<艶が~る、妄想小説>


秋斉さん、俊太郎様、龍馬さんに引き続き…

次は沖田さんに挑戦っすキラキラ2


春香(勝手ながらヒロインの名前です涙)と沖田さんは、初めて外でデートをすることにpnish

そこで、土方さんの和歌の話になり、二人は和歌に挑戦することになります!!


お互いに和歌を書いたことがないため、ヒロインは秋斉さんと慶喜さんに、沖田さんは土方さんに手伝ってもらいながら、なんとか書き上げる。


少し長いですが、お付き合いいただけたら嬉しいですハートgreen



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 「もう一つの艶物語 ~恋文~」  *沖田総司*



季節は冬。


木枯らしが吹きすさぶ中、私は秋斉さんにお使いを頼まれて、薬屋へと急いだ。


(今年は暖かいって聞いたけど、やっぱ寒いなぁ。早いところお使いを済ませて帰ろうっと)


身体を丸めて小走りしながら、とある脇道を通り過ぎた時、一瞬、青いものが目に入ってきた。
気になって引き返してみると、そこには隊の羽織を身に纏った沖田さんの姿と、二人の浪士らしき姿があった。


(あれは、沖田さん!?もしや、命を狙われているんじゃ…)


私は慌てて壁伝いに身体を隠すと、息を殺しながら沖田さんを見守った。


「壬生の狼、沖田総司だな」
「……いかにも」


沖田さんは、刀の鞘に手を置きながら静かに答えた。


(あれは、沖田さんなの?…あんなに鋭い目は初めて見る……)


「お主を斬る…仇討ちだ」

そう言うと、二人の浪士は素早く刀を抜き、沖田さんに向かっていく。


彼は、それよりも早く刀を抜き振り上げると、一瞬にして振り斬った。
浪士の一人が声無き声を上げ、バタリと倒れると、残りの一人も斬りかかっていく。


その時だった。


私の背後で、「壬生浪だ!」という声がして振り返ると、そこには他の浪士が二人立っていた。浪士達は、私の肩を思い切りかすりながら、沖田さんのほうへ向かって行く。私は体制を崩してその場に大きく倒れ込むと、彼に大声で知らせた。


「沖田さん、危ない!」

彼は私の存在に気付くと、一瞬驚いた顔をし、つばぜり合いながら相手を振り切りこちらへと走って来た。


「春香さん!何故、ここに?!」
「あの、私…」


言う間も無く、浪士達は血眼になって彼に襲いかかって来る。


彼は素早く私に背を向けると、庇うように立ちはだかった。
そして、彼は浪士の刀を受けると、渾身の力を込めて一歩前へ進み思い切り振りきる。
振りきられた男は足を滑らせ、他の浪士たちと縺れ合って倒れた。


「申し訳ありませんが、今日のところはこれにて御免」

そう言うと、沖田さんは素早く刀を鞘にしまいこみ、浪士達に背を向け私の手を取り走り出した。


「逃げましょう!」
「あ、あの…はいっ」


私達は手を繋ぎながら大通りに出ると、追いかけてくる浪士達を振り切る為に別の脇道に入り、思いきり走り抜けた。そして、何とか逃げ切ると、路地で私達は息を整える。


「はぁ…はぁ…なんとか…逃げ切れましたね…」
彼は苦笑いをしながら私の方を見て言った。


「……す、すみません…私、お使いへ行く途中に、偶然沖田さんを見かけてしまって…」
「見られていたとは……怖い思いをさせてしまって、すみませんでした」


彼は、しゃがみこむ私の前に跪くと、ゆっくりと手を差し出した。
そのいつもの笑顔に少しだけ安心すると、怖さで全身が震えるのを堪えながらも彼の手を取り立ち上がる。


「まだ震えていますね…」


そう言うと、彼は私の手を両手で包み込んだ。

私はその温もりを全身で感じ、胸の鼓動は違うものに変わっていく。
彼の優しい微笑みに、顔をほころばせずにはいられなかった。


「ありがとう、沖田さん…もう大丈夫です」
「どちらへお使いに行かれる途中だったのですか?」
「秋斉さんから、柴陥湯というお薬を買って来るように言われて、三玄堂さんまで…」
「……お供をしたいのですが、さっきの方々がまだこの辺りにいるかもしれません」

