夕方近く。
目的地のJRゆだおんせん駅に着いた。
駅前の景色は閑散としていた。
目立つものといえば真新しいビジネスホテルくらい。
そして名前からそのホテルが俺の宿泊するところだとわかった。
ホテルに荷物を置き、泉美の泊まるホテルにも行くことにした。
北の方に歩いていくと温泉街があった。
そして、地図を頼りに泉美の宿泊する旅館を見つけた。
俺のホテルとは大違い。
とても古めかしが、風情のある贅沢な雰囲気の建物。
早速受付を済ませ俺も部屋に入った。
大きな木目調のテーブルに、高級そうな座椅子。
俺はふかふかの座布団に座り、お茶をすすった。
泉美の親は贅沢させるな・・・。
ちょっと羨ましい気持ちになった。
ゆったりしていると、賄いさんが食事を持ってきた。
伊勢えびや蟹、まるでテレビのグルメ番組で出てくるような会席料理がならんだ。
物欲しそうに食事を眺めていると、
「織田くん、好きなの食べていいよ。」
と泉美が言ってくれた。
「本当に言いの?」
そういい終わらないうちに、高そうな物から口にした。
「うまいなー。」
「めちゃめちゃ旨いよ。」
そう繰り返した。
泉美はそんな俺を見て笑っていた。
お腹が満足すると徐々に車中での欲求不満が蘇ってきた。
でも、食事中も賄いがちょくちょくやって来る。
お皿を提げたり、煮物に火を付けたり。
それでなかなか安心できず、キスさえもできない。
そして、食事が終わり後片付けも終わった。
すると間もなく、賄が布団を敷きにやってくる。
忙しいな・・・。
全然二人の時間ができない・・・。
そんなことを考えていると。
「そろそろ勉強しなきゃ。」
「明日試験だし。」
泉美が申し訳なさそうに言った。
当然だよな・・・。
俺は残念だったが、納得し部屋を出た。
次の日の朝。
一応志望校である大学に行った。
JRゆだおんせん駅からバスで二駅ほど。
バスを降り少し歩くと大学に着いた。
大学の背面は山に囲まれている。
正面玄関の周りもコンビニと民家がちらほら。
これまたかなり田舎だなと思った。
キャンパスの中央の大きい通りを歩いた。
しばらく歩くと右手に泉美の試験場である教育学部が見えた。
そこで泉美と別れた。
俺はまた理学部のほうに歩き始めた。
すると女子大生2人が近づいてきた。
トレーナーにジーンズと素朴な格好。
化粧もほどほどに、とても素朴な雰囲気。
そして、その二人は、
「こんにちわ。どこの学部を受けるんですか。」
と、明るく声を掛けてきた。
俺は「理学部の数学科です。」と真面目に答えた。
すると、
「数学科ですか。すごですね。」
「数学科は医学部の次に入るのが難しいんですよ。」
「すごいね。」
と俺を持ち上げてきた。
だんだん上機嫌になってきた。
泉美以外の女の子と話すのも久しぶり。
とても新鮮に感じた。
「そうなんですか。」
「がんばります。」
俺は嬉しい気持ちを抑え、また真面目に答えた。
「私たちのテニスサークルの者です。」
「入学したら入って下さいね。」
「お願いします。」
女の子たちは、ニコニコ顔でサークルのチラシを渡してくれた。
大学って楽しそうだな・・・。
学生の表情も明るいし・・・。
こんなに男女が気軽に話せるのか・・・。
予備校とは大違いだ・・・。
俺は大学生活が楽しみでしかたなかった。
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