放課後。優子は入院してる健太の元を訪れた。授業のノートのコピーを渡すために毎日寄っている。
「はい、今日の分のノート」
優子は健太に授業のノートのコピーを渡した。
「サンキュー。悪いな、毎回」
優子は首を振った。
「元はあたしを庇っての怪我だし……」
そう言うと健太は優しく笑った。
「気にすんなよ。俺がちゃんと避けれなかったから怪我したんだしさ」
「でも……」
「ちゃんとやってっか? 学校」
急に話題を変えられ、優子は俯いた。そんな様子に健太は軽く溜息を吐いた。
「もっとさ、自信持っていんだぞ?」
慰めるような言葉に、優子は何も言えなくなる。
健太の優しさが、硬く閉ざしている心の中まで入ってきそうで、何だか怖かった。
「あたしには……自慢できるようなこと……何も、ないし」
「優子……」
「それに……」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。こんな事、健太に言っても仕方ない。
「それに?」
聞き返され、首を振る。
「何でもない」
優子はまた俯いた。
「そうやって俯いたりするから、暗い気持ちになるんだよ。もっと上向いて歩けって」
そう言われたって、どうやって上を向けばいいのかなんて分からない。
「……ごめん……今日は帰るね」
「優っ……」
呼び止められる声が聞こえたが、逃げるように病室を出た。
あのまま健太に優しい言葉をかけてもらっていると、胸の奥が痛くなる。
どうして健太はあんなに優しくしてくれるんだろう?
幼馴染だから放っておけないんだろうか?
だけどそんなことされると、余計に辛くなる。こんな人間のお守りなんてしなくていいのに。
健太は明るくて優しくて、勉強もできて、サッカー部で活躍するスポーツマンで、人望も厚い。
それに比べて自分は根暗で、勉強だけしか取柄がなくて、友達が一人も居なくて、スポーツなんて何もできない。
自分で言ってて悲しくなるが、それが事実。
ふと空を見上げた。晴れ渡る空の遠くで黒い雲が見えた。
「雨?」
あの黒い雲はきっと雨雲だ。優子は急いで家に戻った。