彼は、苦笑いをして私の方を見た。


私は、ドキドキしながらもこうしていられることが嬉しくて、ついつい自分でも思いがけない言葉が飛び出した。

「あの、もし良ければ……もう少しだけ一緒にいてください……」


彼は少し驚いた顔をしながらも、「はい」と頷くと、ニコッと笑った。
同時に、私の手を握る彼の手にも力がこもる。


それから二人で周りを気にしながらも、人里離れた山道まで来ていた。
彼は巡回の途中で、私はお使いの途中だったのだけれど、少しだけなら我儘も許して貰えるかな?と、勝手な解釈をしつつ、まるでデートしているような展開に胸は高鳴る。


「確か、この辺りに小さな神社があったはずです」

彼の言うとおり、しばらく歩いて行くと右側にポツンと小さな神社が顔を出しているのが見えた。
私達は、誰も居ない神社で一休みすることにし、境内へとゆっくり歩いて行く。

すると、私の隣を歩いていた彼がいきなりスッと走り出した。


彼は境内にある階段に腰を下ろすと、満面の笑顔で手を差し出しながら言った。


「さ、春香さん早く!」


彼に呼ばれて、私も着物の裾を少し捲りながら早歩きで近づく。
彼の手を取り、私も隣に腰を下ろすと、横にある楽しそうな顔に思わずプッと吹き出してしまった。


「沖田さん、子供みたいにはしゃいでる」
「だって、春香さんとこんなふうに外で会えるなんて…もう、二度と無いかもしれないですからね」
「そんなこと、またいつでもこうして……」


言いかけて、私はすぐに黙り込む。
さっきの鋭い目をした彼の顔がまた頭をよぎった。


(そうだ、彼はいつも死と隣り合わせだ。さっきの鬼のような顔も、紛れも無く沖田さんなんだ…)


「春香さん?」
「あ…あの…ひ、土方さん達は元気ですか?」


私はなんとか話題を変えると、彼はまたニコニコしながら話し始める。


「土方さんは相変わらずです。この間なんて、和歌が書かれた書物を永倉さん達に盗み読みされて怒りまくってましたよ」
「ふふふ、土方さんの怒った顔が目に浮かびます」
「私も拝見したのですが、よく分かりませんでした」
「沖田さんは、和歌を書いたりしないんですか?」
「私には、そっちの才能は無いようです……恋文などは書いてみたいと思ったことはありましたが」


彼は、チラッと私の方を見ると、すぐに目線を外して顔を赤らめた。
私も俯くと、少しの間沈黙が流れる。


先に口を開いたのは彼の方からだった。


「私は、土方さんのように上手く書けませんし…」
「私も、書いたこと無いです。でも、お互いに和歌に挑戦してみませんか?」
「え、和歌に?」
「はい、土方さんに負けないくらいの素敵な歌を書きましょう!」
「分かりました。春香さんに負けないくらいの歌を完成させてみせますよ」


二人して顔を見合わせると、一緒に微笑んだ。

そして、神様に挨拶を終えると、お互いに手を合わせてお参りをする。
彼は何をお願いしたのか分からなかったが、私は彼とまたすぐに会えるようにお願いしたのだった。


その後、彼に付き添われながら買い物を済ませ、そのまま置屋へと戻った。


「今日は、沖田さんといろんな話が出来て嬉しかったです」
「私もです」
「次は、いつ会えますか?」
「この間、土方さんがまたこちらへ来るようなことを言っていましたから、その時に連れて来られると思います」
「連れて来られる?」
「はい、”お前はもっと見聞を広めることだな”とか言って、私も一緒に同伴させるんですよ」
「じゃ、沖田さんはいつも嫌々来ていたんですか?」
「はい。あ……いえ、今は春香さんがいるのでとても楽しいです……」


彼は照れ笑いをしながら、頭を掻いた。
その笑顔がとても可愛くて、私はくすくすと笑う。


「忘れないでくださいね!次に会える時までに、お互いに読みあうって約束を。沖田さんよりも素敵な歌を書き上げちゃいますからね」
「いえいえ、あなたには負けられない。期待していて下さい」


