゃんを見送ると急いで襖を閉じ、素早く布団を一式敷き始める。


「すみません、ご心配かけて…」

「気にせいでええ。それより、北村はん…どしたな?ほんにおおきに」

「いえ、たまたま通りかかって良かった」


敷かれた布団の上にゆっくりと下ろされている最中、ふと触れた先に晒のようなざらついた感触を受け、思わず息を呑んだ。その時、北村さんは左手首を抑え込みながら悲痛な声を上げた。


(えっ……)


不意に背後から秋斉さんに抱き竦められ、動揺しながらもそのまま上体を預けると低く抑えたような声が私の耳元を擽った。


「その腕、どないしはりましたん?」

「これですか…」


北村さんは、少し困った様に微笑いながらゆっくりと語り始める。


それは、数日前のこと。

もともと剣術を嗜んでいたという北村さんは、最近の京の情勢を懸念した加瀬さまの言いつけで、刀を所持するようになったらしく、お休みを利用して出向いた山道にて突然、激しい頭痛と共に眩暈を覚えたのだそうだ。


「気が付いたら左手首に傷を負っていたのです。まるで、何者かに斬られたような刀傷が…」

「…っ……」


(それって……っ…)


その一言に再び身を竦めると同時に、胸元に添えられたままの秋斉さんの腕を強く握りしめる。次いで、秋斉さんからどこでそのような事態に見舞われたのかを尋ねられた北村さんは、戸惑いながらも丁寧に話し始めた。


その場所を聞いて、思わず全身の血の気が引いていくような感覚に囚われた。何故なら、山崎さんが下手人であろう男を取逃がした場所と同じだったから。


しかも、今までに同じような展開が何回かあったそうで、夢遊病などを疑って現在、お医者様と相談している最中なのだとも話してくれた。


「京へ来てから数日後のことです。いや、でも…このようなことを話すのは気が引ける…」


ゆっくりと秋斉さんの優しい腕が離れてゆき、私の足元にそっと掛布団が掛けられる。


「宜しければ、その一部始終を話して頂けまへんか」

「しかし…」

「聞きたいですッ……聞かせて下さい」


もしかしたら。と、いう想いの方が先立って私は半ば必死に頼み込んでいた。そんな私達を交互に見やると、北村さんは躊躇いの色を浮かべながら小さな溜息を零した。


「じつは、初めてここを訪れた前夜から奇妙な夢を見るようになったのです」

「奇妙な夢?」


訪ねてすぐ、思わずハッとしてこちらを見る秋斉さんの驚愕したような瞳と目が合う。


「何度か見るその夢の中に…」


眉を顰め伏し目がちに話し始める北村さんを見つめながら、震える手を握りしめた。





【第11話へ続く】




~あとがき~


おーまたせしましたぁ!

 ↑誰も待ってないってww


こちらは、いよいよ少しずつ佳境に入ってまいりましたッ。北村隼人は、あの夢の中に現れた男と同一人物なのか…


「えー、そう来たか!」と、言って貰えるように(笑)


後半戦も頑張りますッ!!


しかし、北村隼人が沖田さんと何となくキャラが被っとるぅぅ…ような…


そこだけが、ちと難ですw


沖田さん大好き人間やから仕方ない( ´艸`)


もうちっくとばかし、お付き合いしたってつかーさい!



ちなみに、「龍馬伝」再放送(録画しておいたもの)を観て、改めて大泉洋ちゃんの本気の演技にも惚れたがじゃw


なんせ、洋ちゃんといえば、「水曜どうでしょう」のイメージが強いのでw


あー、福山さん演じる坂本龍馬も男っぽくてかっこえいが、谷原さんが演じる桂小五郎とか、伊勢谷さん演じる高杉晋作とか…


かっこえい人ばかり!

演技も上手いし!!


香川さんのナレーションも素敵だし!!!


今日観たのは、洋ちゃん演じる近藤長次郎がメインの回で…


もう、泣けた…


ラスト、龍馬が…

島原で花魁の舞を観ながら、二つ配膳されたもう一つの御膳の上に長次郎の写真を置いて、飲むんですよぉ!!


涙を流しながら…


それと、高杉が龍馬にピストルを渡すシーンもあり。


その時に、

「これがピストルかい。結構、重いのう…」


とかなんとか、福山龍馬が言うんですけんども…


かっこえいのなんのってラブラブ!

やっぱ、土佐弁最高!


龍馬さん最高(///∇//)


脱線しすぎましたあせる


今日も、彼らを見守りに来て下さってありがとうございましたラブラブ!