for my dear 59 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

「話し合いはどうだったの?」
仕事から帰ってきた爽一郎に一番に問われる。莉緒は上手く言えないので、黙り込んでしまった。
「上手くいかなかった?」
莉緒はコクンと頷いた。
「話、ちゃんと聞いたけど。やっぱり許せない。」
「そっか。」
爽一郎は莉緒の頭をポンポンと軽く叩いた。今にも泣き出しそうな莉緒の肩を爽一郎は優しく抱き寄せた。
しばらくして思い出したように話題を変える。
「話変わるけどさ。結婚式どうする?」
「どうするって?」
「和式と洋式とどっちがいい?」
「どっちかって言うと……洋式。」
急に式の話をされ、莉緒は妙に緊張する。
「OK。そろそろ日程とか式場とか決めないとな。」
「爽一郎。」
「ん?」
「式っていつでもいいの?」
「うーん。大丈夫だと思うけど。やりたい日とかあるの?」
その問いに、こくんと頷く。
「十一月十二日。お母さんが亡くなった日。」
莉緒の気持ちを汲み、爽一郎は頷いた。
「分かった。まだ六月だし、仕事とか都合もどうにか付けられると思う。」
「ごめんね。ワガママ言って。」
「あはは。それはワガママには入らないよ。」
爽一郎は相変わらず柔らかく笑った。


二人は少しずつ結婚式の準備を始めた。
莉緒はやはり父を招待することはなかった。爽一郎はそのことに気づいたが、何も言えずにいた。


籍は式の前日に入れることにした。