またお互いに笑い合うと、彼は「それではまた」と言い、置屋を後にした。
私は、彼の背中が見えなくなるまで見送ったのだった。



その後、私はいつものように準備をし、菖蒲さんの代わりにお座敷に到着すると、懐かしい人が私を笑顔で出迎えてくれた。


「慶喜さん!お久しぶりです」
「やぁ、春香。元気そうだね」


彼はいつものようにキセルをふかすと、にこっと笑った。


「会いたかったよ」
「慶喜さんも元気そうで何よりです」
「随分と会わないうちに、また女っぽくなったんじゃないか?もしかして、恋をしているのかな?」


ニヤリと笑うと、彼はまたキセルをふかす。

私は赤面しながらも、彼の傍に行きお酌をする。


「こ、恋って……」
「図星かな?」
「そ、そんなことは…」
「相変わらず、お前の顔は嘘をつけないみたいだね。バレバレだよ」


私は彼の言葉一つ一つに動揺し、お酌する手が震えた。
そして、気が付かないうちに彼の持つお猪口から、お酒が零れる。


「おっと!」
「あっ!す、すみません!」

お酒はほんの少しだが、彼の着物を汚してしまったのだった。
私は急いで帯にしまい込んでいた手拭を出して、彼の着物にかかったお酒を拭き取る。


「大丈夫だよ、春香。これくらいならすぐに乾いてしまうから」
「本当にすみませんでした!」

彼は苦笑いをし、グイッと飲み干すと、「もう一杯」と言い、お猪口を差し出した。
今度は慎重にお酒を注ぐと、彼はまた笑顔で口を開いた。


「しかし、あんなに動揺するとはね。いったい誰に恋をしているんだい?」
「そんな人はいませんよ!もう…慶喜さんはいつも私をからかってばかりで…」
「気になるなぁ、お前の想い人が誰なのか」
と、彼はまたお酒を飲むと、私の顔を覗きこみニヤリと笑う。


私はこの悪戯っぽい笑顔にいつも動揺してしまう。
これ以上聞かれたら、沖田さんのことを見抜かれてしまいそうで…。
私は、話題を変えることにした。


「あの、慶喜さん!ところで、慶喜さんは和歌とか書いたりしますか?」
「あ、話しをすり変えたね…」


彼は訝しげに眉間に皺を寄せながら言うと、また口を開いた。


「春香の心を奪った男が気になるけど、今日のところは聞かなかったことにしてあげる。ところで、和歌は書いたことは無いが、読んだことならあるよ」
「そ、そうですか。あの私、今度あるお客様と和歌を書いて読み合う約束をしてて…」
「その相手が思い人?」
「ええ、そうなんですけど……って、あっ!」


私は、咄嗟に両手で口を押さえる。
血の気が引いて、驚き見開く瞳を見て彼は大声で笑った。
まんまと、彼の口車に乗ってしまったようだ。


「あははは…ごめん、ごめん、本当に春香は素直だね。嘘がつけない性格も変わっていない」
「け、慶喜さん!もう、勘弁して下さいよぉぉ」
「しかし、妬けるね……誰かは知らないけど」
「慶喜さん…」
「で、春香はどんな歌を書きたいの?」
彼は、いつものように微笑むと、私の顔を覗きこみながら言った。


ちょっと恥ずかしかったけれど、彼に和歌のことについていろいろと聞いてみることにした。
書いたことが無い私にとっては、難しすぎるから…。


すると、彼はまた微笑みながら話し始める。


「和歌を書くときに気をつけなければいけないことは、秋斉にでも聞くといい。俺から言えるのは、あまり堅苦しく考えすぎないようにするってことだな」
「考えすぎない?」
「そう、和歌を書いたことが無い春香がすぐに上達出来るほど、簡単なものではないからね。自分が見たものや聞いたものなどを素直に文にすることが大事だと思うよ」
「……な、なるほど」
「ま、俺から言えるのはこんなもんかな」


そう言うと、彼はまたにこにこしながらキセルをふかす。
私はお辞儀をしながら御礼を言うと、彼は私をまじまじと見つめ言った。


「春香、俺をその相手だと思って作ってごらん」
「え?今、ここでですか?」
「うん、俺の為に作ってくれても構わないけどね」
「え、あの…その…」


私は、彼の真剣な瞳を一瞬見ると、すぐに俯いた。
とても見ていられないほどの色っぽい目線に、また胸がドキドキし始める。


「思ったことをそのまま伝えればいいんだよ」


(思ったことをそのままだなんて……絶対に無理!)


