ハラスメント体験記 被害者編 [6] | 半三本のカンフル日記

ハラスメント体験記 被害者編 [6]

私は実習中,開店準備を任されていました.

シャッターを開け,建物の前を掃除する.

展示物を引っ張り出し,観賞植物に水をやる.

それをお客様がくるまでに,迅速に行わなければなりません.


その日,私が植物に水をやっていると常務が声をかけてきました.


常務: 「おい支度しろ.これから納品や」

私:  「あ,はい!」


その時,私は水やりの途中です.

しかし水やりを終わらせようとすると,常務たちを待たせることになってしまいます.

一瞬悩みましたが,私は納品を先に済ませることにしました.

水やりは戻ってきてからにしよう…そう考えて.




そして3時間後.
予想以上に時間がかかりました.

早く片付けを終わらせて水をやらなくては.

そう思って車に積み込んだ部材を降ろしていると.


社長: 「おい」

私:  「はい?なんでしょう」

社長: 「お前水やってないやんけ」

私:  「はい,すいません」

社長: 「放ったらかしにすんな!バカタレ!!」

私:  「…すいません」

社長: 「見てみぃこの鉢!今にも萎れそうやないか!」

私:  「…すいません」


時は夏.

30度を超す気温と強い日差しが,容赦なく水分を奪っていきます.

鉢の中の土はからからになり,草木は元気をなくしていました.


――後から水やりするつもりだったんです.

――水やりの途中で納品に行く事になったんです.


そう言えれば良かったのかもしれません.

しかし,水やりをサボったという事実は消えません.

その事が,私に言い訳を躊躇させていました.

そして私の脳裏には,“叱られたのなら,それは自分が悪いからだ”という認識.

私がサボったと言う事実と,自分が悪いと言う認識

結果,私が100%悪いという構図が完成していました.


社長: 「言ったやろ!実習中は上司に忠誠を誓えって!」

私:  「…はい」

社長: 「実習中は社のために何ができるか常に考えろ!」

私:  「…はい」

社長: 「それこそ寝る間も惜しんで働け!」

私:  「…はい」


私はまるで壊れたCDのように相槌を返すだけでした.

社長の説教に対し,私は返す言葉を持ちませんでした.

ただただ,申し訳ないという気持ちしかありませんでした


そうして15分くらい過ぎた頃でしょうか.

社長が言葉少なになってきました.

どうしたんだろう…終わりなのだろうか?

終わりなら,残った雑務に取り掛かりたい.

早く雑務の遅れを取り戻して信頼回復したい.

でも,「終わりですか?」などと聞ける訳がない.

かといって,そのまま仕事に戻るのも社長の話を無視しているようで,できるはずもない.

…話の続きがないか,社長の様子を伺っていると.


社長: 「…お前何してんねん」

私:  「…?」

社長: 「さっさと仕事に戻れや!」

私:  「はっはい!」


弾かれたようにK社の外に飛び出す私.

そして慌てたように残った雑務に取り掛かります.

(社に忠誠を誓う…つまり,もっと社長達に対して忠実にならなければ…)

(要領よくやる…もっと一生懸命やれば認めてもらえるのだろうか…?)

などという半ば強迫観念に近い感情を抱きながら.

真夏の日差しの中,湿ったタオルで額の汗を拭い去りつつ,雑務を続けます.



…ここで.

「どうすれば要領よくできるか」を考えていれば.

「私が悪い」「社長に叱られた」という事実のみに囚われさえしなければ.

何に対して叱られていたのか,その内容をよく吟味していれば.

あるいは,その後の実習はうまくいっていたのかもしれません.

しかし私は,「要領よくこなさなければ」という漠然とした目標に囚われ,思考が空回りしていました.

その結果….



駐車場を掃除している途中….

社長: 「おい,店の窓拭きをしておけ!」

私:  「はい!」


店の窓拭きをしている途中….

社長: 「いつまで窓拭きしてるんや!次はモップで床磨きしておけ!」

私:  「あ,はい!」


床磨きをしている途中…

常務: 「おい,車に積んでる部材を片付けておけ!」

私:  「は,はい!」


そして部材の片付け途中…

社長: 「おい!窓拭きはどうしたんや!」

私:  「すっすいません,まだ終わっていません!」

社長: 「言われたことはチャッチャとしろ!」

私:  「すいません…」



…何をやってもうまくいきませんでした.

次の指示を頂くまでに,今の指示を終わらせることがどうしてもできなかったのです.

その度に怒鳴られ,謝る私.

(――何をしても叱られるのではないか?)

(――何をやっても迷惑をかけるだけではないのか?)

(――自分は迷惑をかけることしかできないのだろうか?)

(――まだまだ努力が足りない.もっと要領よくならなければ…!)

…そのような考えに囚われていたと思います.


当初は,こう考えていました.

(叱られることは問題ではない)

(叱られせてしまうような事をしている,私に問題があるのだ)

(叱られせてしまうようなこと…つまり,K社に迷惑をかけていることが,辛い


恥ずかしい話ですが,この時点では“叱られる=指導してもらっている”という認識がありませんでした.

ただ,叱られることが,自分がK社にとって迷惑な人間なのだと言われている気がして,辛かったのです.


しかし,いつしか私は怒鳴られること…叱られることそのものに対して怯えるようになりました.

(雑務をしていると叱られる)

(何をしても叱られるんじゃないか?)

(社長や常務が口を開く度に,怒声が飛んでくるのではないだろうか?)

その想いから,叱る人…K社の皆様がいる店内での雑務を避けるようになってきました.

私は,社外の掃除を延々と続けることが多くなっていったのです….




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