始まったばかりの人生を語る その5 | 明日は こっちだ!

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◎始まったばかりの人生を語る その5 (ネット検索+ケンチ)
      ★青春グラフィティ
 
  その1~http://ameblo.jp/harenkenchi/entry-11494955640.html

次の日の放課後
若林「俺ら先行って靴持ってくるから」
そう言って若林達は下駄箱から靴を持ってきた
そして俺は促されるままに、一人で正面玄関に行った
その日も、Tは正面玄関の端っこに立っていた
俺が一人で外に出ようとすると
T「先輩!」
俺を呼ぶ声がした
T「今帰りですか?」
俺「そうだよーTも?」
T「私もです」
そう言うとTは笑いながら答えてくれた
T「今日は一人なんですね」
俺「そうだね…」
会話がなかなか進まない
T「話すの掃除の時以来ですよね」
俺「そうだねーwあの時はビビった」
T「先輩、今日は携帯持ってますか?」
俺「持ってるよ」
T「あ、じゃあ良かったらアドレス交換しませんか?
こんなところで申し訳ないんですけど…」
俺「あ、全然いいよ!」
どうやら、Tは本当に俺を待っていたようだ
この時、本当に焦った
まさか本当に俺とアドレス交換したかったって思わなかったから
そう考えると、Tにすごく悪いことをしたような気になった
若林の言ってたことがビンゴだったじゃないか
T「なんか突然すいません…」
俺「いや、全然いいって アドレス交換しようって話してたしね」
T「ありがとうございます」
Tは本当に嬉しそうににこにこ笑った
T「あ、じゃあ…私これで帰ります」
俺「うん、気をつけてね」
T「さようならー」
Tはそう言って笑って手を振って帰って行った
その後俺は少し間をおいて外に出ると、後ろから背中をバシッと叩かれた
俺「イテッ」
礼二「お前 何やってんだよ」
俺「は?教員用の方から出てったんじゃねーの?」
若林「わり、下駄箱の陰から見てたわ」
俺「ふっざけんなよ」
その後いつものように三人で自転車を並べて帰るわけだが
いつになくハイテンションモード
礼二「お前さー!マジさー!一緒に帰れたんじゃねー?」
俺「いきなりは困るだろ」
若林「いけたなーアレは。ってかあれもう完全に惚れてるじゃん」
俺「いや分からんだろー…」
礼二「いいねーーー!!青春はさーー!!」
河原沿いの道を自転車で走りながら礼二と若林は叫びだす
若林「くそがーーーー!!!」
馬鹿丸出しだったと思う
でもそれを見てるのがおかしくって
俺も一緒に大笑いしてしまった

その日早速Tからメールがあった
確か「今日は本当にありがとうございます」みたいな内容だった
本当に律儀な子だ
メールをしてるうちに気付いたが、Tは俺の下駄箱の位置から
俺がケツクラあるいはそのクラス帯である事はなんとなく分かっていたらしい
でもそんなことは全然気にしていないようだし
本当に俺は考えすぎだったんだな
Tからメールで、何か部活入ったほうがいいんですかね?みたいに聞かれたので
部活に入ったほうが居場所は見つけやすいんだろうなぁと思った俺は
とりあえず気になるところは見に行ったほうがいいよ、と伝えた
若林と礼二に出会えたからいいものの、俺は部活やらなかった事を少し後悔してたし
文化系の部活なら勉強とも両立しやすいだろうし
Tなら大丈夫だろうけど新しい環境にすぐ溶け込めるようにしてあげたかった
すると、Tは軽音部に入ることに決めたらしい
校内でギター背負ってる奴とかたまに見かけるし
やる気のないうちの部活の中では貴重な、割とまともに活動してる部活だった
あの小さなTが、ギターかかえてるところを想像するとなんか可笑しかった
そしてTと俺との一件があってから、俺たち三人のサボり病がまたぶり返した
4月最初はなんとかこらえていたが、徐々に耐え切れなくなったんだろう
あの一件以来、若林と礼二の中でTがアイドル扱いになっていた
ずっと待っててくれる健気な天使、と若林が勝手に称し
それに礼二も悪ノリしていた
「最近どうなん?」「あれから進展ないの?」と
しばらくそればっかりになった
けっこうな頻度でメールは来るが、特に進展はなかった
正直、俺はすごく複雑な気持ちで
なんだかモヤモヤしてしまい、授業をよくサボるようになった
Tは本当に俺が好きなのか
もし俺を好きでいてくれてるとして、俺はどうしたらいい?
俺はTが好きなのか?
この時、本当にモヤモヤ悩んだ
何をそんなに悩む必要があったのか分からないんだけど
目の前の状況を受け入れられなかったんだと思う
それで頻繁に礼二と若林を連れ出して授業を放棄した
そんなこんなで、しばらく今までどおりの自堕落な生活を送っていた
教室にいて寝てるか、中庭で時間を潰すか、帰るか
反省せずにたまに屋上に行くこともあった
やる気が起きず、教室でただ寝てるだけって時間も増えていった

