【雨宿り】 



春はもうすぐそこまで来ているというのに、吐く息は白く。指先が真っ赤になるほど、寒い日々が続いていたある日の午後。


久しぶりにお休みを頂いた私は、京の町を散策していた。


今まではあまり興味の無かった着物を着るようになってから、和に魅せられ。簪などの小物を観たり、お寺や神社巡りをするようになり、今日も新しく見つけた小さな神社で参拝をしていたのだった。



(何だか、雨が降ってきそう。傘持ってくれば良かったかな…)


参拝を終えてすぐ、小雨が白い石畳を黒く濡ら始める。


「…降って来ちゃった」


徐々に雨足が強まる中、本堂の軒先で雨宿りをして間もなく。目元を腕で覆いながら、駆け足でこちらへ近寄って来る人を見やった。


(…?)


ちらりと腕の隙間から見えたその顔は、紛れも無くあの人で…。


「沖田さん!」

「え、○○さん?!」


私の隣に駆け寄った後、「降られてしまいましたね」と、言って、手の平で雨の滴を払いながら困ったように微笑った。


(…こんなところで会えるなんて…)


沈みかけていた気持ちが、すぐ隣に大好きな人を迎え入れただけでこんなにも高揚していくものなのかと、改めて沖田さんを意識してしまう。


「何故、お一人でこのような場所に?」

「あ、久しぶりに夕刻までお休みを頂いたので、町を散策していたんです」

「そうでしたか…」


そう言うと、沖田さんは少し訝しげな表情で私を見つめた。


「最近、物騒な事件が多発しております故、なるべくお一人での外出は控えたほうが良い」

「これからは気をつけます…」

「その度に、私がお伴出来れば良いのですが…」

「えっ?」

「いえ…何でもありません」



幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~


ザーッと降り出した雨と同時に、より冷えた空気が指先を冷やしていき。思わず、口元で両手の平に息を吹き込んで温めようとするものの、すぐに冷えて行く。


ふと、視線を感じてそちらを見やった瞬間、しなやかな指先が伸びてきて優しく私の手を取ると、両手の平に包み込まれた。


「これなら少しは温かいだろうか…」

「沖田…さん…」


その手は、私の手を包み込んだまま冷えた部分を擦りながら温めてくれる。


(…あったかい…)


「とても温かいです…ありがとう、沖田さん」

「…良かった」


長い睫毛を揺らしながら微笑む沖田さんに微笑み返して、もう片方の手で沖田さんの手を包み込んだ。


照れながらお互いの手を温め合うも、時折、冷たい風が吹き付けてくる。


「参ったなぁ。せめて、もう少し小降りにならないとここを動けない」

「そうですね…」


(どこかに急用があるのかな…)


私にとっては恵みの雨だけれど。

沖田さんにとっては違うのかもしれない…。


軒先から雨空を見上げる沖田さんの横顔が、みるみる曇り始める。


(やっぱり、どこかへ急ぎの用があるんだろうな…)


そんな風に思って俯いていると、不意に絡めていた指を解かれ、「ここで待っていて下さい」と、言って本堂の裏側へ向かうその背中を見送った。


(…どうしたんだろう?)


しばらくして、笑顔で戻って来た沖田さんから再び手を差し伸べられる。


「この裏のほうが、風を防げそうです」

「え?」


再びしなやかな指に絡め取られ、その手を誘われるまま本堂の裏へ足を運ぶと、そこにはすぐ傍に立ち木が幾つもあって表よりは風を凌ぐことが出来た。


「貴女に風邪でも引かれたら、会いに行けなくなってしまいますからね」

「…っ……」


何気ない言葉に胸を高鳴らせていたその時、絡めていた指先を引き寄せられ、気が付けば温かい胸に誘われていた。


「…あっ…」


襟元に頬を寄せ、ぎこちなく沖田さんの肩に手を添えてみる。


「お…きた…さん」

「…こうしていれば、もっと温かい」


(…あっ…)


名も知れぬ小さな神社とはいえ、誰かがやって来るかもしれないという思いはあった。それに、いつもよりも大胆な沖田さんに躊躇いも感じていた。


でも、沖田さんの方からこうして抱きしめてくれたことが、とっても嬉しくて。


「…すごくあったかいです」


素直な思いを告げると、「…私にとっては恵みの雨です」と、言って、更に私の肩を抱き寄せてくれる。


(それって…)


その温かい腕に包まれながら広い胸に甘えていると、沖田さんの低く抑えたような声が私の耳元を掠めた。


「雨が止むまでの間だけでいい。今しばらくはこのままで…」

「沖田さ…ん」

「……貴女を…」


(…っ……)


「…好いている」


囁かれ、どうしようもない程心臓が大きく跳ね始める。


「私も…沖田さんのことが…」


そう、囁き返すのが精一杯だった。


やがて、ゆっくりと視線を絡め合い。

その視線がお互いの唇を捉え、ぎこちない口付けを交わした。


震える唇から淡い想いを受け止め合い、


「…やっと、貴女の想いに触れることが出来た」

「やっと、沖田さんに伝えることが出来ました…」


お互いに微笑み、また慈しむように抱きしめ合う。



それぞれの生き方があるけれど、それでも私は、貴方を信じてついて行きたい。


私を傍に置いてくれるのであれば。



降り止まぬ雨音を聞きながら、私はいつまでも沖田さんの腕の中で優しい温もりに包まれていた。





【終わり】




~あとがき~


いやぁ…。

旦那はんの髪型ガチャでの、「雪宿り」。


もう、読まれました??


私は、慶喜さん×2、沖田さん、土方さんと当てて、それぞれ読んだのですが…。慶喜さんと土方さんには、「おおお!ぐふふきらハート」と、なれたのに…。


一推しの沖田さんのを読んで…ちと、個人的に消化不良だったのであせる


今回、初めて。

本家の企画に対抗して、急遽、「雨宿り」を描いてしまいましたあせる


ヽ(;´ω`)ノ


これまた、わたすの勝手な妄想シーンですけんども(苦笑)


他の旦那はんの髪型もそろえたい!何より、他の旦那はんの「雪宿り」も読みたいっ!


ガチャ、なるべく被りませんように…。


皆はんは、誰の「雪宿り」読めました?ラブラブ!