⑦ディスチミア親和型うつ病

ディスチミア親和型うつ病が提唱されたのは、
つい最近2005年です。

先の逃避型うつ病や、気分変調性障害(抑うつ神経症、ディスチミア)
と混同されて議論されますが、
ディスチミア親和型うつ病は、
逃避型うつ病でも、
気分変調性障害でもないようです。

(ディスチミアに拘り過ぎなんですね。
中身を見ましょう。)



○ディスチミア親和型の特徴

ディスチミア親和型うつ病を知るには、
逃避型うつ病と比べるのが早いです。
実際2005年にディスチミア親和型うつ病を提唱した樽見氏(故人)も、
「逃避型抑うつと未熟型うつ病との鑑別は今後の課題である。」と語っておられます。


a DSMでもICDでも気分変調性障害の診断には
[抑うつ気分の2年以上の持続]を挙げていますが、
ディスチミア親和型うつ病では、
特に期間の基準はありません。


b 関係する気質(つまり病前性格)は、
ディスチミア親和型うつ病では[アパシー]を挙げていて、
この点も気分変調性障害の[抑うつ性格]と明らかに違います。


c 逃避型うつ病での、
仕事以外の趣味や遊びなどを楽しめる傾向は、
ディスチミア親和型では見られません。


これはディスチミアという言葉が本来、
ユウウツが本業のように、
生活全体を支配していることを指していることに通じます。
(逃避型うつ病の仕事からの逃避の傾向を選択的抑制と呼ぶ)


d ディスチミア親和型うつ病の最大の特徴は、
病院へ自ら進んで受診し、
「ユウウツですからうつ病だと思います。」
などと、
うつ病の診断に協力的な態度を取ります。
(このため専門家は自称うつ と言います。)

逃避型うつ病では、家族の説得や、職場の上司の命令で、
やっとのことで嫌々病院を受診し、
自らを病気となかなか認めないものです。
これがディスチミア親和型うつ病と、逃避型うつ病の最大の相違点です。


e ディスチミア親和型うつ病は「うつ病」という診断結果に安心を覚え、
その後も自分の症状がウツ症状なのか、
繰り返し確認します。
結果、
うつ病から抜け出せないで、
[慢性の軽症うつ病]として、
長年治療を受け続けてしまいがちです。
その期間は気分変調症と同様、
2年以上に及ぶことが稀ではないとされます。


f ディスチミア親和型うつ病の提唱者である樽見氏は、
気分変調症とディスチミア親和型の
相違について、
「一般に気分変調症と診断しうるようなくすんだ感じも彼らにはまだ見られない。
彼らはヴィヴィットとは言えないまでも、
慢性化した抑うつによって心的弾力性そのものを長期的に侵食されたかのような現れは、
まだないのである。
そして臨床場面に現れた彼らは、
気分変調性障害の診断基準にも典型像にも合致しないまま、
大うつ病エピソードの基準を満たすことになる。」

と語っています。


g ディスチミア親和型は[本質的に仕事熱心ではない]とされています。
これは[仕事上のルールがストレスに感じるから]と説明出来ます。
アパシーの状態のかたを無理矢理働かせたら、
当然そうなるとも思いますが、
この点は状況次第で、仕事に熱中する逃避型うつ病や、
元々ルールに則った仕事を好むメランコリー親和型(大うつ病)とは明らかに違います。






○ディスチミア親和型の治療

抗うつ薬の効果がある程度認められるようです。
但し大うつ病の多くのように[スコーン]と良く効くというものでもないらしく
[部分的効果]と言われます。
この点は逃避型うつ病とも似ています。 
また環境の変化次第で立ち直り、
大きく改善することも逃避型うつ病と類似しています。

治療という観点から見て、
逃避型うつ病とディスチミア親和型うつ病は、
ほぼ同じ治療方法が有効と考えて良さそうです。


ディスチミア親和型うつ病とは、
恐らくアパシーの状態のかたを無理矢理社会に適合させようとした結果と推測出来ます。

また、
昨今のうつ病についての情報の氾濫により、
「ユウウツ→うつ病」などという安易且つ、
見当外れな認識により、
自己判断的に「自分はうつ病だから働けないんだ。」
などという言い訳に溺れた状態とも言えます。


うつ病に対する世間の認識も広がり
「病気だから医者へ行って治すもの。頑張れなどと励ましてはいけない。」
といった知識は一般常識化しつつあります。

しかしこうした認識の広がりは、
自称うつ病ともいえるディスチミア親和型うつ病の、
格好の温床になっていると言わざるを得ません。
言わばディスチミア親和型うつ病とは、
現代社会が生み出した新しいタイプのうつ病なのです。

特に企業において、
すぐに精神的バランスを崩すディスチミア親和型や、
逃避型うつ病の早急な対策が求められています。