そんなこんなで6月くらいになった
Tからのメールは相変わらず来ていて、どうやら軽音部はとても楽しい様子
楽しく過ごせているみたいで良かった
その日俺は昼飯の量が少なくて、腹が減ったので午後最後の授業をサボって帰った
礼二は熟睡していたので放置、若林もメールしたが返答なしだったので
一人でこっそり教室を出て行った
この日は運が悪かった
授業中で生徒に会わないはずなのに
一階の廊下でプリントを抱えたTとバッタリ会ってしまった
T「あ、先輩こんにちわー」
俺を見つけてTが笑顔で話しかけてくる
俺はカバンをかついで完全に帰宅モード、どうするんだ?
T「あれ、先輩帰るんですか…?」
もう、どうとでもなれと思った
俺「帰るよ。サボりってやつだね」
T「そうなんですか…でもそんな時もありますよね。
気が乗らない時は無理しすぎちゃダメですもんね。」
そう言って笑った
どんだけなんだよ、君は
俺「そういうTは何してんの?」
T「あ、先生に頼まれたのでプリントコピーしてきました」
雑用かよ、真面目過ぎる…と思った
俺「手伝おうか?」
T「私を手伝うくらいなら授業に出てください!」
Tはそう言ってまた笑った
俺も苦笑いしながら
俺「そういえば、部活は楽しいみたいだね?」
T「はい!すっごく楽しいです。楽器に慣れてくのも楽しいし、
何より友達がみんな面白くて」
俺「それはなによりだねー」
T「先輩が部活入ったほうが良いって言ってくれたからです」
T「ありがとうございます。」
Tは笑顔でお礼を言ってそのまま階段を上って行った
ありがとうございます
俺に向けられたその言葉の意味が分からなくて
何度も何度も考え込んだ
なんでこんな俺がTにお礼を言われてるんだろう、と思った
何事も一生懸命で真面目に頑張っているT
Tと話して、自分の空っぽさに気付いた
俺は一体何をやってるんだ?
帰り道で自転車に乗りながらずっとそんな事を考えてた
「変わりたい」そんな事は思わなかったけど
変わろうともがいていたのかもしれない
こんな落ちこぼれの自分をTが好きでいてくれるのが嫌だった
なんというか、申し訳なかった