しばらく考え込むと、私は俯いたまま思ったことを呟いてみる。


「その笑顔、夢の中でも…見ていたい…」
「ん?」
「え、あの…その……」
「もしかして、今のが……そうなの?」


慶喜さんは少し呆れた顔で言った。
私は、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになって更に縮こまる。


そんな私の肩に優しく手を置き、彼はまた話し出す。


「まぁ、でも…春香らしくていいんじゃないかな?形式に囚われず、大事なのは素直な心だからね。その心を文にするだけだからさ」
「はい、私……がんばります!」
「そいつが羨ましいねぇ……こんなにも春香に慕われて」


彼は苦笑いをすると、「もう一杯、頼むよ」と、言った。
その後も、いろんな話をして慶喜さんは機嫌よく帰って行った。



それから無事にお座敷を終え、自分の部屋で着替えを済ませると、早速秋斉さんの部屋へと急いだ。


「今日もお疲れさんどしたな。ところで、今夜はどないしはったん?」
「あの、じつは今度…沖田さんと和歌を披露しあうことになって…秋斉さんに書き方を教えていただきたくて」
「和歌を、あんさんが?」


少し驚いた顔で彼が言うと、私はまた俯いた。


(確かに…私が和歌を書きたいなんて、ビックリされちゃうよね…)


私は、今までの経緯を簡単に説明すると、彼は納得して和歌の書き方を丁寧に教えてくれた。


「まずは、書き方やけど…五・七・五・七・七と句を連ね、三十一字でつづる。これは短歌を書く時に使われます。他にも、長歌や、施頭歌とありますが……あんさんには短歌がええどすな」
「そ、そうですか…」


それから、彼はその他のこともじっくりと教えてくれた。


長歌とは、五音と五音の二句を交互に三回以上繰り返し、最後を多く七音で止めるもののことをいい、施頭歌とは、五・七・七・五・七・七の六句形式の歌のことで、片歌を繰り返した形であるらしい。


(もう、この段階で…私には無理な気がしてきた…)


私は心の中で思いながらも、秋斉さんのアドバイスを聞いていた。


「慶喜はんからも言われたそうやけど、美しい心、感動する心、楽しむ心を持って書かんと良い和歌は書けまへんえ。基本はあくまで基本やさかい、今教えたことをしっかりと踏まえつつ、おきばりやす」
「はい、ありがとうございます!秋斉さん」
「また、分からんことがあったら、遠慮無く言いや」


にっこりと微笑む彼に挨拶をして、自分の部屋に戻ると、さっき教えてもらったことを基本に、沢山の沖田さんへの思いを書き出した。


彼に初めて出会った時のこと。
彼と初めてお座敷遊びをした時のこと。
彼を思って夜空を見上げたこと。
そして、彼が私のことをどう思っているのかなど…

頭の中は彼一色になっていった。


(今頃、沖田さんも必死になって考えているのかな?)


私は彼が筆を取っている姿を想像し、くすくすと笑った。
まだまだ、和歌は出来そうも無いけれど…

今すぐ彼に会いたい…。
そんな切ない気持ちも、私は和歌に詰め込んだ。



それから数日後。


いつものように新造としての仕事を終えると、自分の部屋に戻り、お座敷までの間を見計らって作った和歌の見直しをする。ここ数日間、寝る間も惜しんで必死に書いた結果、一つの和歌が完成したのだった。


「藍空の 月の光にただ一目 相見し人の夢にし見ゆる」


(うん、これでどうだろう?基本からずれているかもしれないけど…)


初めて沖田さんと出会ってから、私は彼の夢を見たいと何度も思った。
せめて、夢の中だけでも彼に会いたくて…。
何度も神様にお願いをして…。


たった数回会っただけなのに、私はあの人の優しくも儚い瞳にいつも心を奪われていた。

その切ない気持ちを、素直に表してみたくて書いた歌だけど、成功か失敗かなんてことはどうでもいいことで、私は自分の気持ちに正直に向き合えたことで、彼への気持ちを確信したのだった。


その後、お座敷へ出る準備を整えると、私はまた秋斉さんの部屋へと出向いた。


「ほお、あんさんにしては上出来どすな」
「ありがとうございます!」
「沖田はんも喜びはるよ、きっと」
「え、あの……そうならいいのですが」


秋斉さんはクスッと笑いながら立ち上がると、私の肩に手を置きながら言った。


「これでまた、太夫へ近づきはりましたな」
「そんな、太夫だなんて…」
「わては、あんさんならなれると思うてます。あんさん次第やけどな」
「秋斉さん……」
「さ、そろそろお座敷へ出る頃合や。今夜もおきばりやす」


