吉村 昭 著

『高熱隧道』(新潮文庫)を読みました。



今春プロジェクトXが新たにはじまり、過去の傑作選として黒部ダムの回が再放送されたり、ゴールデンウィークの観光のオススメ場所としても黒部ダムが紹介されたり



そこで、長らく積読にしてしまっていたこの作品を思い出し、読むことに



昭和11年、黒部峡谷では黒部第三発電所開発工事が進められていました。



ダムで堰き止めた水を水路トンネルで下流に送り、一挙に落水させて電力を生み出す、国家を上げてのプロジェクト



水路・軌道トンネルの掘鑿場所は人間の侵入を阻む急峻な谷



黒部黒部と口では言っていましたが、地形など全く知らず、本の見開きに地図があるので、何度も見返しては場所を確認しの繰り返し



作品のルートを実際に歩いた方々がYouTubeなどであげておられて、映像や画像で当時の様子を想像することができました。



見ているだけでもゾワゾワするほど高くて細い崖道



作品の中では、この道を人夫に重い資材を運ばせるのですが、第一回目の運搬作業から顛落事故が発生



地質学者お墨付きの掘鑿ルートも机上の空論。岩盤温度が160℃にも達する高熱帯にぶち当たります。



人夫たちに水をかけながらの作業



冬は豪雪のため雪崩や鉄砲水の危険もあり、多くの人夫たちが犠牲に



使う側の技術者たち目線から描かれた作品で、使われる側の人夫たちの心情は想像するしかない。



犠牲者が出るのはいつも人夫側



多くの犠牲者を出しながらも自然に立ち向かい、俺たちはこの隧道を掘削するんだ!という技術者たちの思いは、果たして「情熱」なのか



危険は伴うが賃金が破格なため、思う所があっても、いや、思うことすらやめて黙々と作業をし、犠牲になった仲間たちを何も言わず見送る人夫たち



読んでいると、自然に抗っていいのか?という思いも出てくるのですが、黒部ダムの映像を見ると、もはや建造物ではなく、自然の景色の一つとして見えてしまう。



過去に『プリズンの満月』『虹の翼』の感想をあげたことがありますが、吉村昭さんの作品は「記録文学」と言われるほど、単なる記録にとどまらず、目の前で繰り広げられたことのような、心情に訴えるものがあります。



先日見たプロジェクトXの明石海峡大橋の回



「死亡事故はゼロだった」



田口トモロヲさんの声が今でも耳に残っています。