それから夏休みまでの間は、極力授業を抜け出さないようにした
それでも授業はほとんど寝てしまっていたし
進歩なんてほとんどしていなかった
そして何も踏み出せないまま夏休みが近づいていた
舞い上がった俺達は油断して終業式直前の日に
授業をサボって中庭で炭酸ジュースで一杯やっていた
各々自販機で買った炭酸だ
礼二「かーっ!やっぱ授業中に飲むコーラ最高だな!」
若林「おまえそれやめろ」
とか言って完全に油断して調子こいてたわけです
そこを偶然先生に見つかってしまう
しかも運悪いことに、俺たちの担任の先生だった
担任「お前ら何やってんだ?!授業中だぞー!?」
急いで走って逃げた、後ろから「待ちなさい!!」と怒鳴られる
それを尻目に俺らは一目散に校舎に戻って走った
しかし逃げても俺と礼二はダメ
そりゃそうだ、相手は担任なんだから
放課後担任に呼び出された
結局若林も何故だかバレていて呼び出された
こっぴどく叱られるかと思ったが半分もう愚痴だった
「いい加減にしてくれんか?みんな真面目にやってんだぞ?風紀を乱すな。
お前らは本当に不良だよ。」
不良、と言われた事が笑えた
こんな高校の、不良
不良にもなりきれていない中途半端なもんだ
若林「俺たちが不良だってよ!!あほらしーな」
礼二「いえ~い 俺がヤンキーでーす」
俺「マジ可笑しかったな」
帰り道、三人で自転車に乗りながら相変わらずのテンションだった
いくら俺が今の自分に悩んだところで
三人でいると不思議と楽しくて、結局いつも通りになっちゃうんだよな
三人で大笑いして、それが楽しいからいいんだとこの時は思ってた
そんなこんなで担任に不良宣告を受けて
俺たちは夏休みを迎えた
もちろん補習があって学校に行かなくてはならない
しかも今回は日程が分散していてなんだかめんどくさい
それでも俺たちは夏休みが楽しみで仕方なかった
この夏休みにやりたいことが沢山あったからだ

この夏休みでやりたい事
その第一が礼二の漫画の持ち込みだ
とは言えこれは俺がやりたい事ではなく礼二のやりたい事だが
それでも俺たちは礼二が漫画を描くことを凄く応援していたから
礼二が漫画を持ち込みに行くのは他人事ではなかった
俺たち三人でバカをやっている最中
俺と若林は本当にただ毎日を浪費していたのに対し
礼二はコツコツと毎日漫画を描いていたようだ
それも、この夏に持ち込みに初挑戦する、と息巻いていたからだ
礼二は基本賑やかで面白い奴なんだが
時折弱音を吐くこともあった
「漫画を一人で描くのは難しい」「気が滅入る」
まったく絵心のない俺と若林は礼二の漫画制作を手伝えなかったが
弱音を聞くことはできた
礼二が真剣に語る時は、大抵悩んでいる時なんだ
そんな時は俺らも親身になって話を聞いた
やりたい事と現実の狭間で、礼二も不安を感じていたんだろうか
それでも礼二は最後にはいつも「でもやっぱり漫画が好きなんだ」
って笑顔で締めてくれる
そこが礼二のいいところだった
自分の好きな事を真剣に語る礼二を見て
俺はいっつも言いようのない気持ちを抱いていた
憧れのような、焦りのような…
自分も礼二みたいに何かなすべき事が見つかるのかなって不安だった
夏休みに入ってすぐくらいだったろうか
礼二から俺と若林にやけにテンションの高いメールが届いた
礼二の漫画が完成したことを伝えるメールだった

その日俺たちは礼二の家に集合した
礼二「やっとできたんだ…良かったら見てもらおうと思って」
俺と若林はその出来立ての原稿とやらを恐る恐る眺めた
俺たちは、礼二の描く漫画が好きだった
さすがに雑誌に載ってるようなプロよりは絵はけっこう劣ると思うけど
何より話が面白くて好きだった
身内補正だったのかな、それでも好きだった
俺「よく完成させたな、面白い」
若林「俺も好きだよ」
俺たちが軒並み褒めると、礼二も安心したのか
「あ~まじか~~」と唸り声を上げた
思わず全員でハイタッチを交わしてしまった
礼二の夢が始まる気配がして、俺は本当に嬉しかった
「あとは本番だ」と礼二は繰り返し俺らに語った
その日の帰り道、若林が柄にもなく
若林「あいつ、頑張ってるよな。俺も、何かしてえわ…」
と俺に口をこぼしたのが妙に印象的だった
普段、夢とかやりたい事なんて滅多に言わない若林だけに
俺は珍しいこともあるもんだって驚いたんだ
それだけ礼二の夢への前進は俺らにとって大きな事だったんだと思う

その日からしばらくたって、礼二が東京に行くという日がやってくる


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