ある朝、台北を発ったエイリアンと私は、夕方暗くなってから新宿に降り立った。
その夜はどこかに泊まらなきゃいけなかった。
どこにしようかと迷ったが、探してみた新宿近辺のホテルは
どこも予算オーバーだった。
仕方がなかった。選択の余地はなかったのだ。
たどり着いたのは、大久保のいわゆる連れ込み宿。
確か一晩¥4000~¥6000の間だったような。
今となっちゃ、そんなことはどうでもいい。
エイリアンに訊いたことはないが、私は「そういうお宿」は初めてだったから、
宿に一歩入った時はかなりドキドキした。
宿の人が出てきた。
40代もしくは50代のおねえさんだ。
「いらっしゃいませ。」
はい。いらっしゃいました。
こういうお宿は初めてなので、かなり緊張しております。
ここでエイリアンが一発かました。
「この人はねー、私の彼女じゃないよー。女房よー。」
ええい!黙れ黙れ黙れ!
誰がそんなことを訊いている!
妙な後ろめたさを勝手に感じて、血迷いごとを口走るのはやめろ!
宿のおねえさん、呆気に取られてポカーンとしている。
私の緊張は、この時点で怒りに変わった。
はあ。まったく。このおっさんは...
ところで、こういうお宿って前払いなのね。
宿泊料を支払った後、おねえさんがこう言った。
「靴を預からせて下さい。」
なんで...?
何か理由があるんだろうけど。
防犯上の理由?まあ別にいいけど。
靴を預けた後、エイリアンがもう一発かました。
「すみませんけど、目覚まし時計貸していただけます?明日、朝早いんですよ。」
宿のおねえさんは、再度呆気に取られている。
「ああ、すみません。目覚まし時計はないんですよ...」
ええ、そりゃあそうでしょうとも。ごもっとも。
高原のコテージにだって置いてないわ、そんなもん。
ラジオ体操に備える小学生か。
どこにでも行って、きっちり第2まで済ませてこい!
私の怒りと恥ずかしさは、この時点で頂点に達した。
いい加減にしろ!
ここまで滅茶苦茶のたまうんなら、もう師匠も弟子もあるか!
今はただの夫婦だ!しまいにシバいたろか、このおっさん。
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