私は彼に挨拶をし、お座敷へと向かうと、土方さんと沖田さんが迎え入れてくれた。


「お久しぶりです、春香さん」
「沖田さん!土方さんもお元気でしたか?」


そう言いながら私は二人に近づき、まずは土方さんお酌をすると、彼はグイッと飲み干し、「美味い」と言った。次に、沖田さんにお酒をすすめると、「私は要りません」と言ったので、銚子を下げた。


「ところで、春香さん。和歌は出来ましたか?」
「え?あ、はい!勿論です」
「……そういうのは二人きりになってからするもんだ」
土方さんは、手で乱れた髪を梳かしながら色っぽく呟いた。


「え?二人きりって……」
沖田さんが頬を赤らめながら言った。


「俺はもうすぐ帰るから、それからにしろ」
「……別に二人きりにならなくても…」
「総司、お前もそろそろ男になれ」
「もう、土方さんはそればっかりだ…」
「ったく……ガキが」


二人のやり取りにクスクスと笑いながら見ていると、土方さんが眉をひそめながら呟く。


「しかし、お前ら…文才も無いくせに和歌を書くなんて無謀過ぎるぞ。ま、決められた文字通りにはいかなくても、自分の気持ちが込められてりゃそれでいいが…」
「確かに、難しかったです…土方さんに教わらなければ書けませんでした」
沖田さんは、頭をかきながら照れくさそうに言った。


私も、秋斉さんや慶喜さんに書き方を教わったことを打ち明けると、沖田さんは、「じゃ、お相子ですね」と、微笑んだ。


それから、しばらく私達はお座敷遊びなどをしていると、ふいに土方さんが立ち上がり、「俺は先に帰っている」と言い、お座敷を後にした。

二人だけになり、私は少し緊張すると、そろそろ和歌を発表し合いましょうかと提案した。


「そうですね。春香さんの和歌が楽しみだ…」


私は、沖田さんの目の前に座ると、帯の中から紙を取り出してゆっくりと読み始める。


「”藍空の 月の光にただ一目 相見し人の夢にし見ゆる”」
「それは、どういう意味なのですか?」
「……たった数回会っただけの人のことを好きになり、その人のことが忘れられなくて、何度も夢に見るようになってしまった…私の恋心を歌ってみました」
「春香さんの思い人って…」
「あなたのことです」
「え……」


彼は私を見つめたまま、しばしの間、沈黙した。
私は両手で顔を覆いながら、俯く。


「春香さんが、私のことを……」
「はい。私、和歌を書こうとした時、あなたのことしか浮かばなかったんです。あなたが大好きなのだと確信しました」

彼は一瞬、目を見開くと顔を真っ赤にさせた。


「……あの、沖田さんはどんな歌を?」


私が問いかけると、彼は急いで懐から一枚の紙を取り出し、私と同じように読み始める。


「”かくばかり 恋ひつつあらずは愛刀の 姿纏いて死なましものを”……込められた思いは…」
そう言うと、彼は少し黙り込んだ。

いつもと違う彼の様子に、私は少し心配になって声をかける。


「沖田さん?」
「……これほど恋しくて、苦しい思いをするくらいなら…いっそあなたを忘れてしまおうと思ったこともありました」
「……沖田さん…」


私は、そう答えるのが精一杯だった。


目の前にある愛しい人の顔さえも見えなくなるくらい嬉し涙でいっぱいになる。
そして、彼は私を優しく抱きしめると、静かに囁いた。


「私は、いつ命を落とすか分からない身ですから…あなたを自分のものにすることが出来ない…」
「沖田さんがどんな人でも、どんな使命を持っていて、どんなふうに生きていこうとしているのかなど…そんなことは関係ない。今のあなたを精一杯愛したい…ただ、それだけです」
「春香さん……」


彼は私を正面に向きなおさせると、私の両肩をそっと抱き、口付けをくれる。
私は、すぐ目の前にある大好きな人の温もりを身体中で感じていた。
ひとしきり口付けを交わすと、彼は私を見つめて涼やかな声で言った。


「春香さん…これからもずっと私の傍にいてください…せめて、夢の中だけでも…」


幾年の時を越え、二人はまた廻り合う。
必ず、引き寄せ合って。




<おわり>


お粗末さまでした!゚.+:。(≧∇≦)ノ゚.+:。