0.5M塩化カリウム水溶液を体腔内に注ぎ込まれ、無理やり放精・放卵させられた哀れなウニたち。
文字通り精も根も尽き果てたウニたちを、キッチンハイターに浸すのは忍びないことなのだが、それもこれも教育のため。もう一仕事してもらわなければならないのだ。すまん。
今回は、ウニの骨格標本作りをしました。キッチンハイターを贅沢に原液のまま使います。イガイガのウニも、一晩で骨だけになります。参考にする方がいたら、密閉容器などを用意するとともに換気に注意してください。
ハイターからウニを取り出したら、スポンジなどでこすって残ったトゲを取り除きます。内部に残った内臓も洗い出します。その後は乾燥させればできあがりです。てっぺんの多孔体と呼ばれる構造はたいへんもろく、すぐに壊れてしまうので細心の注意を払いましょう。塩素臭にさえ気をつければ、簡単な作業といえます。
今回標本にしたウニは、アカウニ(Pseudocentrotus depressus)とバフンウニ(Hemicentrotus puicherrimus)の二種です。いずれも、西伊豆の秘密の岩場で採取しました。
ウニは、棘皮動物門に属する動物です。同じ門には、ヒトデやナマコがいます。なので、身体のつくりはよく見るとたいへん似ています。私はこのことを、次のようなジャンケンの例えで大学で教わりました。
ヒトデがパーだとしたら、ウニはグーであると。ナマコはウニを縦に引き延ばして横に倒れたものだと。
にわかに信じがたいお話でしたが、こうして骨だけにしてみると分かってきます。
ヒトデもウニも、五放射相称という体制を持っていて、左右対称の我々と違い、移動の際に、いちいち方向転換しないで済むところが良いらしいです。
ウニの骨格標本は数学的な規則性があり、たいへん美しく、鑑賞に堪えます。ハイターで処理したものは、エサの海草に含まれる葉緑素やアントシアンが残り、緑や薄紫のパステルカラーに染まってきれいです。
表面のイボイボは、トゲを動かす筋肉がついていたと思われます。長く、立派なトゲを持っている種類ほど、イボイボも大きいです。元はどうだったか写真で見てみましょう。
ここまででも高校生の観察の対象になる価値が十分にありますが、もう一工夫してみます。そのくらいしないと、実験に使われたウニたちが浮かばれません。
採集にも使ったLED懐中電灯を取り出し、口器を外した後の空所から光を差し込みます。
ウニの骨格標本は見たことがあっても、下から光で照らしたことがない方がいたら、ぜひ試してみてください。
こうして照らして見ると、ヒトデがグーになったのがウニだと説明されても納得できます。特に光っているのは、管足とよばれる触手みたいなものが殻の内側から外にでるための孔です。
アカウニも良いですが、バフンウニもきれいです。
日本人にとって、ウニは海産物であり、ウニの卵巣には興味があっても、骨格には見向きもしなかったようです。しかし、ヨーロッパの人たちはこの造形美に古くから気がついており、大きなウニの骨格は、ランプのカサとして利用することがあるようです。
これでランプのカサを作ったら、さぞかし美しいライトアップができるでしょうね。いつか作ってみたいものです。
ウニたちへ感謝を込めてウニの記事を終わります。生物Ⅱの授業で、良い教材になりました。