act.1 舞い降りた天使 6 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

 放課後。優子は入院してる健太の元を訪れた。授業のノートのコピーを渡すために毎日寄っている。
「はい、今日の分のノート」
 優子は健太に授業のノートのコピーを渡した。
「サンキュー。悪いな、毎回」
 優子は首を振った。
「元はあたしを庇っての怪我だし……」
 そう言うと健太は優しく笑った。
「気にすんなよ。俺がちゃんと避けれなかったから怪我したんだしさ」
「でも……」
「ちゃんとやってっか? 学校」
 急に話題を変えられ、優子は俯いた。そんな様子に健太は軽く溜息を吐いた。
「もっとさ、自信持っていんだぞ?」
 慰めるような言葉に、優子は何も言えなくなる。
 健太の優しさが、硬く閉ざしている心の中まで入ってきそうで、何だか怖かった。
「あたしには……自慢できるようなこと……何も、ないし」
「優子……」
「それに……」
 言いかけて、言葉を飲み込んだ。こんな事、健太に言っても仕方ない。
「それに?」
 聞き返され、首を振る。
「何でもない」
 優子はまた俯いた。
「そうやって俯いたりするから、暗い気持ちになるんだよ。もっと上向いて歩けって」
 そう言われたって、どうやって上を向けばいいのかなんて分からない。
「……ごめん……今日は帰るね」
「優っ……」
 呼び止められる声が聞こえたが、逃げるように病室を出た。
 あのまま健太に優しい言葉をかけてもらっていると、胸の奥が痛くなる。


 どうして健太はあんなに優しくしてくれるんだろう?
 幼馴染だから放っておけないんだろうか?
 だけどそんなことされると、余計に辛くなる。こんな人間のお守りなんてしなくていいのに。
 健太は明るくて優しくて、勉強もできて、サッカー部で活躍するスポーツマンで、人望も厚い。
 それに比べて自分は根暗で、勉強だけしか取柄がなくて、友達が一人も居なくて、スポーツなんて何もできない。
 自分で言ってて悲しくなるが、それが事実。


 ふと空を見上げた。晴れ渡る空の遠くで黒い雲が見えた。
「雨?」
 あの黒い雲はきっと雨雲だ。優子は急いで家に戻った。



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