日本の構造と世界の最適化

日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

GDPの推移:コロナ禍からの立ち直り

2023年はコロナ禍が日本で公式に終焉し、経済が立ち直っていく局面にあった。しかし倒産件数は前年より増加している。パナソニック液晶ディスプレイなど大型倒産も多かった。また飲食業や運輸業だけでなく幅広い産業で不況型倒産が増加しゼロゼロ(コロナ)融資後倒産も話題になった。

 

世界のGDPの推移:鈍い・中国経済不安

日本は国内不況局面で海外好景気に頼って窮地を凌いできた過去の実績があるが、外部環境としての世界経済は鈍い。

まず欧州経済は戦争の悪影響が及ぶと思われたが軟調で済んでいる。米国はインフレ退治の利上げ継続で不況入りする恐れがあったそれは回避している。しかし物価高止まりで好況の雰囲気ではない。

そうなると世界経済をけん引するのは中国経済だがこれは予想に反して芳しくない結果となった。不動産デベロッパーの恒大集団は2021年頃から瓦解し始めたが不動産バブル崩壊の傷跡深く消費が回復しない。また中国の若者失業率も甚大で2023年は15%を超えたとされる。こうした中国の低迷は2024年になっても変わっていない。

 

為替相場の推移:急激な円安続く

米国FRBが利上げを開始したため日米金利差が拡大し、円安が加速。投機というかキャリートレードが下地にある。

2023年にはアベノミクスの申し子・黒田総裁が退任し、植田氏が日銀の新総裁となった。当初は安全運転であったが、2024年には植田体制はゼロ金利体制を終焉させることを明確にしている。

ウクライナ戦争が短期間で収束せず世界資源高が続く中、バブル崩壊以降そしてアベノミクス以来の円安政策は輸入物価高となって日本経済の重しとなっている。為替相場では日本の当局者が「1ドル150円」を歯止めとして円安急伸を許さないかと思われたが、2024年には一時期1ドル160円台にまで急伸してしまっている。日銀としても現状維持が続けられなくなってきた。

 

国際/貿易収支の推移:貿易赤字縮小

ウクライナ戦争の勃発でエネルギー価格を始めとする資源価格が一旦高騰したが、2023年には落ち着いた。資源高・原材料高は変わっていないが貿易赤字は減少している。海外投資のリターンである第一次所得収支の黒字は異例の高水準が続いている。これは一種の不労所得だから皮肉なものだ。

 

株価の推移:AIなど新材料で高騰

日銀のETF買いはこれまで度々株式市場を支えてきたが2023年の買入額はわずか701億円にとどまった。日銀が植田体制に変わりアベノミクスの出口戦略を目指す中で、2024年には株価下支え政策は終焉したといっていい。それにETFの支えがなくても日本株式市場は伸び続け、株価だけで見ると日本は絶好調である。

日銀下支えと入れ替わるかのように2024年から「新NISA」も開始。人口知能(AI)関連半導体銘柄が新たな投資テーマとなり最近まで株式市場は強気の上げ潮であった。しかし2024年に生きているあなたはAIバブルが終わったことを知っている。

 

金利指標の推移:アベノミクス出口戦略へ

2023年に就任した日銀の植田新総裁は当初は量的緩和継続を示唆したが少しずつシフトし2024年には利上げに向かっている。日米金利差が開き海外ヘッジファンドも日本の金利上昇を狙った国債売り浴びせ。邦銀は7年ぶりに2023年に日本国債売り越しとなり金利上昇が着実に環境を一変させている。そもそも長らく続いたゼロ金利政策は病院の点滴みたいなもので救済効果はあったが「日本経済が力強く再生」とはなっていない。そろそろ点滴を止めて退院すべきであり、植田日銀体制も十分に周知してから少しずつ舵を切りたいところだろうが。。

 

住宅着工件数の推移:若干軟化

 

地価の推移等:リフレ政策以降へ

日銀のREIT買い入れは枠は設けてあるものの2023年は実績ゼロとなった。

 

