ありがとう，ご先祖様

ただいま，ご先祖様．

――それから――

おかえりなさい，おじいちゃん．

ご先祖様．今年も帰ってきたよ．

おじいちゃんがそっちに行って，もう３年になるんやね．

僕らは，変わらず元気やよ．

弟は変わらず生意気で，仕事が忙しいからって今年も帰ってこぉへん．

兄は嫁さんと子供を連れて，父さんも母さんも目尻を下げまくっとる．

甥っ子はボキャブラリーが増えてきて，だんだん我侭になってきとる．

こないだ食器をひっくり返して兄に怒られとったわ．

怒られへんよぉに必死に話を逸らせようとしとるけど，兄には通じへんみたいやね．

兄は腹立ててるつもりやろうけど，そこがまた可愛いみたいや．

今年も僕らを守ってくれて，ありがとう．

また一年間，よろしくな．

よろしくついでに，もう一つお願いしたいねん．

実は，守って欲しい人が増えたんよ．

兄の嫁さんと，その子供．

僕にとっては，義理の姉と甥っ子やね．

昨年はお参りでけへんかったから，今年改めてお願いするよ．

――あーでも，よく考えたら――

守ってくれる人が一人減って，守ってもらう人が二人増えたから，差し引き一人増えたのかぁ．

ご先祖様，大変やね．

でもでも，守る側におじいちゃんが回ったわけやから，それで勘弁したってや．

それでも大変やってゆぅんなら――

僕の事は守らんでえぇわ．自分で何とかするから．

正直，不安や．

仕事で潰れてカウンセリング受けてた人間が，自分で何とかするなんて，まるでギャグやしな．

でも，兄や義姉さんにこれ以上負担をかけとぉないんや．

甥っ子のことだけに集中させてあげたいんや．

…やから，な？

お願い，ご先祖様．

甥っ子を，守ってあげて．

甥っ子を守っている兄や義姉さんを，守ってあげて．

おじいちゃんに先立たれて一人ぼっちのおばあちゃんを，守ってあげて．

それが大変やってゆぅんなら――

僕の事は構へんわ．自分で何とかするから．

次に会うのは，年末かな？

おばあちゃんを一人残して帰るのは心残りやけど．

次も，また会えるから．

ご先祖様達が守ってくれとるって信じとるから，心配してへん．

やからそっちでも，安らかに過ごしたってや．

そうそう，最後にこれだけは言っとくわ．

行ってきます，ご先祖様．

――それから――

またな，おじいちゃん．

みんな大好き！