act.3 彼女の事情 6 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

「中学の時にね、同じクラスに暗い感じで、地味で目立たない子がいたの。だから皆にいつもからかわれてた。……それが段々とエスカレートして……」
 そこまで言うと、由美は思い出したくないと言うように目を固く閉じた。
「担任は知っていたのに、何もしなかった。皆見て見ぬフリしてた。あたしも……怖くて、見て見ぬフリしてた」
 由美は一層強く柵を握ったのを、翼は見逃さなかった。
「……ある日、彼女は自殺した。イジメていた子の名前と、担任が見て見ぬフリをしていたことを遺書に書いてね。……イジメていた子たちは学校にいられなくなって、転校して行った。担任も処分を受けた。だけど、あたしは……見て見ぬフリをしていたあたしは、何も罰を受けなかったの。あたしだって、イジメていた子たちと何も変わらないのに……」
 由美は今にも泣きだしそうだった。
 この子は、ずっとそうやって自分を責めていたんだ。何も悪くないのに。彼女もまた被害者なのかもしれない。
 翼は由美の頭をポンポンと優しく撫でた。すると由美は驚いて、顔を上げた。
「君がそんなに気に病むことないよ」
「でも……」
 由美は再び俯いてしまう。
「その子に似てるから、木元さんが気になる?」
 そう訊くと、由美は静かに頷いた。
「……誰だって、好きで一人でいるわけじゃないと思うの。大人しい性格だから、そうなってしまうだけで……。本当は輪の中に入りたいって、きっと思ってる」
 由美はためらいがちにそう言った。
「この間放課後にね、木元さんが一人でプリントをまとめてたの。いつもは委員長がいるけど、入院してたから……。だから思い切って話しかけたの。たわいもない話だったけど、木元さんは質問すればちゃんと答えてくれた。ちゃんと会話してくれたの。嬉しかった」
 そう話す由美は、本当に嬉しそうに笑った。翼はそれだけで嬉しくなった。彼女は優子の事を考えていてくれたのだ。



web拍手を送る