新車販売の推移:悪材料後退後に不正発覚

コロナ禍や半導体不足の影響が後退し自動車産業に持ち直しの兆し。しかし2023年のダイハツの不正発覚、そして2024年は複数メーカーでの不正も発覚し生産停止などで足を引っ張られることになる。また巨大な中国市場では中国メーカーのEV車のシェアが拡大中で欧米と同様に日本メーカーも苦戦。

 

産業活動の推移:自動車産業不振響く

物価の推移:41年ぶりの高水準へ

消費者物価指数は第2次オイルショック以来41年ぶりの高騰となった。エネルギー費は政府の負担軽減策が奏功しているはずだが食料品など幅広い品目が高騰したせいであろうか。人手不足・賃上げにより値上げを迫られる業者も多かった。例えば輸入と無縁なホテル代も値上がりしている。これまで価格転嫁をしぶってきた企業が苦しさのあまり消費者への転嫁に踏み切ったということか。

 

石油関連指標の推移:国内価格は高騰

円安が進行する中で輸入エネルギーコスト上昇はダブルパンチであり、政府はガソリン補助金、電気代・ガス代補助を続けている。もっとも2024年夏の電気代補助の再開は岸田首相の総裁選に向けた政治的なものであったようである。

 

金属関連価格指標の推移:まばらな動き

 

消費関連指標の推移:急増

商業販売総額の急増は石油等の資源高が、小売販売増加は値上げが影響していると思われる。またコンビニ等店舗はインバウンド消費もあって過去最大の売上水準を記録した。

 

 

労働関連人口の推移:失業・休業落ち着き

生産年齢人口(15歳~64歳)が7500万人を割り、非正規雇用は2000万人を超える。

総人口の減少は2023年で59万人以上で2011年以降連続で減少している。

 

 

失業抑制に奏功した雇用調整助成金の特別措置は2023年3月に終了している。コロナ禍で急増した休業者数も減少傾向にある。

 

賃金統計の推移:アベノミクス以降ほぼマイナス

アベノミクスは「リフレ」とも呼ばれたが実質賃金はほぼマイナスで停滞しリフレは生じなかった。政府は財界に賃上げを何度も促しており実際に賃上げも次々と実施されているが物価上昇を打ち消すレベルでの賃上げにはなっていないということである。

戦後の日本経済のミラクルは上がり続ける実質賃金が消費を沸騰させたというものだがそんな時代があったとは夢のまた夢。

 

日本経済の雑感のまとめ(ガザ戦争勃発)

終わらぬウクライナ戦争にガザ戦争/米国「もしトラ」

ガザ戦争は世界経済に直接影響はないが欧米諸国の社会・政治を揺さぶっている。例えば、スターバックスがイスラエル支持とみなされボイコットで業績不振で社長交代に。

 

ウクライナ戦争がいまだに続いているがウクライナ支援に消極的な共和党のトランプ候補が2024年の大統領選挙に勝てば、日本も大きな見直しを迫られるだろう。共和党はますます内向きで孤立主義の傾向がある。台湾有事ですら共和党トランプ派では期待できない。そもそも国連やNATOなどの戦後世界秩序は専ら米国リベラル派が作ってきたものである。トランプ派は同盟国に甘い顔しすぎたと考えている。冷戦期と違い「世界を守る義務」など背負ういわれがないと。こうした保守はニューディールと世界大戦以前の米国に戻りたがっているようでもある。それは戦後の国際秩序を瓦解させなねない。そんな具合だから再びトランプ政権が成立した場合に米国が金銭的・経済的に損しないなら日本と相談せずに中ロとの妥協もあり得る。

 

現職バイデン大統領が2024年に大統領選辞退を電撃発表しトランプ陣営はこの後出しジャンケンに足をすくわれた形にはなった。民主党候補として副大統領カマラ・ハリスの人気が急上昇しているが、五分五分の戦いに戻っただけであろう。

 

