もし日本経済が振り込め詐欺のおかげで安定軌道に乗っている、とすれば皆さんはどのように感じますか。かつて高齢者から大金を横領して逮捕された若者が「高齢者は無欲。預貯金が多いのに使わない。それを若者が使えば不景気でなくなる」と、自分勝手な論理を口にしたと言います。
 どれだけ報道されても、振り込め詐欺の被害がなくなることはなさそうです。認知件数は未遂を含め、02年には5万件近く、03年は6万件を越え、04年と05年は8万件を越えています。被害額は04年で約280億円、05年は約250億円に昇ります。今年に入ってからは警察の尽力により大規模詐欺グループの摘発が相次ぎ、被害額も減少していますが、上半期だけでも未だ約120億円となっています。(参考資料は「平成18年上半期の犯罪情勢(PDFファイル)」
 これらの数値は警視庁および各道府県警察に寄せられたものの合計です。未だに詐欺だと気付かずにいる人の被害額も含めればさらに拡大するでしょう。さて、これらの数値はいったいどの程度GDPを狂わしているでしょうか?恒等式「Y=C+I」を取り上げて考えてみましょう。理論的にワタシの消費Cは自由に使える額Yの大きさによって非常に左右されるものです。Yに対するCの割合をマクロ経済学では消費性向と言い、この値は平均的に80%と見なせそうです。そして年間の実際の詐欺被害額を仮に300億円とします。
 詐欺で不法に得た自由に使える大金を、彼らはすぐにでも風俗や酒やギャンブルに使うでしょう。その瞬間、Cの額が300億増え、同時にYも300億増えます。ところがYが増えたということは、そのうち80%の240億が必然的にさらに消費に回され、さらに同額だけYも増えます。この増えた額の80%がまたまた消費に回される、というスパイラルが起きると考えられるでしょう。結果、300億の被害は1500億円のGDP増加をもたらし、もしも消費性向が90%なら3000億円95%なら6000億円の増加をもたらす計算になります。
 一方で被害者、特に「貸します詐欺」の被害者は、借金して金を用意して振り込むケースがほとんどです。金は無いのに返済はしなければならない、と今も苦しんでいる被害者もあります。この借金がGDPをまた狂わしている かもしれません。