日本でも自民党総裁選が2024年9月に実施されるが米国選挙の結果を見極めてからの方がいいのではないか。岸田首相はあっさりと総裁選不出馬を決めたが、「もしトラ」が実現するならばかつて安倍首相がそうしたように日本の国益のため理不尽なトランプにへつらえる人物が必要となる。

 

米中冷戦前夜

トランプ政権の米中関税戦争に続き、バイデン政権は半導体分野での対中規制を強化している。

オバマ政権期に米国は環境技術で最先端を独走する意欲を見せたことがあったが現在では太陽光パネル、風力発電装置、EVなど環境系はいずれも中国に駆逐されそうである。さらに家庭用品・雑貨・アパレルからパソコン、携帯端末に至るまで中国製に飲み込まれそうである。

 

ところでウクライナ戦争ではドローンの有効性が確認されドローン戦争のようになった。またウクライナはロボット犬も導入するという。さらにヒズボラのような安価な無数のロケット攻撃などが今日の戦場を規定している。つまり安い兵器でのウンカのような攻撃を高級高コストの迎撃兵器で応戦するのは割が合わない構図だ。安価なドローンの生産量において米国は中国にはるかに及ばない。そういった危機感が米国にある。

 

またハイテク機器などに不可欠なレアアースに関しては日本は中国依存をある程度減らしたが米国は2022年においてもレアアース輸入の7割以上が中国からであり、米国内レアアース鉱を再開してもその処理は中国企業に全面依存など、経済戦争としてまったくお話にならない状況だ。そもそも米国は産業統制がやりにくい国柄がある。

 

2023年には日本の福島原発処理水の海洋放出を巡り中国は魚類輸入停止処分に踏み切っている。戦後の日本人が規定していた「政経分離」は尖閣諸島問題以来もはや通用しなくなっている。

中国に代替する規模の国があれば依存脱却はもっと簡単だがインドも日米欧にとって代替となっていないし、代替先がなければ先進国も経済縮小を迫られる。もちろん中国に結局依存している東南アジア諸国についても、対立があっても中国切り捨てなどできるわけがない。それに東京エレクトロンやオランダのASLMは米国の対中半導体規制で適用除外してもらっている。最近ますます右傾化しているイーロン・マスクのテスラも中国市場なしでは立ち行かない。どうもこの冷戦は経済面では分が悪い。

トランプ候補は「超重関税で儲けて所得税廃止」などとはしゃいでいるが、所得税が存在しなかった19世紀に戻れるわけもない。

 

密かに進むか日本のゾンビ企業一掃

2024年のロイターの英字記事によると、経産省など日本政府は密かに「ゾンビ企業」を一掃する意図であることを欧米には伝えている。日本人にはまあ伝えにくいので公式に発表されることはないだろう。商売をたたむか、同業者合併で大きくなることを奨励していくようであり、今後これまでのような救済はなくなる可能性がある。

 

当ブログにおいても、低位均衡を脱するため「資本・労働力を囲い込んでいる不良企業をドッジプラン並みに一掃するべきであり、労働力不足の中で労働力が解放されるのはむしろポジティブだ」と書いたことがあった。戦前の日本通運や宇部興産などは中小合併でできあがった成功例だし、岸らの商工省の商工中金も中小の組合化を奨励していた。零細オーナーの浪花節を克服する必要があるだろう。

 

2024年の日銀による利上げ局面がうまくいけば、ついでに高利に耐えられないゾンビ企業一掃する契機になるだろうし、コロナ禍以降に倒産が増加しているのも、ある意味「創造的破壊」かもしれない。バブル崩壊以降の30年近くに及ぶ過保護政策と日銀の点滴ですっかり軟弱化・老衰してしまった日本企業へのカンフル剤になる可能性がある。

 

日本の特殊性と人口問題

岸田政権は人口減少・出生率低下に「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」と警鐘を鳴らしている。ただ日本は長らく人口が多すぎることに頭を悩ましてきた国なのである。

 

豊臣秀吉の太閤検地では人口は1800万人程度であった。江戸時代には3000万人以上に増加。明治維新以降にも増加し続け二・二六事件の頃には7000万人近くに膨れ上がっていた。明治の頃に外貨稼ぎのためにコメを輸出したこともあったが昭和に入った日本はコメの輸入国、あるいは植民地からの輸入でしのいでいた。満州を世界有数の大豆生産地に変貌させたのも自分が消費するためであった。また1930年代以降の軍備増大は増税だけでなく日銀が紙幣を刷る危険な形で補われたが、その妥当性を問われた際に蔵相達は「大東亜共栄圏によって日本経済が飛躍的に拡大するので膨らませても問題なし」という発言をしていた。つまり日本人の資源・食料を確保する手段なのであった。

狭く田畑が小さく資源の少ない国土に多すぎる人口。この条件が日本の近代史を規定し、帝国主義・植民主義にキャッチアップして外に向かうことになったと思われる。また外務省による移住・移民政策も実施された。「口減らし」という日本語も古い言葉である。

それゆえ終戦となり植民地を失い復員兵だけでなく外地日本人も引き揚げとなると、焦土の国なのに本土人口は増えてしまった。1945年に人口7200万人だったが凶作で本土のコメは4200万石しかできなかったから大変である。朝鮮戦争までの食糧難の時代に8200万人に急激に膨れ上がる。当然コメは輸入しておりビルマ黄変米が問題となったこともあった。岸らは端的に多すぎる人口の一部を戦後南米移民などで外に出そうとし移民先に日本の経済圏もできあがると一石二鳥だと考えていたが、発想が岸らが関与した満州国建設に近いものであり受入国がそんなものを喜ぶはずもなく、人減らしはうまくいかなかった。日本は世銀からも借金して食糧増産のための開墾を進めた。高度経済成長が続く1967年には人口がついに1億人を突破した。当時「人口どんどん」を賞賛する者は皆無だった。増殖する人口が経済を盛り上げるとしても、1億、2億、3億と日本人口が増えていくべきなのか?

1970年代のオイルショックで高度成長も終わり、出生率が初めて低下し始める。「貧乏子だくさん」と揶揄され、少ない子供にしっかり教育を施すこと、「量より質」に社会的な重点も移った。

つまり日本の軍国主義云々もこの特殊な条件=狭い国土に多すぎる人口に依拠したものであるし、戦後の日本経済のミラクルも多めの人口による旺盛な消費欲によるものであったのだろう。例えば、戦後の経済白書では神武景気などを予測できていない。当時のエリートやエコノミストは戦後大衆消費社会がわかっておらず、国際収支などマクロ面ばかりを気にしていたためだが、上げ潮において多めの人口が逆にプラスに働いたのである。それが家電などの耐久消費財の確かな内需を下支えし、メーカーは嬉しい悲鳴と厳しい国内競争で自らを鍛え続けてきた。世界の他の途上国で見られるような単なる安い労賃だけを売りにした輸出依存の富にだけに依存したものではなかった。

だからアベノミクスの本質的失敗原因も、やはり株価や地価や輸出ばかりを見て国内消費をないがしろにしたことであろう。米国流の新自由主義(ネオリベラリズム)の影響なのか、富裕層や不労所得への課税を避けひたすら消費税に財政赤字解消を頼ることになり消費をかなり傷つけてしまった。人口も減ってしまったので今ではインバウンド消費をあてにしている有様である。

 

人口減少、社会思想と下げ潮

岸田政権のようなインセンティブで出生率が増えるものでもなかろう。ポイント獲得でもあるまいし。

保守ならばポイント獲得よりも「結婚し子を育てることこそが人間の幸せなのだ」という保守らしい社会思想運動をやるべきだろう。日本財界は派遣制度を導入する際に「自由な働き方ってすばらしい」というキャンペーンをやって成功したではないか。電通とかインフルエンサーとか総動員してそういうのをやってみたら。

しかし今後50年くらい下げ潮・縮小という不運な時代に遭遇する数世代の犠牲の後で、日本という国家が本来の適性人口というやつにたどり着く可能性もある。